6.関連する制度

 

  

 

(1)医療サービスオンブズマン

  

 「政府と個人」の本に記述されている説明を次に掲げる。

 

 医療サービスについての苦情

 

 医療サービスオンブズマン(公式にはイングランド、スコットランド、そしてウェールズにおける医療サービスコミッショナー)は、関係した団体から満足な回答を、あるいは合理的な時間内における回答を得られなかった、NHS(公的(国家)医療サービス)機関や信託機構(Trust)についての苦情を調査することができる。彼または彼女は、困窮や不正が次のようなもののいずれかにより引き起こされたものであるときに調査をすることができる。

 

-サービスが基準に達してなかったり、患者の要請が無視されたり忘れられているというような、サービスにおける過ち、

 

-患者が受ける資格があったサービスを与え損ねた場合、

 

NHS機関による不適正行政-それは、NHS機関が行うことをしなかったか、良くない方法で行ったものである。それは避けられる遅れ、適当な手続きを行わないこと、粗雑な扱いと無作法、決定を説明しないことあるいは苦情に充分にきちんと答えないことを含みうる。

 

 オンブズマンはまた、1995年のNHSにおける公開行為規範に反して、情報の公開が拒絶されていることについての苦情についても見ることができる。

 

 苦情申立人は、その者が苦情が言われる対象となった出来事を知るようになった日から1年の内に、オンブズマンに文書で申立を送らなければならない。(時間の制限は特定の状況においては撤回され得る。)オンブズマンは、彼または彼女が、苦情申立人がそれをすることを期待することが合理的でないと考慮したのでなければ、裁判所か独立した審査会(tribunal)に訴えることができること、そこで救済を求めることができる問題については、見ることができない。そして、そのような手続きが既に始まっているならば、全くそうしたことはできない。また商取引上のあるいは契約上の決定、人事問題、あるいは(1996年の早い時期までは)開業医あるいは医療専門家の臨床診断に関する苦情を検討することもできない。

 

 苦情が受理されると、オンブズマンはまず最初に、事案を調査することが適当かどうかを判断しなければならない。その決定は、理由を付して苦情申立人に送られる。

 

 苦情が調査される時は、ほとんどの場合において、調査官が苦情申立人に連絡をとり、手続きを説明し、そして通常はインタビューを実施する。調査官はまた、全ての関係ある記録と書類(機関に提出の義務がある)を調べ、医療機関職員、そして必要があれば、関連する情報を持っているであろう他の人にもインタビューを行う。支障が生じた場合、文書を要求し、証人を喚問するという裁判所と同じ権限をオンブズマンは有しているが、調査は非公開で、手段は非公式なもので行われる。

 

 調査が完了した時には、オンブズマンは苦情が正当なものかどうか判断し、もしそうならば、彼または彼女が、機関が行うに適当と考える是正-例えば、苦情申立人へ謝罪すること、そして将来において同じような問題が生じることを阻止するための方針や手続きの変更の実施-を勧告する。オンブズマンの最終報告書には、苦情申立人と関係した機関に送られ、その機関が勧告された是正に同意しているかどうかが記述される。オンブズマンの事務局は、適当な期間の後、是正が実施されているかどうかを確認する。オンブズマンの決定に対する訴えは行われない。

 

 医療サービスオンブズマンは年次報告書を議会に提出し、選抜した事案(名前は匿名にしたもの)についての年に2回の報告書を発行する。彼または彼女は、特に重要なもの、例えば1994年に発行された脳障害の患者への長期手当ての提供における医療機関の誤りに対する批判という報告書というようなものも発行し得る。19941995年期において、医療サービスオンブズマンは1,782件の新たな苦情を受け付け、508の不平の原因(一つの苦情は、幾つかの不平の原因を包含し得る)が調査され、306が正当なものとされた。

  

 

事案研究

  

1.緊急の手術が必要とされる生後2週間の子供が4時間かかって別の病院に送られた。それは、その地方の病院の小児外科医も心臓胸部外科医も利用できないと思われたからだ。彼女はその後すぐに死亡した。関係した外科医の一人は、実際、利用することができた。そしてオンブズマンは、生じたコミニケーションの欠落を批判した。またオンブズマンは、苦情の調査が遅れて、浅かったことを見つけた。その医療機関は、緊急時対応の取り決めを見直し、要求があり次第外科医に連絡できることを確実にし、いかなる過ちも記録して理由が調査されることを必要とし、苦情手続きが実施されてその実態が監視されることを確実にすることを助言された。

 

2.上級の記録官は、彼が外来で診た患者に対し、失礼で軽蔑的だった。彼女は彼の行いについて苦情を言ったが、関与した医療機関は、苦情について上級記録官に知らせず、応答において彼の行動について何らコメントをしなかった。オンブズマンは、苦情手続きの実施において、生じた問題に率直に直接にあたり、回答の前に苦情を言われた人と協議するということをスタッフに助言とた。(1994-95年次報告書)

  

 

新統一苦情制度(New Unified Complaints System)

  

  1995年3月において、政府は、内部のNHS苦情制度を病院、地域医療、家族医療サービスをカバーする統一制度を設立することによって再構築する提案を表明した。この新しい取り決めのもと、それは1996年の早い時期に効力を発するが、NHSにおいては二段階の苦情制度が生じることになる。第1は、苦情がサービスの提供者により扱われ、局地的に解決を図ることが目指される。第2は、苦情が満足いくように解決されなければ、苦情申立人は、関与したNHS機関や信託団体に問題の見直しを求めることができる。それらの機関は、その問題を検討する独立した委員会(independent panel)を設立することができる。もし、苦情申立人が第2段階の見直しの結果によって満足させられない時、あるいは、第2段階において非合理的に時間を要していると考えた時には、苦情はオンブズマンに申立されることができる。

 

 議会の賛同により、1996年の早い時期に、オンブズマンの管轄を臨床判断事項そして家族医療サービス開業医(かかりつけの医者、地域薬剤師、歯科医等を含む)に拡げる法律が成立するであろう。

  

 

 1967年法、第11条のAは、議会オンブズマンが医療サービスオンブズマンを兼務していない場合の両者の協議等について規定している。ただ、制度発足以来、議会オンブズマンが医療サービスオンブズマンを兼務しているので、今までのところ、この規定は、あまり重要ではない。

 

 

 医療サービス副オンブズマンのMrs.Isabel Nisbet(イザベル・ニスベット女史)にインタビューする機会を得た(H9.2.11)。その様子を次に掲げる。

 

 

(医療サービスオンブズマンの調査事項)

 

Q:私は、医療サービスオンブズマンの年次報告書の一部を図書館で読んだ。

また、この「政府と市民」という基本的な制度紹介の本を読んだ。更に日本語のいくつかの文献を読んでいる。私の医療サービスオ  ンブズマンに関する知識は、その程度だ。まず最初に聞きたいのは、ここに書いてある新統合制度(New Unified Complaints System)のための法律改正が、予定通り昨年行われたのかということだ。

 

A:そうだ。これは新しいNHS(国家医療サービス)に関する苦情制度についてのものだ。

 

   ここにNHSの新しいリーフレットを持って来た。NHSは、苦情の扱い方を変更することを決めた。そして国の制度が変わった。これは一般市民にそれがどのように機能するかを説明する冊子である。医療サービスオンブズマンはNHSの中にあるわけでなく、独立した存在であるが、NHSの制度が変わったので、それがオンブズマンの働きにも影響を及ぼしている。

 

   また、オンブズマンが調査を行う権限を有する領域も変わった。1996年に立法化されたもので、オンブズマンの扱う事項の範囲が拡げられた。

 

   このように2つのことの変更がなされた。一つはNHSでの制度の変更であり、もう一つは、オンブズマンの権限が拡大されたということである。

 

 最初の変更のことを説明する。NHSにおいて、2段階の苦情処理の仕組みが導入された。あなたが病院に行っていて、苦情を申し立てたいと思ったら、まず最初にその病院に申し立てれば良い。何が気に入らないのかということを言えば、その病院でそれを是正するようにする。これが、我々が「地域における解決(Local Resolution)」と呼んでいるものである。そして、それでもあなたは気に入らなく、満足でなければ、病院に「独立した再調査(Independent Review)」と呼ばれるものを要求することができる。すると病院は、事案検討のためのパネル設置の検討しなければならない。

 

Q:パネルというのは、委員会のようなものか。

 

A:小さな委員会である。

その委員会の少なくとも1人は、病院に雇用されていない者でなければならない。この段階の後においてのみ、苦情はオンブズマンのところへ申し立てることができる。「地域における解決」に満足できず、さらに「独立した再調査」にも満足できないでいる人だけ、オンブズマンに苦情を書くことができる。すると、オンブズマンはその苦情を調査することになろう。

 

 NHSにおけるこの新しい制度は、苦情に関してそれまで、NHSの中に多くの異なった苦情処理制度があって、それぞれ異なったところに申立をしなければならなかったこと等から、人々をよく混乱させていたものを、一つにまとめたものである。改定以前は、開業医への苦情は、NHSのある部署に、病院についての苦情は、NHSのまた別の部署に持っていかなければならないという具合に、異なった制度があった。今は、やり方が統一されたこの1つの制度になった。

 

 これは、苦情がオンブズマンのところに来るには、この全ての過程を通過しなければならないということを意味する。それは非常に長く込み入った過程なので、多くのことが我々のところに来る前になされる。今我々は、どの位の事案が、これらの制度の過程を経て我々のところに来るかを見ているところである。ほとんどの人々が「地域における解決」の段階で満足することが、ものごとを是正する上で最善であり、明らかに好ましい。しかし経験からして、苦情をできる限り先まで申し立てたいと考える人にとっては、それは少数に止まる。

 

 同時にもたらされたのは、次のようなことである。これまでは、臨床事案、医学的問題に関する苦情の扱いは、行政問題についてのものの扱いと完全に分離されていて、オンブズマンは、行政問題についてだけ見ることが認められていた。不適正行政の事案のみである。今回の法改正で、オンブズマンの権限が拡大され、行政事項と同じように、臨床、医学的事項についても見るようになった。それゆえ、彼は、全てのことを見ることができるようになった。これは、医療サービスオンブズマンにとって非常に大きな改革である。それは例えば、彼が、今までそういうことをしていなかったことであるが、彼に助言をする医師と看護婦を雇用したこと等が示す。

 

Q:オンブズマンがそれらの人を雇ったのか。

 

A:そうだ。初めてのことだ。

彼は今、3人の医師の医療アドバイサーを有しており、その内2人は、違う分野の専門の病院医であり、1人は一般医療開業医、家庭医である。また1人の看護婦もいる。彼らは臨床問題について、オンブズマンに助言を行う。またオンブズマンは必要なら、さらなる助言を求めることもできる。NHSの中にパネルがあり、それは、苦情についての専門的な助言を与えることに合意した医師で構成されている。もしオンブズマンが特別に専門的な助言を必要とする場合、例えば、脳障害治療の事案の際に、オンブズマンは、この外部の協力者のリストを使い、助言を求めることができる。以前は我々は臨床事案を見ることはできず、何が行われた不適正行政であるかということに集中していたからで、これは我々にとって大変新しいことである。

