2.苦情処理の対象

 

 

 

 議会オンブズマンの調査事項は、「不適正行政(Maladministration)」である(2.(1)参照)。また、苦情申立が下院議員を経てなされなければならないことも規定されている(同(3)参照)。

 

  第5条 調査事項

第1項 この条の規定に従い、議会コミッショナーは、いかなる政府省庁あるいは他の機関による行為、又はそれらのために行われた行為で、この法が適用されるものについて、行政の機能の行使、その省庁、機関による行為で、以下のどのようなものについても調査を行うが、それは、

(a)とられた行政行為と関連し、不適正行政(Maladministration)の結果としての不当な取り扱いを被ったことについての苦情の申立人により、文書で正しく苦情申立てが下院議員になされた場合で、

 (b)コミッショナーが対象とする苦情は、申立人の同意に基づき、下院議員から、調査実施の依頼を付された場合である。

  

 行政審判所に対する審査請求、あるいは司法裁判所に対する訴訟手続きにより救済が可能な行政処分については議会オンブズマンの調査対象とはならない。

 但し、申立人がこれらに訴えることを期待することが適当でないと議会コミッショナーが判断する場合には、この限りではない。

 

 第2項 以下に規定するもの以外、後に続くどのような問題に関しても、コミッショナーはこの法に基づく調査を行わない、

(a)法律によりまたは法律に基づきあるいは国王の大権により構成された行政審判所に控訴、照会、再審請求する権利を持つ、あるいは持った苦情申立人についての、どのような行政行為についても、また

(b)どのような裁判所でもそれによる救済が受けられる、あるいは受けられた苦情申立人についての行政行為。

 

 苦情申立人がそのような権利を持っている、持っていた、あるいは救済を受けられる、受けられた人であるにもかかわらず、訴えるあるいは訴えていたことを期待することが適当でない独特の状況にある場合、議会コミッショナーは、調査を行うことがあり得る。

 

第3項 前項に規定する権利を失うことなく、この法律の附則別表3に記載するような行政行為あるいは事項について、議会コミッショナーは調査を行わない。

 第4項 国王は,枢密院令により、附則別表3を改正して、そこに掲げられた処分又は事項を削除することができる。枢密院令によるこの改正規定は、議会のいずれかの院の議決があれば無効となる。

  

 

 

(1)「不適正行政」とは何か。

 

 

 

 a.「不適正行政」の説明

 

 議会コミッショナー法第5条が、議会オンブズマンの調査事項として定める「不適正行政(Maladministration)」の意味については、法律では定義されていない。

 

 1966年の法案審議の際、当時の与党労働党の下院院内総務クロスマンが掲げたそれについての例示が、「クロスマンカタログ」として広く認知されている。それは、

 

  偏向(bias)

 

  怠慢(neglect)

 

  不注意(inattention)

 

  遅滞(delay)

 

  無能(incompetence)

 

  未熟(ineptitude)

 

  曲解(perversity)

 

  卑劣(turpitude)

 

  恣意(arbitrariness)

 

等である。

 

 1993年のオンブズマンの年次報告において、当時の議会オンブズマンのウイリアム・リード氏は、時代に合わせて例示を拡大すべきだとして、15項目の例示を追加しており、政府も議会答弁という形でこれの受け入れを表明している。それは、

 

  無礼(rudeness(程度による))(以下、文が説明として長いのものは英文は省略する)

 

  苦情申立人を正当な権利を有する人間として扱わないこと、

 

  正当な質問に対する回答拒否、

 

  苦情申立人の権利・資格についての情報を知らせないこと、

 

  誤解を与えかねないまたは不適切な助言を故意に与えること、

 

  助言を無視しまたは自身に不都合な結果をもたらす考慮を無視すること、

 

  是正措置を行わない又は明らかに不公平な是正措置をとること、

 

  人種・性その他の理由による偏向、

 

  上訴権を教示しないことによりそれを失わせること、

 

  上訴権の適切な教示の拒否、

 