 これらが医療サービス事案における大きな変化である。ちょうど今、このオフィスにおいて、古い制度における事案の処理を終了しようとしているところであり、多くのものがまだその進行中であるが、同時に新しい制度における最初の事案を扱い始めたところである。それゆえ、あなたが見たであろう全ての報告書は、古い制度におけるものであると考える。新しいものはまだ少ししかなく、それらについて報告書は出していない。

 

Q:いつ法案は成立したのか。

 

A:効力を発したのは、1996年4月1日からである。

成立は1996年3月21日である。それゆえ我々はまだ、新制度での最初の年を終了していない。

 

Q:今日まで、どの位の事案を受け付けたのか。

 

A:今ちょうどそのことについて会議をやっていたので、ここに資料がある。

191件のレポートを今年発行した。報告のほとんどすべてのものが旧制度の下のものである。処理の進行中のものが約150事案あるがその約半分の75件程度が、新制度のものである。

 

   新制度の下のもので我々のところに来た最初のものは、「独立した再調査」についてのものである。それぞれの病院なり医療機関に、苦情を「独立した再調査」に申し立てることができるかどうかを決定する「召集者(コンビナー)」と呼ばれる人がいる。もしあなたが病院に苦情を申し立てた時に、その「召集者」が、あなたは「独立した再調査」を受けることができないと言った時は、あなたはそれをオンブズマンに訴えることができる。プロセスの早い段階でのものであるので、それが我々のところへ新制度の最初のものとして来た。我々はそういうものを60件ほど有している。そのうち我々が調査したのは、そのうちの20事案である。

 

Q:それは新制度の下のものだが、一種の行政事案であって、臨床・医療事案ではないと私は考えるが。

 

A:召集者の判断の事案は、そうだ、臨床事案ではない。

「独立した再調査」を行わないという決定が公正な決定であったかどうかというものだ。本当に問題となるのは、「独立した再調査」の後に人々がまだ不満足である場合の臨床事項の事案である。もし我々が、臨床事項についての「独立した再調査」が間違っていたと考える場合、問題が起きてくる。「独立した再調査」の後に、オンブズマンが臨床的苦情の中身を見ようとする時にである。現時点でちょうど始まったところである。

 

Q:そうしたものはまだあまり来てないのか。

 

A:大変少ない。

臨床的側面を持ち、我々の医師や看護婦が助言をしている多くの苦情がまだ、非常に早い段階にある。一方また、実際問題として、1996年以前の法による事案の多くのものが看護ケアについてのものである。我々はその多くを、実際そうであったとしても、臨床事案とはカウントしていない。それらは旧制度の下で押し込まれたものであり、実際看護婦の助言者は、その旧制度下の事案で大変忙しい。我々は彼女を得たので、彼女は、我々がそれらを判断するのを助けてくれているからである。それゆえ彼女は、我々の中で一番忙しい人かもしれない。非常に多くの苦情が看護ケアについてのものであり、非常に一般的である。

 

Q:「地域における解決」がこれまでは6種類あったのか。

 

A:6種類とは言ってない。

異なった種類と言ったつもりである。病院についてのものが一つの制度、家族医・開業医についてのものが別の一つ、歯科医についてのものが別の一つ、薬剤師についてのものが別の一つ、臨床問題は行政問題とは別のもの、そして複雑なものとして、特に家族医に対する苦情についてサービス委員会と呼ばれるものがあった。これら全ての制度が一つになった。

 

Q:一つになったので、新統一苦情制度と「統一」という言葉を使っているのか。

 

A:そうだ。

 

Q:一つというのは、それを全て担当する一つの部署がNHSの中にできたのか。

 

A:そうではない。

制度が一種類になったということだ。同じ制度が、同じアプローチが、どこのNHSでも適用されるようになったということである。それゆえ、「地域における解決」段階では、あなたの苦情を扱うのは、あなたの苦情の対象となった機関である。もしウエストミンスター病院で満足できないことが生じて、苦情を申し立てようとした場合、ウエストミンスター病院に申し立てることとなる。彼らはあなたに手紙を書いたり、会合に出席するのを求めたりして、あなたが満足いくように問題を解決する努力をすることになる。イングランドで、500以上の、病院とコミュニティーサービスを管轄する組織であるNHS信託機関(トラスト)があり、約50の医療機関があるが、それぞれが自身で「地域における解決」を目指すのである。

 

Q:わかった。

 

(医療機関への責任追及と苦情)

 

Q:法改正に関して。

医療サービスオンブズマンが扱う事案の範囲については、今までにあなたが話してくれた。ただ、まず、行政事項についてのみ伺いたい。この本に載っている事案について伺いたい。これは、病院内の連絡の欠如により、対処可能な外科医がいたにもかかわらず、他の病院に長時間かかって移され、死亡した子供の事案であり、旧制度の下のものであろうと考える。私は、この事案の処理は理解できる。しかし、通常こうした場合、両親がこの子供の死亡の責任は病院にあると考える可能性というものは存在するだろう。そうした訴えは通常、裁判所に対してなされ、オンブズマンはそうしたことは扱わないと考えて良いか。

 

A:そうだ。

医療サービスで生じている他のことは、より多くの事案で、人々が、病院や医師を裁判所  に訴えるようになっているということだ。彼らを訴え、ほとんどの場合、医学的不注意(medical negligent)を理由に賠償金を求めるものである。医者による医療的不注意の結果として、子供に障害をもたらされたり、脳障害を与えされたりして、残りの人生において、世話の費用を必要とするようになった場合、それらは大変多額であることが考えられ、そういう事案の場合、人々は、オンブズマンではなく、裁判所に訴える。オンブズマンは裁判所とは違った種類のサービスである。オンブズマンが金銭の支払いを勧告するのは、議会オンブズマンの側とは違って、医療サービスの側では、本当にたまにしか生じない。オンブズマンの調査の結果として申立人が得る通常の是正策は、病院による謝罪であり、同じことが繰り返されないために行われたことについての情報である。

   もし、両親が本当に、病院が間違いを起こしたということを認めることを求め、そして他の親が同様な悲しみを受けることを止めさせることを望むのなら、彼らはオンブズマンのところに来るだろう。オンブズマンの調査はただであり、法的助言を求めるのに必要な費用はかからない。我々が望むより我々の処理が遅くなってしまっているということがあるとしても、オンブズマンの調査は、裁判所に訴え、弁護士を雇ったりするより、比較してみるときちんとしていて速い。それゆえ、それはある種の選択的なものと考えることができるが、同じものではない。もし多額の金銭を求めるのなら、裁判で訴える方が適している。もし不適正行政があって、医師がなにかしら悪く行ったということを立証したとしても、ここで医療的不注意を理由にお金を得るということはありそうもないことである。例えばもし医師が大変疲れていて、子供のどこが悪いかということを見抜くことができず、「ただの風邪です。家でおとなしくしていなさい」と言ったがために、子供が死亡したり、大きな脳障害を負ったりした場合、そういう場合は、両親が裁判所に訴える事案である。もし病院の管理体制が悪く、医師がいたにもかかわらずいないと両親が言われた場合、裁判に訴えることはなかなか難しい面があると思う。しかし、非常に難しい領域があり、いろいろと議論されている。

 我々が有する問題の一つは次のようなことである。苦情では、彼らが望むことは、もし病院に悪いところがあれば、「悪かった」とできるだけ早く謝罪することである。なぜなら、それが人々の望む全てであることが多いからだ。しかし裁判所に訴えられた場合、病院の弁護士は「悪かった」と言わないようにと病院に言う。それは、それが、誤りを認めることと認定され、裁判所における譲歩となる。それゆえ、彼らは非常に注意深く言うように弁護士に助言されており、それが時として問題をより悪くすることがある。それは、あなたが自動車事故に遭ったとき、あなたの弁護士があなたに何も言うなと言うのに似ている。それにより、あなたは過ちを何も認めてないことになる。同様なことが弁護士から病院に言われている。英国の医療サービスにおいて、多くのことが心配されている。それは、米国のように多くの医師が裁判で訴えられるようになるのではないかということだ。医師がリスクを負うようなことはしなくなり、自分のことを守るように行動するようになる。

  

(行政事案と臨床事案、金銭的救済)

 

Q:議会コミッショナーの事案と比べて、医療サイドの事案は、

生命に関わったりして、よりシリアスなものと考えていた。ただ、先の議会コミッショナーの課長へのインタビューの時にも、医療サイドではお金を払ったりするのは非常に希だと聞いた。この本の事例でも、医療サイドは、旧制度の下では、行政事項に焦点を置いて、臨床事項にはあまり関わらなくて良かったとのことがわかった。

 

A:あなたはたぶん、臨床事項の方がより重大だろうということを言おうとしているのだと思う。

そして、質問は、将来よりも過去のことについてのものだと思う。しかし、苦情を申し立てる人の中で、大変一般的なものは、入院している老人の身内とのコミュニケーションの不足ということであると思う。例えば、老人の身内はたぶん病院にその老人は特定のものしか食べられないということを言ったのだろう。しかし病院では記録を付けなかったので、老人は、3、4日、食事ができなかった  ということがある。特に最後の病気の場合、それは身内にとって大変重要なことである。それについて非常に強く感じることがある。他のことで、よく悪くなってしまうのは、病院から出される人、病院から家に送られる人で、適切な手配がなされないで、彼らを家で面倒をみなければならない場合の事案である。最悪の事案は、今年度、特別委員会で議論をしたものであるが、ある病院が、老人で、精神的に障害を持つ者、痴呆性老人と言っているが、それらの人でいっぱいの病棟を、そうした病棟を閉めるという政策で閉めてしまって、6人の大変年をとった患者を、それらの人の担当医の合意なしに、その医師が、病院に留めるべきだと言っているのに、家に送ってしまった事案である。それらの人々の介護の手配をなんらせずにである。そして苦情申立人の父親が4日後に死んでしまった。適切な介護がとられることはなく、彼は環境の変化に大変怒り、戸惑っていた。前のオンブズマンのサー・ウイリアム・リード氏はそれは恥ずべき国家の行いだと考え、特別委員会に報告した。だから、臨床事案でなくても、貧しい老人を大変辱めるような扱いをしたものは、重大である。コミニュケーションの欠如、看護ケア、手配が上手くいかないこと等についてのことであっても、それらの影響が大変痛ましい場合、彼らは大変打ちのめされてしまう。私はよく、コミッショナーの補佐としてテレビやラジオからインタビューを受けたりして聞かれることがあるが、ある時、ラジオの関係者が私に言ったことを覚えている。それは身内に話すことについての事案で、確かにそれは重要でないことかも知れない。それは臨床ケア等のことではない。私があなたに話す事案では、実際、身内に話をしなかったものである。それは次のようなものを意味する。ある人は、その妻のガンにより余命6週間であるということを知らなかった。知っていれば彼女を家につれて帰り、世話をしてあげることができたにも関わらずである。医師は看護婦が言っただろうと思って  いて、看護婦は医師が言っただろうと思っていたからだ。それは臨床事案でなくとも非常に重要なものである。深刻な医療的な不注意等は、オンブズマンのところには決して来なくても、旧制度の下でオンブズマンのところに来た事案は、今でも価値を持っていると私は感じている。