  手続きの過誤、

 

  適正な手続きによる管理者の監視不充分、

 

  国民一般を平等に扱うことを意図して策定された基準の軽視、

 

  不公平(partiality)

 

法の文言を厳格に適用すると逆に明らかに不公平な処理が生じる場合それを緩和しないこと、

 

である。

 

 1993年の追加により、例示が多数となったが、これらは、あくまでも例示である。このうちのどれかに当てはまらなければならないという性格のものではない。同じ年次報告書には、「不適正行政を定義することは、その範囲を限定することになり、個々の苦情申立人にとって不利益となりかねない」ということも述べられている。

 

 英国のオンブズマン研究センターのあるレディング大学で、ニュージーランドのオンブズマンの調査対象は、成文法でより詳しく定めてあると紹介してもらった。ニュージーランドのオンブズマン法(The Ombudsmen Act 1975 (1962年の議会オンブズマン法を改正したもの))は、第22条の中で、調査対象事項を「不適正行政」とはせず、次のように定めてある。

 

 (a)法に反しているようにみえること、

 

 (b)不合理、不公正、圧制的、あるいは不適当に差別的だったか、法律のルールやどんな法令の規定や規則、条令、行為規範に従っていたが、不合理、不公正、圧制的、不適当に差別的である、又はあるかもしれないこと、

 

 (c)全体としてあるいは部分的に法律あるいは事実についての間違いであったこと、

 

 (d)悪かったこと(was wrong)。(以下略)

 

 ニュージーランドのオンブズマンの調査事項は、法文上の用語として、このどれかに当てはまらなければならない。ただ、この場合も、英国と同様、何が不合理か、何が悪いかということの定義はない。

 

 

 

 b.「不適正行政」と「政策」

 

 「不適正行政」はあくまでも「行政」なのだから、「政治」は扱わない。

 

 辞書によれば、「政治」は、「国家の主権者が国をおさめること」とされ、「政策」は「政治を行う方法」とされる。日本では、いずれも基本的に、主権者の代表者である議員・政治家が行うことと考えられる。大臣は内閣の一員として、主権者の代表の集まりである議会に対して責任を負う。大臣の行う決定は「政策」となろう。そして行政の事務官の行うことは、法律の誠実な執行であり、「政治」ではないとされる。

 

 英国でも基本的には同様なことが言える。ただ、日本語の「政治」を英語にすると「politics」になり、「政策」は「policy」である。用語としては、日本語の「方針」「決定」にあたる言葉も、「行政部局によるpolicy making」のように、「policy」という言葉が使われ得るので注意が必要だと考える。

 

 1967年法第12条第3項は、次のように定める。

 

  12条 解釈

 第3項 本法におけるいかなる規定も、政府の各省や他の行政機関がその裁量権を行使して、不適正行政なしに行った処分についてその成果を批判する権限ないし職務を、コミッショナーに認めるものではない。

 

この規定からは、逆に言えば、行政の裁量行為でも、不適正行政が伴ったものなら、オンブズマンが評価できることになると言えよう。

 

 何が「不適正行政」なのか、何が「政治」なのかについては、後に掲げる「海峡トンネル鉄道連結事案」の研究の中で扱っている。「政策の影響の考慮」で「不適正行政」が行われたとされるものである。これは、議会オンブズマンの勧告に運輸省が従わず、特別委員会に事務次官、そして運輸大臣までが出席して反論を行ったものである。勧告にこうした反論がなされたのは、議会オンブズマン発足後30年間で、3件目(注 )という非常に希なもので、オンブズマンの事案処理の一般的な理解には適当ではない面があるかもしれないということは留意しておく必要がある。

 

 詳細は、事案研究の項に譲るが、委員会での運輸大臣との議論はかみ合わない部分も多く、オンブズマンは必要以上の説明はしていない。「オンブズマンがそう(不適正行政だと)思ったものが不適正行政なのだ」という意見も関係者から聞かれる。結局、厳格な具体的定義付けをオンブズマンがしないこと自体が、苦情救済制度の本質的な点の一つなのではないか考える。運用の柔軟性を大切にしているということである。

  

 不適正行政の定義がはっきりせず不利益を生じるのは政府かと言うと、そうではない。適正に行政を行っていれば良いし、またオンブズマンの勧告には、強制力がない。最終的に政府は、勧告内容は認めなくとも、「議会とオンブズマンへの敬意」から、勧告に従うことはあるが、原則的に対応は任意なのである。

 

 

 

 c.「不適正行政」の事例

 

 

 

 政府が出している「政府と個人:市民の救済の手段」という、苦情処理制度の概要等を簡単に説明している本(注 )には、次の事例が掲げられている。

 

<例1>

 

 国防省は、農場建物を居住建築に変えることを望んだウェールズの農場主の計画申込に反対した。それは、その建物が、軍の基地の爆発物倉庫のまわりの保護された地域の範囲内であったからである。

 

 オンブズマンは、人々がその農場建物の中で働いていたことを見落とした点について国防省を非難した。彼は、国防省がそれを知っていたら、保護地域は、計画申込がなされる前に変えられなければならなかったと結論づけた。

 

 彼はまた、国防省が、そこで人々が働いていたことを知った時に、申込に対する異議を引っ込めなかったことについても非難した。

 

 保護における弱さが生じるような時だけ、国防省は保護地域を変えていたが、その決定の理由を述べる点において国防省は不誠実であったと、オンブズマンは見いだした。

 

 国防省は、結局、その建物を含む関連の土地を購入したが、行動がきちんと速やかに行われなかったので、資産と利子所得における実質的な損失が農場主に結果として生じ、農場主は、農場の残りを売るという計画を持っていたが、払われた金額は、対応の遅れにより生じた影響を無視したものであった。

 

 国防省は、購入価格についての利子の支払いと生じた費用と不都合に対して追加の支払いを、6万140ポンド(約1200万円)にのぼる額で行うことを合意した。オンブズマンは、計画申込の扱いの決定の遅れについてウェールズ事務局を非難した。(議会オンブズマンの1994年の年次報告書より)

  

 上の文面から予想するに、農場主にすれば、今までそこで作業していたのを国防省が見落としていたという弱みがあるだろうという点で、計画申込が認められるのではないかという期待があったのかもしれない。長い間待たされた上に、充分な説明もなくやはり認められないということなり、被害も大きくなった。申込が反対されたすぐ後の段階で、保護地域を変えることはほぼ困難だ等の充分な説明があれば、対応も変わったかもしれない。その点で国防省は不誠実で、それが「不適正行政」にあたるとされたのではないだろうか。

 

 

 次の事例は、内閣府(Cabinet Office)が出している「あなたのファイルのオンブズマン(The Ombudsman in your files)」で示されている例である。

 

<例2>

 

 S夫人は、社会保険省の役人と相談して、パートタイム労働の時間を増やし、所得保障の代わりに家族手当を求めることにした。そう変更する方が、有利であると聞いたからだ。その役人の助けのもと、彼女は、所得保障を止める必要な手続きを適切に完了した。それから、彼女は、働く時間を増やした最初の週を終了してから、家族手当の要求書を提出した。

 

 S夫人は、家族手当帳を受け取った時、申込みのタイミングが原因で、彼女の最後の所得保障支払いと家族手当の資格の開始に1週間のギャップがあることに気がついた。彼女はこの手当ての喪失と、家族手当要求の日にちに関する明らかな困惑について、苦情を申し立てた。彼女は家族手当部局と所得保障部局の間を行ったり来たりしたが、問題の解決のために何もなされなかった。

 

 S夫人は議員を通しオンブズマンに、正確でない助言の結果で1週間分の手当てを失ったと苦情申立をした。オンブズマンの調査の後、S夫人の要求は再検討され、家族手当の資格が1週間遡って認められた。