 

Q:しかし、今後は、新制度の下で、多くの臨床事案が来る可能性が生じている。

今年度、オンブズマンは3人の医師と、看護婦を雇ったが、その前にはそのような助言者は雇っていたのか。

 

A:いない。

 

Q:本の事案等において、あなた方は、子供の死亡についての医師の責任等を判断する必要はないのか。

 

A:ない。

オンブズマンは、医学専門家の助言を受けたとしても、通常、純粋に臨床事項を判断することはしない。この事案で起こったことは、ある者が緊急サービスに、1人の外科医が対応可能であったのに、2人ともいないと答えたことが、間違いであった。それをたどることができる。子供の死亡について何がそれを引き起こしたかの判断をすることは、オンブズマンの問題ではないだろう。彼はより更にということを拒むことはできないし、言われるようになっていかなければならないこともあろうが、しかし、彼はそれでも行われた不適正行政についての判断を行うであろう。そして常に人々をインタビューしてその事案が何であったかを見いだすことにより、そうした記録をたどることにより、それを行うことができる。例えば、もしその2人の外科医に話を聞いて、そのうちの1人が、「私は一日中そこにいた。だれも電話して来なかった。」と言ったとすれば、それは生じたことの必要な全てであり、あり方を見いだす種類のことである。そのインタビュアーは医者である必要はない。我々のスタッフの1人であろう。通常は、誰もそれをチェックする必要はなく、誰も異議(サンプション)をはさまない。我々は通常はそれを見いだすだろう。

 

Q:新制度では、臨床事案も扱わなければならなくなる。

金銭の支払いによる救済が増えると思うか。

 

A:我々はそうは予想しない。

もし、人々が行うことで、最も取り扱いに注意しなければならないことであれば、医学的不注意について医師を訴えることになるだろう。それゆえ私たちは、その問題を扱わないであろう。ここに我々の出しているリーフレットがあるが、ここには、オンブズマンが調  査できないことについて、少し書いてある。「もしあなたが生じていることによるダメージについて求めているのなら、裁判所のみがそれを判断し得る。」「オンブズマンは、あなたが裁判所や独立した審査会に持っていけるものについては、オンブズマンがあなたがそうすることが合理的だと考えない時以外、それについて見ることはできない。」とある。もしあなたがあなたの医学的不注意の問題を裁判所や審査会に持っていくことがより合理的とオンブズマンが考えるときには、その旨を述べる手紙を書いて、オンブズマンはそれを受け付けない。それゆえ、オンブズマンが医学的損傷についての金銭的勝敗に関与することはほとんどないと考える。 ある種の金銭的救済があるのは、現状においては2種類だけである。その一つは、すでに負担された費用の償還である。一番多いのは、NHSでの手当てについて間違った情報を与えられたので、治療を民間機関で、それはお金を払うことを意味するが、行おうと考えた場合である。我々は時々、NHSに、その民間での治療にかかった費用を払うよう求めることはある。例えば、これは我々の事案では、よくあることなのだが、ある患者がNHSの医者から、この手術を行うには、NHSでは1年ほど待たねばならないが、もしあなたが望むなら、私の個人的にやっているところに来週くれば、行うことができると言われ、それに応じてお金を払って手術を受ける事案である。手術待ちリストが実際は1年ではなく4週間であった場合、病院が悪いということになろう。そうした苦情を年間幾つか受け付ける。

   もう一つの種類の支払いは、もっと小さな額のものであり、不適正行政により引き起こされた苦痛や困窮に対しての象徴的な支払いである。生じた経費を反映するものではない。単にその人が不適正行政により心労を負ったことのしるしである。あなたが質問状の中で言及しているエイボン医療サービス機関が拒否した支払いというものも、この2番目の種類のものである。それは支払った費用の補償ではなく、不適正行政の反映としても支払いである。彼らは実際考えを変えて、支払いをすることにしたが、彼らが主張したのは、彼らは何も悪いことをしていないとは考えないが、今回の支払いを行ったら、他の多くの患者の事案についての先例を作ることになるということである。特別委員会に持って行ったが、エイボン側はその支払いに同意しなかった。彼らはもっと寛大になるべきだということで、機関はそれを持ち帰り再度検討して、支払いに同意した。

 

Q:ちょうど任意の支払いが拒否された海峡トンネル事件を勉強している時に

特別委員会を傍聴したら、エイボン事案で同様なことが目の前で起こった。

 

A:エイボン事案は千ポンド位を話していたのであって、

海峡トンネル事案と比べると、かなり小さなものである。しかし、あなたの指摘は正しい。ほとんどの医療機関は、特別委員会に来た場合、彼らはただできる限り謝罪するだけで、主張を試みることはない。非公開のところでは、オンブズマンは間違っていると考えているかもしれないが。いったん委員会に報告されるとただ謝罪するだけである。主張をすることは、通常だれもそれを信じなかったりするから、一般との関係の面で、価値がないのだ。1、2の人は、エイボンの責任者の彼女のように主張することもある。ほとんど場  合は、自身の心配をするように助言され、その段階では、ダメージを最小限に止めようとする。一般への悪い宣伝ができるだけ小さくなるようにする。もし「申し訳なかった」と言えば、特別委員会はそれを信用し、再び繰り返さないようにと言ってお終いになる。もし主張をすれば、委員会は、その機関がオンブズマンの調査により学んだことが少ないと考える。

 

(議会オンブズマンと医療サービスオンブズマンの兼務)

 

Q:オンブズマンの兼任について伺いたい。

この特別委員会の第4次報告書によると、議会オンブズマンの処理事案の増大と平均処理時間の増加を危惧している。そのように忙しい議会オンブズマンが、なぜ、これまた忙しい医療サービスオンブズマンを兼務しているのか。こういう状況では、両者を分けた方が、多くの事案を処理するのに適していると考える。しかし、この1月に新たに選ばれたオンブズマンも両者を兼ねることになった。法律には、兼務しなければならないという規定はない。

 

A:それは法律ではない。実際問題として今日まで、同一人物が行っている。

特別委員会は、あなたの説明した点で、役割は分けられるべきと提言したことがある。特に医療サイドの仕事のボリュームがより増えて来ていることを考えると、いくらもの人がそう考えている。しかし、これは単なる政府における任命ではない。議会における役割だ。政府のリーダー、首相が、他の政党のリーダーとこのことについて、協議する。その過程で重要なのは、医療サービスオンブズマンは、NHSから独立した存在である必要があり、またある程度それから距離を置いたものでなければならないということだ。英国において、NHSについて、そして医療サービスのトップの人格について話されることは、政治的な、政党間の政治の要素、多くの論争と主張で満ちていると言えよう。医療サービスオンブズマンがそうしたものから、しっかり切り離されることが大変重要だ。彼が(議会オンブズマンとして)政府に対する苦情も見ているということは、彼に分離の程度を与えているというのが、医療サイドからの論拠である。

   私自身の経歴は、ここに、私はこの事務局に政府で医療サービスを担当している医療省から来た。私は、直接に医療大臣の下で働いていた。前の大臣のミセス・ボトミーの下である。彼女は、強く感じていて、願っていたのは、2つの役割を一緒にし続けることである。彼女は、医療サービスオンブズマンは彼女が言うところの汚れた政治的な(ダーティーポリティックス)医療サービスからきちんと分離されているべきだと彼女は強く希望していた。彼女がよく言っていたのは、ポストは(the post would be sprede over her dead body)死に体から切り離されるべきということで、事務次官も同様に感じていた。今の大臣がどう考えているかは知らない。その考え方が普及しているのではないかと思う。それが意味するのは、新しいオンブズマンのバークレー氏にとって、医療サイドの仕事でさえ、我々が考えるように速く行うことができないでいる上に、議会オンブズマンとしての仕事は、明らかに巨大なものである。彼は、より多く権限委譲をしなければ、これ以上両方の仕事をすることはできない。彼のために働いている、例えば私のような人に、あるいは私のために働いている人に対してだ。そういうわけで、いくらかの報告は、彼は全然見ていない。私とか、先ほどここへパンケーキを持ってきてくれたジェントルマン、彼は課長であるが、そういう人がサインをしている。コミッショナーの報告として発行されるがである。法的には、バークレー氏が個人的に書いたことになっている。それゆえ2つのポストを兼ねていることのコストは、権限の委譲であり、スタッフにより責任を負わせることである。1人の人が全てやるのは無理だからである。前のオンブズマンのサー・ウイリアム・リード氏は、大変ハードワーカーであった。彼は非常に速く、ハードに仕事をし、決して仕事をするのを止めたりしなかった。そんな彼でも、人間としてできること以上にやっていた彼でさえ、全部を見ることはできなかった。彼は権限委譲をしなければならなかったし、バークレー氏もそうしなければならない。

 

Q:そんな状況でも、1人の人が任命されたというのは、

また別の理由、例えば、議会との関係で1人の人の方が強力に対応できる等のある種の政治的な理由があったのではないか。

 

A:そういうこともありうる。

ただ、特別委員会は2人の人に分けるべきだと判断している。たとえ2人の人が彼らの前に現れたとしてもだ。私の考えるところでは、彼らのそういう観点は、オンブズマン自身の、より多くの仕事をするため、2人に分けるべきという意向を表しているのではないかと思う。しかし、そうはならなかった。政府は彼らにも(特別委員長)任命に際し相談している。

   バークレー氏が今任命されているが、サー・ウイリアム・リード氏が退任する時が、分離の決定をする時ではあった。 今、バークレー氏は任命されている。彼の在任中はこの状態で行くだろう。私には、その変更の兆しは見えない。変わることはありうるということだけは言える。もし総選挙で労働党政府となったら、労働党はスコットランドとウェールズ議会へのサービスのいくらかの分離を考えているので、バークレー氏が兼ねているスコットランドの医療サービスオンブズマンの役割が変わり、別の人が任命されることも考えられる。彼の役割はウェストミンスターの議会へよりもスコットランドの議会に対して報告を出すようになるのではないか。ウェールズについても同様だ。バークレー氏が3つの医療サービスオンブズマンを兼ねているが、これが変わる可能性はある。

 

(スタッフ)

 

Q:職員数について伺いたい。

 

A:医療サービスオンブズマンの事務局の役職職員数は、

(1997.2.1現在)75人である。新制度により、医療サービスオンブズマンの管轄は拡がったが、苦情申し出までの手続きが整備されたので、医療サービスオンブズマンのところに届く苦情の数が減り、それにより職員数も減る可能性はある。私は、この2ヶ月前に、7、8人の職員を、議会オンブズマンの仕事量の処理を助けるために、議会オンブズマン事務局に移した。

 

Q:この統計のAOIというのは、情報へのアクセスに関する件を扱っている組織のことをいうのか。

 

B:そうだ。

医療サービスサイドにも、議会オンブズマンサイドと同様に存在する。議会サイドでは分離された機関であるが、医療サイドでは全体の機関の一部である。「政府情報へのアクセスについての行為規範」というものができ、それについての苦情は、議会コミッショナーの方へ行く。

 

A:医療サービスについては、異なるコード(行為規範)である。

後からできた「NHSの公開についての規範」と呼ばれるものによる。この情報公開については、市民は、直接オンブズマンのところ  へ苦情が言える。ただ、その規範はあまり働いておらず、現時点では、いかなるそれに関する苦情も医療サイドでは受けていない。

 

Q:コンセプトが難しいと思う。

 

A:そうだ。それに多くの人がその存在を知らない。

1995年6月から6事案程度である。現在受け付けているものはない。

 

Q:あなた(副オンブズマン)も省庁から来ているが、職員の経歴・異動等はどうなっているのか。

 

A:我々のスタッフは、3つのソースから来ている。

調査官については、その約3分の1が政府省庁から来ており、3分の1がNHSからで、3分の1が、他のいくつかのところから来ている。それは例えば、市民相談所であったり、リーガルフォームであったり、いろいろなところから来ている。我々は議会オンブズマン側とは異なって、全ての職員が政府省庁から来ているのではない。確かに合理的な数の職員が、NHSから来ていて、直接にサービスを提供することを経験しているとは大変重要なことと考える。私と、もう1人の副官もまた、たまたま医療省から来ている。私は政府省庁にいたが、NHSの中央管理に関わっていたので、NHS出身者に近くはあったが、それでも、先のコミッショナーは、副官の1人は、直接にNHSから来た者の方が良いと考えていたようだ。

 

Q:どのぐらいの人数の人が1年間に異動するのか。

 

A:医療サービスオンブズマンの事務局には非常にたくさんの職員がいる。

ほとんどの職員は中央にいてオンブズマンの活動を支えている。そのうち、約5分の1の者が毎年変わる。あるいは、4分の1近くになるかもしれない。今、職員がどれだけ我々と一緒にいるか、どのぐらい留まっているべきかを全て再検討しているところではある。

 

(スタッフ研修)

 

Q:毎年、職員教育が必要になると思うが、どのような内容でどれぐらいの期間行っているのか。

 

A:我々は、新しい調査スタッフのために、職務紹介研修コースを有している。

事務局には研修マネージャーがいる。その者の仕事の一つは、そのコースを運営することであるが、約10週間、特別に用意した教室で彼らは勉強を行う。

 

Q:10週間か。

 

A:そうだ。10週間だ。

彼らは全ての調査の段階を、歴史的事案を基礎にした事例研究事例等を使って学習する。インタビューの研修や、調査の全ての段階についての研修を行う。また、いくらかの、NHSについての業務紹介の研修もある。いくらかの人々は、NHSについて、あまり良く知らないからである。知識の部分と技術の部分からなる。我々はこの研修を2年前からスタートさせた。時間の使い方として大変良いということが確かに確認されている。と言うのは、彼らは最初の事案について仕事をする時に、既にそれをどうすれば良いかを習って知っているからである。

 

Q:何人の人が研修を担当しているのか。

 

A:我々は1人の研修マネージャーを有している。

 

Q:日本で苦情制度を導入する場合、中央行政サイドと医療サイドを分けられるかは難しい。

事務局は幅広い対応を求められるかもしれない。

 

A:それは、あなたのところのサービスがどのように組織されているかによると思う。

英国ではNHSが中央政府とは異なったものとして組織されている。医療省を含む中央政府への全ての苦情は我々のところには来ないで、議会オンブズマンの方へ行く。それゆえ、鍵となるのは、苦情の内容ではなく、苦情がなされた、対象となっている機関がどこかということである。NHSは地方の機関で中央のものではない。そして異なる法律で設立されている。非常に異なる責任を有する。NHSが  行った悪いことについては全て、市民は医療サービスオンブズマンに苦情を言うことができる。あ  なたのところでも、苦情の種類を苦情が申し出される対象の機関を分ければ、同様にできると思う。もし医療省に問題があった場合、それは議会オンブズマンの方に行く。中央政府の問題だ。

  

(制度の改善点等所見)

 

Q:医療サービスオンブズマンについての評価と今後の改善点について伺いたい。

今は、大きな制度の変更の時なので、その結果を見ているところだと思うが、もし何か考えがあればお話願いたい。

 

A:医療サービスオンブズマンの有効性について述べるならば、

旧制度においてのこととなるが、彼は、医療サービスのために大変良かったと言えよう。厳格で、公平で、独立した存在であった。そして彼は、上手く行ってなかったことの多くのことについて見直しを行った。そして彼の影響力、彼の報告書により、改善がなされてきた。そして医療サービスの仕事において、特に看護の仕事において、彼の報告書は、研修に、他のことに、非常に多く利用されている。そして非常に多くの公報活動も行ってきた。地方の報道機関は、我々の報告により、人々が関心を示す、地方の医療機関について、ちょっとした良い記事をかけるので、それら新聞社等は、我々の報告を好んで利用した。それは、地方の機関に責任を持たせる上で、実際非常に有効であったので、非常に強い力となった。

   現時点で、あまり良くないことは、我々の調査が時間がかかり過ぎることである。医療サイドにおけるほとんど全ての事案の処理には、1年以上の歳月を有している。議会オンブズマンサイドでも1年以上かかっている。

   また、我々は、我々のところに来た事案の大変小さな数しか調査できないということがある。人々がオンブズマンのところからのもので手にする手紙のほとんどは、なぜ彼が調査をできないかということを説明するものである。それゆえ、彼らは満足できるとは言えない。非常に多くの我々の顧客、一般の人々からの申し出が、オンブズマンからの「ノー」という手紙を受けることで、満足いかないで終わるのである。我々が調査できるものが少ないことは、良い状況ではない。

   そして他のことで良くないことは、人々が依然としてオンブズマンの存在についての認識が少ないということである。

   我々の調査官の調査は大変良くなされていると私は考える。スタッフの行う調査の質は大変高いと思う。我々は、特に苦情申立人へのインタビューを行ったりした時に、よく感謝の手紙をもらったりする。それらの人々は、子供や配偶者を亡くしてたりして、非常に打ちひしがれていることが多い。彼らは泣いていたり、怒っていたりすることが良くあるが、調査官は、彼らを大変良く扱う。そして報告書はわかりやすく、良く書けていると思う。

   しかし調査は遅く、多くの人々を満足させることができず、多くの人々が我々のことを知らない。

    将来においては、新制度の全ての事案が来た時に問題となるのは、たぶんやはり処理が遅くて多くの助けにはなれないということはあるだろう。新制度による事案はまだ少ししかないので、よくわからない。我々は臨床事案を扱えるようになったので、たぶん状況は良くなるであろう。ただ、今のとこと、それに関する事案の数は大変少ない。しかし、我々は多くのものを加えられるかどうか、「独立した再調査」の段階がどのようなことがなされるのか、わからない。

   NHS等の事案について人々は、議会オンブズマンの事案のように、議員を通すことは必要でなく、直接申し立てることができるが、現時点において、医療サービスオンブズマンに来る新制度の下のものは非常に少ない。手紙は多く来るのだが、その多くが調査できないものである。

 

B:我々はどうしてそんなに少ない数しか調査できないのだろうか。

特定の理由を指摘してもらえるか。

 

A:分析するのはなかなか難しい。

1996年前は、臨床事案等で、管轄外のものが多かった。また、苦情対象の信託機関(トラスト)の名前が書いてなかったりするものもある。

 

B:リーフレットを見れば、必要なものはみんな書いてある。

 

A:人々にどうしなければならないというメッセージを届けることは大変難しい。

 

Q:私はロンドンのいくつかの図書館に行ったが、どこに行ってもその小冊子を手にすることはできた。

 

B:それは良いことだ。

 

A:しかし、多くの人々がまだ良く知っていない。

 

B:この小冊子を作るには、ずいぶん時間がかかっているのだが。

 

Q:そしてお金も。

 

B:そうだ。

 

A:6ヶ国語のものを用意している。

 

B:それ以上だ。

 

Q:日本語のものはどうか。

 

B:それはない。それほど多くいないからだ。

 

A:ゴルフ場を除いては。ゴルフ場には日本人対応の特別のクリニックを用意しているところがある。

   我々の事務所は、ウェールズのカーディフにもある。ウェールズの場合は、法律で決まっている  ので、こういう冊子等は、英語とウェールズ語の両方で書かれている。

 

(B:は、同席した議会オンブズマン事務局渉外広報部長ブラマン女史) 

 

 

 

(2)地方行政オンブズマン

 

 

 

 やはり「政府と個人」から、その説明を引用する。

 

 地方機関による不適正行政についての苦情は、イングランドに3人、スコットランドとウェールズにそれぞれ1人いる地方政府オンブズマンにより扱われている。

 

イングランドにおける地方政府オンブズマンの管轄がカバーするのは、

 district(地区(郡部の町村に該当、ロンドン等は、大都市圏ディストリクトと表される))、

 borough(自治都市区(政令指定都市の特別区に該当))、city(市)あるいは、county(州(郡部の県))の councils(地方議員()(地方自治体))(town(町)、parish(教区)の地方議員を除く)

New Towns(新都市)委員会あるいは新都市開発自治体(住宅問題のみ)

urban development corporations(都市開発自治体)(市、州計画問題のみ)

English Partnership(イングランドの共同組合)(市、州計画問題のみ)

housing action trusts(住宅事業信託機関)

-警察、消防機関

local authority joint boards(地方機関合同委員会)(国営公園委員会を含む)

-国営河川機関(食糧防疫そして排水問題のみ)

-ノーフォーク、スホールク委員会機関

-教育訴訟委員会

 

 苦情がオンブズマンに対してなされる前に、地方議員(団、英国では、地方議員が行政も分担して行うので、あるいは地方自治体と訳して良いかもしれない。)は、その独自の苦情手続きで扱う機会が与えられなければならない。苦情申立人はまた、地方議員に問題を扱うよう求めることができる。もし問題がこれらをとおして解決されない場合、苦情申立人によって、あるいは地方議員を通してオンブズマンに苦情が送られることができる。

 

 もしオンブズマンが不適正行政により生じた不正を見つけた場合、彼または彼女は報告を発行し、地方議員は、報告を考慮し、オンブズマンに、それについて何をしようとしているかということを言わなければならない。これらの事案のほとんどにおいて地方議員は苦情申立人の不平の種を是正する。地方議員は、補償を支払ったりものごとを良くするために他の行動を起こし得る。

 

 もし地方議員の対応がオンブズマンを満足させない時は、彼または彼女は何がなされるべきかを言ったさらなる報告を発行するであろう。この報告は全ての地方議員によって検討されなければならない。地方議員がもしそうすることを断る時でも、オンブズマンは地方議員に行動をすることを強いることはできないが、彼または彼女は地方議員の拒否について、地方新聞に声明を載せるためのアレンジができる。

 

事案研究

 

1.夫婦がスコットランドの地方政府オンブズマンへ、隣人の土地から庭を移すことを断られた時に彼らの芝刈り機を徴税人が間違って持っていったということを地方議員が否定したこといついて苦情申立を行った。彼らは地方議員が彼らの損失について補償を断っていたので、苦しめられていた。オンブズマンの調査により、彼らにより後に受け入れられた補償の申し出がその夫婦に対して機関が行った。

 

2.階段の電気料の間違った請求についての事例。()

 

  イングランド地方行政オンブズマン事務局、調査・出版マネージャー、デビット・ナイス氏(Mr.David Nice)にインタビューを行う機会を得た(H9.2.13)