 

 オンブズマンは、S夫人と役人との会話の記録を見つけることはなかったが、彼女が家族手当の要求をした時になんらかの誤解があったのは明らかであった。その役人が持つべきファイルに、家族手当の効力の発する日にちについての記載があれば、問題は生じなかった。オンブズマンは、S夫人が誤った方向に向けられていたという苦情を、この役人が是認しなかったことを批判した。オンブズマンは、社会保険給付庁が、問題を解決しようというS夫人の努力への対応で粗雑に扱ったことを見いだした。社会保険給付庁長官は、S夫人が受けた不充分なサービスについて適切に謝罪した。

 

 この事案の結果として、地方事務所と家族手当部局の間の連絡が改善され、直接に関わったことでなくても、全ての職員が問題の解決の責任を有することを保証するようにされた。職員はまた、全ての電話の記録の必要性を忘れないようにさせられた。

  

 この他、3.(2)a.の任意の支払いの項にも、事案を載せてある。

  

 さて、次に日本で起きたことで検討してみたい。

 

<三島市事案>

 

(平成9年2月22日のasahi.com(朝日新聞のインターネットホームページ)より)

 

「静岡県三島市で国保の支給額を24年にわたって誤算」

 

 静岡県三島市は21日、国民健康保険加入者が、基準以上の医療費を支払った場合に、市町村が負担する額の算出方法を、1973年から誤っていた、と発表した。同市は、国民健康保険法で時効になっていない過去2年間分について、対象者に支払う方針だ。同市が、県内の他の20市を調査したところ、規定通りに算出していたのは富士、沼津、熱海の3市だけだった。

 

 誤っていたのは、国民健康保険の高額療養費の支給制度。個人が医療機関にかかり、月額で自己負担金が6万3,600円(住民税非課税世帯は3万5,400円)を超えた場合は、その超過額が後日支給される。自己負担金となるのは医療機関で支払う治療費と、薬局で支払う薬代の合算だが、三島市では、薬代を加えずに治療費だけで算出していた。

 

 薬代については、厚生省が73年に、負担金に加算するよう、各都道府県知事にあて通知を出していたが、同市はこの通知を知らなかった、としている。

 

 今月17日に国保加入の市民から指摘を受け、翌18日に誤りに気付いた。同市国保年金課では「返済の対象になるのは約100件で30万円ぐらいではないか」と話している。

  

 地方自治体による機関委任事務であるが、英国では、社会保険給付庁が扱う事案である。上の記事では、時効になっている2年より前の分については、支払われなくて当然だということになっている。時効済みの分は支払わなくても違法にはならない。ところが英国では、これを市民が求めて苦情申立すれば、社会保険給付庁は、不適正行政を行っていたということなり、後述の「任意の支払い」により、24年前に遡って返済がなされる可能性が強い。それも関係者全体に対してなされる可能性が強いのである(日本でこの支払いをやれば、逆に違法になる可能性があるが、これについては、3.(2)c.で述べる)。

 

 日本に英国と同様な苦情処理制度が導入されれば、(機関委任事務の扱いをどうするかの問題はあろうが、)三島市分の返済額は30万円では済まないことになろう(3.(2)b.(b)参照)。

 

 

 

(2)苦情申立の資格

 

 

 

 英国では、前述の法第5条の規定から、苦情は、申立人が具体的な不利益を受けたことに起因するものでなければならないと解され、一般的な苦情、不満はオンブズマンの調査対象とならない。

 

 さらに1967年法第6条には、団体でも申立ができること、本人自身による申立が原則であること、事項を知ってから12ヶ月以内に下院議員に申し立てなければならないこと等が規定されている。

 

    第6条 苦情申立に関する規定

 第1項 苦情申立は個人も団体(法人たると否とを問わず)も行うことができる。しかし下記の団体は苦情申立ができない。

 (a)地方公共団体及び公益事業もしくは地方行政の目的で、又は特定の産業もしくは企業の全部もしくは一部を国有によって行う目的で作られた機関又は団体。

 (b)その役員が、国王、大臣もしくは政府各省によって任命され、又はその収入の全部もしくは一部が議会により供給される金額からなっている機関又は団体。

 