 

(地方オンブズマンの職務)

 

Q:地方政府オンブズマンの職務についてお聞きしたい。

 

A:ここは、地方政府オンブズマンなので、我々は、地方自治体の行為に関わることをする。

イングランドに自治体は400程ある。イングランドには多くのオンブズマンがある。非常に一般的に普及したものとなって来ている。最初のオンブズマンは、1967年に設立された議会オンブズマンで、政府と公務員に対する苦情を扱う。地方政府オンブズマンは、1974年に始まった。現在イングランドに22のオンブズマンがあるが、それは政府、医療サービス、地方政府というような公的なオンブズマンだけではなく、民間のビジネスもカバーする銀行オンブズマン、保険オンブズマン、そして最近では葬式オンブズマンもできた。

   我々の制度で大変重要なことは、独立した人が行うということだ。オンブズマンが、苦情の対象となる組織から、完全に独立したものであるというは、決定的に重要なことだ。我々の問題の一つは、オンブズマンという言葉が、一般に普及するに従って、苦情対象から独立したものでないところでも使うようになって来たということである。ある新聞についてはオンブズマンがいるが、彼は新聞社に雇われている者だ。雇われているものであっても、苦情を扱う者を置くことは良いことだが、彼をオンブズマンと呼ぶのは、独立しておらず、雇われている以上、問題があると私は考える。

   オンブズマン協会というものがあり、いろいろな出版物を出したりしている。これはそこで出しているオンブズマンの領域という冊子だ。これはオンブズマンのやっていることを説明するとともに、オンブズマンは独立したものであるべきだということを強調している。独立した存在であるオンブズマンのみが協会に入ることができる。

   また、この冊子は、多くの異なったオンブズマンを示している。いろいろなオンブズマンがいるので、少し人々が混乱してしまっており、もし苦情を有した時に、どこに持っていったら良いかわからないことも多い。我々は、この冊子を、弁護士とか、市民相談所等の、誰でも人々に助言を与える人に、配布している。それらの人々は、一般の人々から相談があった時に、この冊子を見て、適当な助言をすることができる。

   イングランドにおいては、3人の地方政府オンブズマンがおり、国が3つの部分に分けられている。ただ、全て一つの組織の下にあり、本部はここロンドンである。コベントリーとヨークに事務所を持っており、それぞれにオンブズマンがいる。我々が作っているこのリーフレットは、欲しい人には誰にでもあげているが、我々が何をやっているか、苦情をどのように申し立てるかについて、簡単に書いてあり、苦情申立用紙も一緒になっている。この用紙を使わなくても良いが、苦情申立は、法律により、文書でなされることが必要とされている。

    地方政府オンブズマンは、女王陛下により任命され、女王陛下によってのみ罷免される。事務局の費用は中央政府から出ており、それゆえ、いかなる意味においても地方政府から独立している。

   オンブズマンの判断は最終的なものである。誰もこれを覆すことはできない。もちろん他の多くの公的機関のように裁判所の管轄下にある。もし、誰でもオンブズマンが不法に行動したと考えた場合、彼らは裁判所に対して申立をすることができる。他の省庁、地方自治体、あるいはいかなる公的機関に対してできるのと同じようにだ。もし、裁判所が、オンブズマンが不法に行動したと判断した場合、彼らは、決定を破棄するが、違う決定をするのではなく、単にオンブズマンに「事案を今度は適法に見なさい」と言うのである。だから、やはり、決定を覆す訴えの一種と言うわけではない。

 

Q:私も、議会オンブズマンの事例で、裁判となったものの記事を読んだ。

 

A:あれは、大変興味深い事案である。

まさにそれは一例である。裁判所は、オンブズマンが事案を適正に見てきていないので、もう一度見直しなさいと言ったものである。そんなに多く起きることではない。我々がジュディシャル・レビュー(行政についての司法審査)を受けるのは、大体1年で1件地方自治体から、6件ほど住民からという具合である。

   我々は非常に多くの事案を扱っている。1年間にイングランドで1万5千件の苦情を扱っている。

 

Q:1万5千件か。

 

A:そうだ。苦情の数は年々増加している。

   1974年の制度発足から、今年度までである。今年度は、そうではない。これは今までで初めてのことではある。そうした意味で、我々は徐々により一般に普及して来ている。

    我々は年次報告書を出している。ご覧のように厚いものである。この1年間の活動を全ての人に知らせるためのものである。ここの中の統計等で、苦情の数や、どのような苦情があるかといったことがわかると思う。一番多い苦情の種類は住宅問題であり、次が都市計画である。毎年、この2つで、我々の仕事の約3分の2を占める。典型的な住宅問題の苦情としては、「私は、自治体に、公営住宅を与えてもらうことを希望したが、与えてくれなかった。」「私は公営住宅に住んでいるが、屋根が壊れたのに自治体が住宅の修繕をしてくれないでいる。」と言ったものである。公営住宅は、自治体が作って貸している住宅だ。住宅を購入したり、民間住宅を賃貸するのに困窮を伴う低所得者層が対象なのは事実だ。都市計画の典型的な事案は、住民が隣人が何かを許可されるのを嫌う場合である。「隣人が、その家を大きく増築する許可を得たが、私の家の庭を取り囲むようになるので、自治体はそれを許可すべきでない。」というようなものである。

   我々が扱うのは、不適正行政である。あなたはこの用語について、既に知っていると思うが。

 

Q:はい、なかなか難しい言葉だが、

 

A:確かに難しい。しかし、決定的に大切である。

多くの人が申し立てたいと思っている苦情には、単に自治体の決定が気に入らないとか、決定が良くないと思っていたりするからというものも多い。我々は決定が良いとか悪いとかは言えない。我々が言えるのは、自治体の行為の方法で悪いことがあった、彼らが間違った手続きを行った、決定に時間がかかりすぎた、間違った情報を与えた等である。この冊子にこれら批判される対象をリストにしてある。一番多いのは、理由なき遅れである。その他、何かをしなかった、助言が不充分だった、調査が不適切に行われた等、36をリストにしてある。普通、これらは不適正行政となる。ここではまた、いくらかの事例研究も見ることができる。これらはいくらかの苦情の例である。

 我々はまた、地方自治体のために公報を出している。この主な考え方は、彼らになされた批判の例を与え、サービスを向上させ、同じ間違いを繰り返さないようにさせることである。いくらかの苦情、批判の例、助言等を与えるようになっている。

 存在する制限で、それは法律上の制限であるが、たぶん、一番重要と思われるものは、我々が見るのは個々人の苦情であるということだ。苦情は、地方自治体が不当に行ったことが、私に個人的に影響を及ぼしたということでなければならない。自治体が、隣人を不当に扱ったと考えるといった苦情は扱うことはできない。また、その地域全体に影響を及ぼしたことについての苦情も扱えない。例えば、自治体が、議員全員用に、ロールスロイスを購入して多くの費用を払っているのは、税金の無駄遣いだというようなものだ。そうしたものは扱えない。たぶん不当なことであろうが、納税者全体に影響を及ぼしている問題だからだ。個人的に影響を及ぼしている、あるいは、ある一つの通りに住む人々にのみといった、グループの住民に影響を及ぼしているというものであることが必要で、全住民の問題は扱えない。そうしたものは、住民にとって、会計監査制度のような、是正を求める他の手段がある。住民は、会計監査官に、費用の無駄使い、自治体による違法な支出等の申立をすることができる。我々は、純粋に、個々人からの不適正行為による問題で、小さな人が、官僚制度と闘うというようなものを扱う。

 他の重要なことで我々が行っていることは、我々は、不当に行われたことを見つけることと同じぐらい、不当に行われることを防ぐことに興味を持っているということだ。我々が自治体を批判する場合、大変よく、手続きを改善すべきであるということを提案する。そうして、問題が再び起きることを防ぐのである。それは通常、住民にとっても大変重要なことである。なぜなら、彼らは、「私は、自治体の行為によって、ひどい時間を過ごさなければならなかった。私は、いかなる他の人もこれを経験することを望まない。もっと改善して欲しい」と言うのである。それゆえ、これは我々の仕事の中で大変重要なことの一つで、何が不当に行われたかを責めるより防止の方がである。これらの出版物は、そうした仕事の一部を担っており、自治体に送られている。何が不当に行われ、どう改善すべきかということが書いてある。また助言ノート「良い行政の実施」というものも出している。42の主要な良い行政について記載されており、これらは、基本的に地方政府オンブズマンの事案処理の経験に基づいているものである。地方行政の改善を助けようとするものである。

 

Q:日本の委員会での議論でも、そうした行政手続きの改善の機能は重要視されている。

 

A:間違いから学ぶべきである。自身の間違いのみならず、他人の間違いからも学ぶことが大切だ。

 

Q:先ほどの話では、事務局の費用は、中央政府から出ているというが、予算はどこに計上されるのか。

 

A:環境省(the Department of Environment)である。

年次報告書には、決算も載せている。我々は200人のスタッフを持っている。そんなに大きな組織ではない。

  

(選任方法)

 

Q:地方政府コミッショナーの選任の方法について伺いたい。

 

A:地方政府コミッショナーというのは、一つの呼び方だが、

地方政府オンブズマンという呼び方の方が一般的に普及している。コミッショナーというのは確かに議会で設立された時の名前である。しかし、機関が発展するにつれ、誰にでもその役割がわかるものとして、オンブズマンという名前が使われるようになったと考えている。コミッショナーという名前は一般的で、歳入コミッショナー、地方機構再編コミッショナー等、よりたくさんのものがある。それゆえ、我々は、地方政府のオンブズマンという言葉を使った方が良いと考えるようになった。

   地方政府オンブズマンになるのには、特定の資格が必要というわけではない。オンブズマンはどんな経歴の持ち主でも良い。例えば弁護士や他の法曹経験者でなければならないということはない。

 地方オンブズマンは、広く一般に募集され、それゆえ誰でも応募することができる。そして環境省で応募書類を審査し、インタビューを行い、最終的に大臣が推薦を女王に対して行う。女王がこれを受け入れ、その者に対し勅命による地方オンブズマンの任命辞令が出される。

 3人の地方オンブズマンがイングランドにはいるが、それぞれ異なった経歴の持ち主がなっている。1人は上級公務員の出身で、1人は法学部教授で、もう1人は、地方自治体の事務局の長官であった人だ。1人だけが地方自治業務の経験者だ。

   調査員の経歴は、約半数は、地方自治体の業務経験者で、残りの半分はそうした経験はない。いろいろなところから来ており、ある人々は市民相談所の経験者であり、弁護士、元教師、元警官等もいる。このようにスタッフも弁護士である必要はない。仕事の種類の中には、弁護士に照会するものもあるが、我々自身としてはそんなに多くの弁護士を有していない。それは、我々が地方自治体に適用される法律については、理解しているからである。また我々は理解していなければならない。

 任命はそんなに多く行われることではない。それは終身の任命である。オンブズマンは65歳なったら退任しなければならない。女王だけが、悪い行いを理由に罷免することができる。そのようなことは今まではなかった。

 

Q:平均的なオンブズマンの任期はどれ位か。

 

A:10年位だと思う。

現在のオンブズマンのうち、1人は10年ほどやっており、他の2人は、3年と4年位だと思う。もちろんその2人は比較的若いので10年位、あるいはそれ以上やることになろう。

 

 (議会オンブズマンとの関係)

 

Q:議会オンブズマンと地方オンブズマンの関係について。

議会オンブズマンの事務局に行った時に、「この苦情は議会オンブズマンの所管ではなく、地方政府の問題である」と苦情申立人に説明することがよくあるということを聞いた。

 

A:まさにそうである。

我々の仕事の一部は、問題についてどのオンブズマンが扱うのが適当であるかということを見つけることである。それは、人々を混乱させ得るもので、時には我々にとっても混乱をもたらすものである。我々は、人々からの接触を、議会オンブズマンの方に持っていくよう指示したり、あるいは、保険オンブズマンや銀行オンブズマンへのものもある。我々は非常に多くのもので、我々でなく他のところへ持って行くべきものを受ける。我々は、他のところへ持っていくよう指示をする。それが1つの点である。

   第2の点は、オンブズマン同士の間で、非常に多くの議論が行われているということである。一部はオンブズマン協会を通して、一部は地方オンブズマンの間で、あるいは公的オンブズマンの間でである。我々はよく同様な問題、同様なことで考えなければならないことを有するので、他のオンブズマンがどうしているかということを知ることは非常に重要である。

   第3の点は、2つの理由で、我々は議会オンブズマンと特別の関係を有する。1つの理由は、議会オンブズマンが一番長い歴史を持つ公的オンブズマンで、彼の働きは、他のどのオンブズマンの働きより、我々の働きと似ているからである。2番目は、機構として、我々はイングランドにおける地方行政委員会というものを有している。その機構が庁舎等を手配し、スタッフを雇い、経費を扱っている。その委員会は、我々の3人のオンブズマンと議会オンブズマンの4人が委員会を形成している。議会オンブズマンは我々の苦情の事案を何ら扱わないが、業務管理団体を構成するのである。それゆえ、我々は議会コミッショナーと特別な関係を有している。

 

Q:ドイツには議会オンブズマンがなく、議会の請願委員会が苦情も扱っている。

私が訪れて請願委員会の事務官に、なぜドイツにオンブズマンを設立しなかったのかと聞いたところ、地方にオンブズマン組織がなく、中央のオンブズマンが受け付けた苦情が地方の問題のときに、それを扱うところを作らなければならないということを理由の一つとしていた。英国では、1967年に議会オンブズマンができ、1974年には地方オンブズマンが設立されて、74年以降は、両者が動いているので、住民にとって、問題はなく、苦情を申し立てるのに良い状況になっていると考える。

 

A:我々も、大変良いと思う。

ただ、言っておかなければならないのは、スコットランドには、地方オンブズマンがおり、ウェールズにもいるが、北アイルランドでは、1人のオンブズマンが政府と地方政府の両方の苦情を扱っているということだ。その人が両方を兼ねた仕事をしている。我々とは別の組織だが、実際良く意見交換等をしている。やっていることが似ているからである。

   また、制度においてもギャップがある。我々の仕事には法的な制限が存在し、ある地方政府の行為は我々の管轄から除外されている。例えば、これは大きな問題なのであるが、どんなことでも学校の中で行われたことについては、除外されている。子供の家、老人ホームで起きたことは、我々の管轄に含まれるが、学校で起きたことは除かれる。それゆえ、住民が関わる大きな領域がオンブズマンに苦情を申し立てられないものとして存在している。これがギャップの例である。他にもギャップが存在する。それゆえ、我々は、設定されていることに満足はしていない。常に我々の主張は、苦情を他の方法で申し立てることができなければ、単純に、地方政府の行った全てのことは我々の管轄に入れるべきだということである。もし住民が大臣や審査会(tribunal)に訴えを書いて送った場合、通常我々はその苦情を扱うことができない。我々は裁量の余地があるが、通常、それを扱わない。なぜなら、それで充分だと考えるからだ。制度を通し、独立した機関に訴えているからだ。オンブズマンの制度はそうしたことができないギャップをうめるものだからである。

 法的な制限で、住民が不平を裁判所に持っていける時は、我々はそれを扱わない。しかし、これ  にはより複雑な問題がある。なぜなら、裁判所に持っていける多くの問題で、通常の住民が不適正行政を被ったのが大変小さなことである場合、弁護士を雇って、費用を払って、リスクを背負い、裁判を行うことは合理的に期待できないと我々は考える。例えば、雨漏りがするのに自治体が修理をしないのは、住民は自治体を裁判所に訴えることができるかもしれないが、通常、公的住宅に入  っているのは、貧しい人々であり、そうしたことしなければならないと考えるのは合理的でない。こうした場合は、我々は裁量権を行使し、ほとんど常に住宅修繕の問題は取り上げる。しかし、一般的には、裁判所に持っていけることは、それが正しいとする。

 他の点で重要なのは、我々が自治体が可能な限り苦情を自身で扱うことを期待するということである。我々は法律による要請として、自治体が苦情を扱う合理的な機会を有していた時のみ、苦情を扱うことができる。もし住民が問題があった時に、まず直接我々のところに苦情を持って来たときには、我々はそれを自治体に送る。それゆえ、我々は、住民が満足いく解決を自治体から得られなかった時の、最終的な機関である。

  

(スタッフ)

 

Q:スタッフについて。人数、常任職員かどうか、交流、研修等について、伺いたい。

 

A:スタッフは200人で、ほとんどが常任職員である。

臨時職員もいるが、常任職員の任命の間を埋めたり、予算が年々変わること等による臨時のポストのための職員であったりする。時として他の機関から出向して来ることもある。地方自治体からの者で、中央省庁からの者ではない。そうしなければならないということはないが、現状ではそうなっている。概して、自治体からの人材を、その経験を求めて、ある程度確保していることがある。

 職員教育は、いわゆるオン・ザ・ジョブ・トレーニングと呼ばれるもので行っている。オンブズマンのスタッフになる教育のコースといったものがあるわけではない。我々は、いくらかのコースというものを利用しているということはある。調査官とタイピスト、コンピュータ管理者等と分けると、調査官以外は、ここで働くのに、他の省庁等で働くのと違う知識がいるわけではない。それらの訓練の機関で技術を身につければ良い。調査官は、地方政府で何が行われているかについて、合理的な知識を身につけることをしなければならない。いくらかの人は、その経験を持って来ているが、他の人はそうではない。それらの人々は、我々のワーキングメソッドにより身につけなければならない。基本的には、上級職員や他の同僚から説明を受け、他の人々の働きを身ながら、指導を受ける。我々は、いくらかの人を外部のコースに送って特定の専門的な知識を得させている。大きな研修のコースがあるわけではない。仕事の中で訓練していく。

 

Q:そういうときには、何かマニュアルのようなものを使うのか。

 

A:そうだ。我々はこうしたマニュアルを持っている(赤と緑の2冊のファイルを示す)。

全ての調査官はこれらを持っている。どう仕事をしていくかということが書いてある。

  

(苦情処理の過程)

 

Q:苦情処理の過程について伺いたい。

 

A:基本的に速い処理方法と遅い処理方法がある。

 

Q:ある種の「2車線」方式か。

 

A:ある種の「2車線」方式である。

90%のものが、我々が速い処理方法と呼ぶもので処理されている。それはいろいろなものをカバーしているが、本質において、それらは、苦情を書面上で扱って、書類で応答するものである。

   我々のところに来る苦情で、我々の管轄ではないと判断されるものが、全体の約10%である。それゆえ、かなり多くの場合に、我々は「残念だが、実際それは我々の管轄ではない。」と言うことになる。もし別の方法で苦情を申し立てることができる場合には、その助言を行う。こうしたものの処理は大変速く、2、3週間かそれ以下である。

  (速い処理方法の)他の約10%のものは、我々が「時期尚早」と呼ぶものである。その意味は、自治体がまだそれを扱う合理的な機会が与えられてないものである。そうしたものは我々は扱わず、自治体に送り、苦情申立人に「自治体がまずそれを検討し、もしそれがなされ、あなたがそこで出た結論に満足できなかった場合には、またこちらにもってくることができる」と言う。こうしたも  のは、合理的に速く処理できるものである。

 他に、苦情を見た場合、そこには何も取り上げるものがないものがある。苦情申立人が単に自治体の決定を気に入らないというようなもので、いかなる種類の不適正行政も示していないものである。それらに対しては、「我々は、そのような苦情は受け付けられない」と単純に答えるだけだ。

 残りの多くのものは、我々が自治体を調査するものである。まず自治体に苦情のコピーを送り、  コメントを求め、特定の質問についての回答も求める。苦情申立人はこうしたことがなされたと言  っており、我々はそれが事実か確認する。通常、10位の質問のリストへの回答を求めたりする。

 自治体からコメントを得た後、通常我々は、それを苦情申立人に見せ、見解を求める。これらの過程の結果、ほとんどの事案において我々は苦情についての考え方を得る。それには3つのものがある。1つ目は、文書の交換を基礎に、苦情を、正当なものではないと結論付ける場合である。自治体にいくらかの間違いがあったのは認めるが、苦情申立人に何ら不正をもたらしていないとし、それでお終いとする場合もある。3つ目は、よく起きることであるが、自治体が、自分たちの行いが悪かったことを認め、問題解決のために何か行うと言う場合である。これを我々は「地方での解決(Local settlement)」と呼んでいる。自治体が何か行うことに、我々が満足がいくと考えるように、かなり早い段階で、同意した場合、解決のため何らかの行動が採られたり、何らかの補償の支払いがなされたりする。そうすると我々は、苦情申立人に、「これが悪く行われたことで、これが、それを是正するために自治体が行うことで、我々はそれに満足している」という説明の書簡を送ることで、苦情の扱いを終わらせる。我々は通常、苦情申立人に我々が最終的な結論を出す前にコメントをする機会を与える。この自治体の行動が、問題を解決すると考えるが、最終的な結論とする前に、あなたはどう考えるかということを苦情申立人に聞くのである。毎年約2,000件のものがこの「地方での解決」である。苦情が正当なものとされ、その段階で、是正のための施策が自治体により採られるのである。

 こうしたものをはじめ、かなりのものが、速く処理が行われる。

 他の10%は、自治体からコメントを得た段階で、我々は間違いがなかったというのには満足せず、そこには間違いがあったはずだと考えるが、自治体が何も認めない場合で、完全な公式の調査を始める必要がある。より詳細に、よりわかりやすくするように調査するのである。当然、我々が呼ぶ遅い処理方法となる。我々は、自治体の文献を調査するために調査員を送り、関係した自治体の事務官や地方議員に対し尋問も行う。苦情申立人を訪ね、都市計画事案等では問題の場所を訪れる。苦情申立人によって見つけられた全ての要素について、完全で詳細な調査を行う。この過程で、もちろん、いくらかのことは、自治体の最初のコメントで言われていて調査官が承知していることもあるが、他のことも含めて調査官自身で検証する。

 

(報告書と自治体の対応)

 

A:そして最後に公式報告を作る。

それは、事実と結論の2つのパートからなっている。事実の部分では、草案を苦情申立人と自治体に送る。それゆえ、彼らはその内容について意見を言う機会が与えられている。事実についてまとまれば、オンブズマンが結論を加える。そして我々は報告を発行する。これはその一つである。一つの苦情についてのもので、14頁ある。読んでもらえれば、いろいろわかると思う。こちらは9頁で、事案の性格による。報告書では、個々人を特定できるようにしてはならない。例えば、苦情申立人シェークスピア氏という具合にである。

 

Q:A氏、B氏、C氏という具合にか。

 

A:苦情申立人には、名前でシェークスピア氏等と言って、

職員については、職員A、職員Bという具合に使っている。自治体がどこであるかは特定できるようにする。これはカンタベリーの自治体のものだ。苦情申立人や職員については、わからないようにする。法により、自治体は、どの住民によってもその報告書を調べたり、コピーをとれるようにしなければならない。我々自身は、コピーを報道機関に送る。そして、その自治体への批判は非常によく知られることになる。

 報告書の中で我々はよく3つの問題について触れている。1つ目は、不適正行政の有無である。ほとんどの答えが在るということである。なぜなら、もし答えが無いということなら、我々はそれをより早い段階で知って、調査を手紙を書くことで終わらしているからである。ほとんどの1つ目の答えは不適正行政はあったというものである。2つ目は、それが苦情申立人に対して不正を生じさせたかということである。我々は結論に達した理由を説明しなければならない。何故それが不適正行政で、何故それが不正をもたらしたかということをである。3つ目のことは、何が適切な救済  であるかということである。我々は、是正・救済の勧告を報告書に入れることになる。これは勧告であり、オンブズマンは自治体に命令を下すことはできない。もし自治体が、勧告を受け入れないと言った場合、最終的に我々は是正を強いることはできない。これは我が国で大変議論のあることである。ある人々は、オンブズマンの報告に強制力を持たせるべきだと考えている。しかし、それは認められていない。それは任意(voluntary)の制度で、協力の上に成り立っており、だいたいの場合は上手く行っている。まさに時として自治体が救済策を実施することを拒否する。我々は6、7、8、多くて10件ほど、年にそうした場合を有することになる。非常に小さな数である。そうしたものは、特に苦情申立人にとって、大変残念なことである。

 

Q:自治体が勧告を拒否すると、オンブズマンは、地元新聞に声明を載せさせることができるとあるが。

 

A:全部の過程を言うと、

我々が報告書を出して、自治体が何もしないと言った場合、我々は、第2の報告書、「更なる報告書」と呼んでいるものを出す。それで、自治体の行いがより一般に知れ渡ることになる。我々は自治体の起こした問題を再び指摘する。もし自治体がそれでも拒否し続けるなら、我々は自治体に、地方新聞で大きく広告欄を使って、声明を発表することを求めることができる。内容は、オンブズマンは何を悪いことと見て、自治体に何をやることを求めているかということ、そして自治体は拒否の理由載せることができる。自治体は、その費用を負担せねばならず、時としてその広告の費用は、オンブズマン側が、苦情申立人に支払うべきと求めた金額より大きくなることがある。異常なことである。時として在るが、まれなことである。

 

Q:年に、6、8、10ということか。

 

A:この年次報告書に発行した「更なる報告書」の題名が載せられている。

 

Q:発行した(published)とは、誰もがそれを購入できるということか。

 

A:人々がそれを自治体のオフィスでただでそれを調べることができるということ、

あるいは、通常費用を払ってコピーをとることができるという状態に置くことだ。この報告書の年には「更なる報告書」は、12で、声明の掲載は、6である。2,000件を超える事案について自治体は合意している。

 

Q:オンブズマンの勧告に対する対応の他の側面についてはどうか。

 

A:手続きの改善についての提案に対するものがある。

通常、これらは、大変積極的である。

 

(制度の評価)

 

Q:地方オンブズマン制度の評価について、どう考えるか。

 

A:これは難しい問題である。

いくらかの欠陥や障害等については既に触れた。一般的に、この制度が創設された時には、地方政府にとって新しいものであったので、多くの疑いや敵意があった。全てから歓迎されたわけではなかったことは、かなり自然であると想像できるであろう。しかし制度が上手く構築され、よく受け入れられ、今では、地方政府が制度を支持している。400の自治体のうち、1、2のものだけが、我々はオンブズマン制度が適当なものとは考えない言う程度である。一般的には、大きな支持がなされている。また時には、感謝もされている。時に実際、我々は自治体にとって有効なものである。我々が提言を、あるものは報告書によって、あるものは自治体との協議に  おいてなすことが有効で助けになっており、感謝されている。また我々は一般的な助言も出版物の中で与えたりしている。もちろん地方政府のモチベーションは、住民に良いサービスを提供することであり、それを望んでいるからである。

 他のことで言えることは、我々が「(オンブズマンの)隠れた影響力」と呼んでいるものだ。今日、人々がオンブズマンの存在し、苦情を申し立てることができるということを知るようになったのは、事実であり、それにより、自治体に行いをより注意深くさせ、もし我々がこれを行ったら、オンブズマンはどう考えるかということを考えさせる。自治体は、どのようにものごとを適切に行うかと積極的に考えるようになる。それは高速道路を運転するのと似たようなところがある。制限速度を守ろうとする動機として、時々警官が出てくるということをあなたは知っているということがあると思う。多くの人が制限速度を守るのは、そこに警察の取り締まりの制度があるということを知っているからだ。オンブズマンの制度も似ていて、そこにあるこの「隠れた影響力」は、実際に非常に重要なものであると考える。

 

Q:制度を改善するとしたら、どのようなことがあるか。

 

A:一つは、カバーする範囲をよりわかりやすくすること。

そして他のこととしては、この書類に書いてあることが参考になると思う。法律が3年ごとの制度見直しを必要としている。これがこの前の見直しのための文書である。我々が望む変更である。いくらかのことは何年かかかって変更された。いくらかのものは変更されておらず、依然として我々は主張している。

 また、政府による、全ての公的機関についての見直しということも行われている。我々は、政府に、この1993年の見直しがまだ全てなされていないということを主張している。政府の見直しは、その機関が果たして必要かというところから出発する。我々は必要だと答えると、次に、どのように業務が行われているか、他のやり方はないかと聞いて来る等のものである。

 他の改善点は、他の機関と同様、我々は充分な予算を有しているわけではなく、もっとスタッフがいれば、より良くやれると思う。「遅い処理方法」と呼ぶものも、我々が望むより遅いもので、部分的にそれは、我々がコメントを求めて他のところへ送った場合に、それらのものの手によるが、我々自身としても、もっとスタッフがいれば、1人の調査員がより少ない苦情を扱うようになることで、より速く処理できるはずだからである。

   我々が委任の制度を有していることも言及しておくべきことであろう。それぞれのオンブズマンは年間5,000件の苦情を受け取る。オンブズマンが全ての苦情を個人的に扱うことは困難なので、委任の制度を有している。難しいものはオンブズマンのところに行き、比較的単純なものは、調査員のところで決定がなされる。それは上手く機能していると考える。もし苦情申立人が決定を気に入  らなかったら、彼らは、もっと上級の職員に見直しを求めることができる。全ての発行される報告は、オンブズマンにより個人的に見られる。より簡単なものは、オンブズマンが見ないこともある。

 

Q:完全なる調査の場合、平均してどの位時間がかかるのか。

 

A:1年位の、長い時間がかかるものである。

自治体のところでの考慮に時間がかかる。裁判の場合に匹敵する。我々は独立していて、住民側でも自治体側でもない。非常に独立していて、公平なものである。我々は両者に公正でなければならず、徹底したものでなければならない。そして、住民を、自治体を失望させてはならない。我々は徹底して調査を行い、事実を知り、理解し、適切に行動しなければならず、時間がかかる。そして、両者に発言の機会も確保しなければならず、それも時間も要する。そして最終的に我々が望むより長い時間がかかってしまっている。

 

Q:公的調査での調査権限や、新聞に声明を出させる権限は、法定されたものか。

 

A:そうだ。いずれも法に定めてある。

1974年に法律で設立された時に、文書等を要求する権限、証言を求める権限、証言を求める権限は、裁判所と同じものが認められている。どんな資料を要求することも、どんな人にインタビューをすることも認められている。実際、それが知られているので、通常は問題はないが、時として難しいこともある。それは、自治体が、苦情が我々の管轄でないと考える時だ。何が我々の管轄に入り、何が入らないかは、通常ははっきりしているが、時として議論があることがある。今年あった、司法により行政審査を受けた事案では、まさにその件についてのものであった。自治体が裁判所に、事案がオンブズマンの管轄外であると訴えたのである。我々が勝ったが。

 

Q:何が決定で、何が手続きかの区別は、

ある事案では容易であろうが、ある事案では大変難しいということがあるのではないかと思う。

 

A:まさにそうである。区別は難しい。

 

 

 

(3)ヨーロッパオンブズマン

 

 

   マーストリヒト条約の締結により、1992年、ヨーロッパ議会にオンブズマンを設置することが決定された。ヨーロッパ共同体の行為についての苦情を扱うもので、ヨーロッパ共同体市民から直接、あるいはヨーロッパ議会の議員を通して苦情を受け付ける。オンブズマンは調査の結果を議会と関係機関に報告する。

 

 初代ヨーロッパオンブズマンのヤコブ・ゼーダーマン氏(Mr.Jacob Soderman)は、1995年7月12日に選出された。フィンランドのオンブズマンをやっていた人だ。「巨大なオンブズマン官僚機構」を作らないという哲学を持ち、スタッフは10人前後と極めて少ない。

   ヨーロッパ議会は、同時に請願制度を有する。オンブズマンと請願委員会は、協議をし、協力しながら、ヨーロッパ市民の権利の確保に努めているとのことであった。

 次にヨーロッパオンブズマンの扱った苦情の例と、その情報へのアクセスに関する見解の一部を紹介する。

 引用した資料は、次のように分類できるのではないかと考える。

(1)オンブズマンがコメントを求めたことが契機となって解決が図られたもの。<5/95番>、<236番>、485番>

(2)オンブズマンがコメントを求め、見解を示している途中で解決が図られたもの。<45番>

(3)オンブズマンがコメントを求め、見解を示し、解決が図られたもの。<180番>

(4)オンブズマンがコメントを求め、見解を示していたが、苦情が処理されなかったもの。<129/95番>

(5)オンブズマンとしての判断に必要な証拠が求められなかったもの。<11/95番>

   一般的な活動の形は、(3)以降が該当すると思うが、(1)(2)は、オンブズマンがコメントを求めることの影響力を示しているように思う。議員が申立人になっているのは、興味深いものがある。日本で政府が国会法104条で資料を出して来ない時に、オンブズマンに苦情を言うようなものだろうか。

 

 

「特筆すべき苦情の要約」

 

 

 

<苦情  5/95番>

 

 欧州評議会は会社に会議を組織するように頼んで、そして、それが行われる直前に、それを取り消した。

 

 見たところではこのキャンセルは、会議のために予算の許可を得ることについての、評議会の権限ある役人の失敗によるものであった。

 

 会議の組織の為のお金と時間という形で、すでに財政的な負担をしている会社に、損失をもたらした。

 

 会社は、評議会にこの事例のコメントを提出するよう、19951031日にオンブズマンに申し入れた。

 

 19951130日に評議会は、全ての生じたコストのための最後の和解として、財政的な補償を払うという、会社に対する申し出を行った。

 

 申し出は受けられた。そしてしたがって会社の要求は決着済みとなった。

 

 1996年1月15日に会社は、ヨーロッパオンブズマンに、彼の調査が『真面目に話し合うことへ 評議会を促し』、また、苦情を追求することを望んでいるわけではないことを知らせたことについて感謝した。

 

 

 

<苦情 11/95番>

 

 彼女が会議の不正確な議事録に署名しなさいという命令に従うことを拒んだので、ルクセンブルクのヨーロッパ議会が通知なしに彼女の契約を終わらせたと苦情申立人は主張した。

 

 それらの機構からのコメントと苦情申立人の資料を受け取った後に,ヨーロッパオンブズマンは、苦情申立人とヨーロッパ議会の間にどんな直接の契約の関係もなかったという、見解をとった。

 

 苦情と補助的な文書、そして行われた調査から次のようなことが明らかになった。それは苦情申立人と彼女の苦情を受けた長官であった人との職場における環境が、結局、苦情を表するということの前から悪かったということである。この悪化が不適正行政の結果であったか、不適正行政に付随して起こったものであるか、どんな証拠もなかった。

 

 議事録に関係がある出来事の事実が争われたが、そこで出来事が起こったことが不適正行政によるものか、あるいはそれ自身、不適正行政の行為であったかを示唆する証拠はなかった。

 

 さらにそれ以上の調査が苦情申立人の利益になるように事実の論争を解決することができることは、ありそうもないようであった。それゆえにオンブズマンはどんなさらにそれ以上の調査も正当化されなかったと判断して、そして苦情に対しファイルを閉じた。

 

 

 

<苦情  45番>

 

 1995年7月にヨーロッパ議会の議員が、閣僚理事会について苦情を言った。『理事会の議事録での陳述を含む、全ての現存する法律』へのアクセスを得ることができなかったと彼は主張した。

 

 ヨーロッパのオンブズマンは、 理事会に苦情についてのそのコメントを提出するように頼んだ。

 

 理事会は、そのコメントの第一に、苦情が閣僚理事会の行動における不適正行政の例を証明していなかったので、オンブズマンは、その苦情を扱う権限がないとした。この主張を支えるために、理事会は、苦情申立人がヨーロッパ議会の議員であって、苦情が政治的な要請から生まれたという事実に言及した。

 

 苦情に関する彼の意見で彼がそれを扱う資格があるとオンブズマンはみなした。

 

 彼の意見では、ローマ協定で、オンブズマンが調査できる権限を与えている「共同体の機構と団体の活動の中で不適正行政が存在する場合」というのは、オンブズマンに苦情を言うとき、市民は不適正行政の場合の完全な証拠を表さなければならないということを意味しない。市民が、不適正行政の事例であると主張し、それが関係する機構に苦情の主題に関する最初の意見を表すように頼むために、もっともな背景があるだけで十分である。

 

 具体的な苦情はこれらの基準に適合した。そしてそれゆえにオンブズマンは、それを扱うことができる。

 

 この結果は、苦情申立人が議員であったという、事実によって修正されることはなかった。

 

 『共同体のどの市民』もオンブズマンに申し込むことができて、そしてしたがって、ヨーロッパ議会の議員である市民を除外しないとローマ協定の 8条のdは定めている。

 

 結果は、苦情が政治的な要請を反映したという、理事会の主張によっても、変えることができなかった。

 

どんな動機がそれの背後にあっても、全部の現存する法律が利用できないという、事実への実証された主張が、深刻に受けとられなければならない。

 

 事例の内容に関して理事会は、 199510月にそれが一般市民が 理事会の議事録の陳述へのアクセスすることを許す実施の規約を採用したということを、そのコメントで述べた。従って今後、苦情申立人が、彼が望んだある種の文書へのアクセスができるようになったので、ヨーロッパのオンブズマンは、これ以上の調査なしで事例の扱いを終わることを決めた。

 

 

 

<苦情  129/95番>

 

 あるフィンランドの国民は、理事会による翻訳者の補充のための競争からの彼女の除外についてオンブズマンに苦情を言った。

 

 試験の通知は、候補者に,大学における研究のコースの完了を確かめる卒業証書か証明書によって識別される、大学水準の研究の完了を求めた。受験者は文書による証拠によって彼らが試験を受けるこの条件に合致するということを立証しなければならなかった(卒業証書か証明書についてコピー等による)。

 

 苦情申立人は、彼女が芸術(教養)の 修士のある程度の全ての必要条件を完了したということを確かめるヘルシンキ大学からの証明書を得た。

 

 これは,彼女は試験の通知によるタイムリミット( 1995年4月6日)の範囲内で提出した。

 

 苦情申立人の学位の正式の授与が、 1995年5月30日に正式の式典で行われた。

 

 彼女が,卒業証書か証明書によって彼彼女の大学の研究を完了したということを示さなかったという理由で、 選抜委員会は、試験から苦情申立人を除外した。

 

 それらは正式の式典で授けられた文書だけが条件に合致するという、見解で行われた。

 

 試験の通知の期間が選抜委員会に全く拘束力があることにオンブズマンの決定は注目した。

 

 申立人によって提出された文書が試験の通知で求められる記述に応えなかったかどうかは、明らかでなかった。よって選択委員会は、苦情申立人が条件に合致したかどうか考えることで判断をすべきであった。

 

 その判断を行う際に選抜委員会は、『 大学においての研究の完了されたコースを確かめている証明書』の言葉の意味について狭い、そして硬直した見解をとった。理事会は、この解釈を採用することが、苦情申立人によって出された証明書を受けるという解釈よりも、実際的な管理の理由から必要だったという、どんな証拠も出さなかった。

 

 苦情申立人には、証明書が試験の通知の条件に応えたという、合理的な見込みがあった。

 

 これらの状況で狭い解釈の採用が独断的と思われることにオンブズマンは言及した。オンブズマンはまた、良い行政管理の観点から、期限までに候補者から提出された証拠を条件として要求された状況だと見なすための準備をしておくべきだったとの意見を表明した。

 

 今,苦情申立人が除外された試験が終了する。そして結果として作られるリストは、長年の間,有効なものとされる予定である。苦情申立人は、選抜委員会の決定の3ヶ月のうちに 第1審の裁判所に彼女の事例を持っていくことができた。彼女がそれを行わなかったから、選抜委員会の試験から彼女を除外するという決定が、有効なままである。よってオンブズマンは、苦情についての検討を終了することを決めた。

 

 

 

<苦情  180番>

 

 ヨーロッパ議会の議員が、給食原料の中の添加物に関する報告を彼に明らかにすることについての、評議会の拒絶につき苦情を申し出た。

 

 彼の苦情の中で、ヨーロッパ議会の議員は、以下のように論じた。すなわちその拒絶は、評議会が、評議会文書への公のアクセスについて1994年2月8日の決定で設立した公のアクセスのルールに反していたということであり(OJ 1994 L46,p.58)、評議会が彼の要求に答えることについて遅れていたことである。

 

 ヨーロッパオンブズマンは、評議会にその後苦情申立人への報告が手渡されたと表明するよう求めた。そして、それがそれ自身、上述の決定で認められた1カ月の遅れの範囲内で、文書の要請を取り扱うために最良を行うと今後は約束することである。

 

 評議会が、1カ月の遅れの範囲内で文書の要請に応ずるために、今後,最善を尽くすをということと、犯した過ちを正したという事実を与えられて、オンブズマンは、さらにそれ以上の調査を行わなかった。

 

 

 

<苦情  236番>

 

 ある環境計画のために評議会と契約を結んだ会社が、請求書の支払いの遅れについて苦情を申し出た。

 

 契約の遅れが30日あり、 1994年2月に契約に従って提出された送り状が最終的に数ヶ月後に支払われた。

 

 実際、評議会の要請を供給するために、会社によって使われた業者には、通常は30日のうちに支払いがなされる。会社は、会社がすでに評議会のために金を使ったが、払い戻しが行われなかったという事実について、評議会の関与の不足について苦情を言った。

 

 1996年1月11日、オンブズマンは、事例についての評議会のコメントを求めた。

 

 1996年3月19日に、評議会は、支払いが合理的な範囲を超えて遅くされ、そして会社に遅くれたことに対する利子を提供することを認めた。会社は、評議会の遅い支払いについての利子の申し出と謝罪を受け入れ、1996年4月に事例調査は終了した。

 

 

 

<苦情  485番>

 

 苦情申立人は首尾よく評議会の試験に合格して、そして 1994年4月13日以来,予備のリストに名を連ねていた。彼が補充のための機構から連絡がなかったので、彼は1996年1月31日に評議会に申し入れて、そしていくらかの問題を尋ねた:

 

- 合格者の数

 

- リストにおける彼の位置

 

- リストに載っている合格者のうち,既に評議会によって雇われた者の数と,彼らのリストにおける位置。

 

 評議会は最初の問題に答えるだけであって、他の問題に対する解答を秘密であると見なした。それで申立人は、彼の要求に関する評議会の透明度の不足ゆえに、1996年3月13日にオンブズマンに申し入れた。

 

 オンブズマンは、評議会に事についてのそのコメントを提出するように求めた。

 

 評議会は、1996年3月20日に、全ての疑問について求められた情報を最終的に公にした。

 

 ヨーロッパオンブズマンは、苦情申立人が、1996年6月4日に、評議会の答えに満足したことを伝えた。

 

 

 

「公のアクセスについての自分の最初の調査の要約」

 

 

 1996年6月、オンブズマンは、機構や団体によって所有された文書への公のアクセスの件について,共同体の機構と団体に申し入れた。その背景は、以下にあげるものであった。

 

 オンブズマンの使命は、 共同体の機構と団体とヨーロッパの市民の間の関係を高めることである。オンブズマン事務所の創造が、行政の民主的、そして透明な、そして責任がある姿への,共同体の傾倒を強化することを意味した。

 

 最初の数ヶ月の間にオンブズマンは、共同体の機構が有する文書への公のアクセスに関する多くの苦情を受けた。時に文書がかなりの遅れをもって明らかにされたか、文書の要請を扱わなければならなかった役人が十分にどのようにそのような要求を扱うかに関して教えられなかった、ということがわかった。

 

 評議会と理事会は,これら2機構によって作られる文書についての一般的で公にできるルールを設け、公のアクセスに関する実施の一般的な規約を作り出した。

 

 これらの2機構とは別に、オンブズマンは、個々の機構と団体が持つ文書への一般市民のアクセスで一般的に公に容易に利用できるルールを設立したかどうかを知っていない。機構か団体がその一般的な内部の指針を設立したかどうかも。すなわち、秘密性が認められるとき、文書の要請にどのようにスタッフが扱うかに関する方針についてもである。

 

 そのような内部の指針 - 方針は、文書の要請をスムーズに速く扱うことに大きな助けになり得る。それゆえにオンブズマンは、各々の個人の機構と団体に個々の機構か団体で公のアクセスに関する状況について彼に知らせるように求めた。