 第2項 苦情申立をすべき人が死亡した場合、又は何らかの理由で、本人自身で苦情申立を継続することが不可能である場合には、苦情申立人の遺言執行人(his personal representation)又は家族の一員、その他苦情申立人の代理をするに適した者が、その苦情申立をすることができる。しかし、この場合を除いては、本法による苦情申立は、本人によって行われたものでなければ受理されない。

 

 第3項 苦情申立は、その中で述べられている事項を、被害者が最初に知った日から12ヶ月以内に下院議員に対してなされない限り、本法によっては受理されない。しかし、委員が特別の事情ありと思料する場合には、当該期問内に申立のなかった苦情申立に基づき調査を行うことができる。

 

 第4項 本法により苦情申立が受理されるのは、次のいずれかの場合に限るものとする。()被害者が連合王国内に住んでいる場合(その者がすでに死亡しているならば、死亡当時居住していた場合)及び苦情申立の内容が、被害者が連合王国内、1964年の大陸柵法の規定による指定水域の中の施設内、又は連合王国で登録された船舶もしくは航空機内に所在した際に、その者に関連してなされた処分に関するものであるか、あるいはまた連合王国内、上記施設内又は上記船舶もしくは航空機内で生じた権利又は義務に関連してなされた処分に関するものである場合である。(略)

 

 これに対しドイツでは、請願の形ではあるが、過去の行政の行為に対するものなら一般的な苦情、不満に近いと言えるようなものまで、苦情として受け付けている。参考までに、次にその例と処理の概要を掲げる。

 

<参考>ドイツ請願委員会

 

 ○ドイツの請願の例(ドイツ連邦議会の請願委員会の年次報告書より)

 

  事例を見ると、Forderung(要求)、Protest(抗議)、Bitte(いわゆる政策請願)、Kritik(批判、非難)等、そしてBeschwerde(いわゆる苦情)がある。

 

 いわゆる苦情については、

 

・「個別に受けた不適正行政に対するもの」という、イギリスで一般的なものに近いもの、

 (下に示した16)19)等、ただ、こうしたものの数は少ないとのことであった)

 

・不適正行政というよりは、政策そのものに対する訴えと言えるようなもの、(20)22)等)

 

・年次報告の「多数(100以上)の署名による請願」の欄にある「苦情」、

(23)(138名の署名)24)(137名の署名)25)(150名の署名))

 

等があり、「苦情」が「個別の不適正行政による被害の救済」ということに限定されてはいない。

 

 ドイツにおいてこのように、「苦情」を特に限定し、区別した取り扱いをしていない原因としては、

()「苦情」も「政策請願」等も、全てまとめて受理し対応していること、

()連邦制ゆえに、あまり細い苦情は出てこないこと、

等があげられる。

 

 1.通常の請願

 

 1)カリーニングラードに領事館を作ることの要求(Forderung)

 2)ドイツ連邦共和国領土内からの全核兵器の即時撤去の要求

 3)妊娠中絶の新規制の範囲内における、まだ生まれていない命の無制限の保護の要求

 4)高速道路の騒音防止措置に関する要求

 5)(刑法第218条についての)妊娠に関する猶予規定の設置の要求

 6)刑法第218条の連邦憲法裁判所の判断に対する非難(Kritik)

 7)職業助成規則による賃金率履行の引き下げに対する非難

 8)上下水道の費用上昇についての非難

 9)テレビ番組の暴力描写の数の上昇に対する抗議(Protest)

10)人間の尊厳を危機にさらす欧州評議会の生物倫理に関する協定についての請願者の考えに基づく免官に対する抗議

11)マクデブルク市のビール会社の閉鎖に対する抗議

12)クロアチアからの家族の居住権確保についての政策請願(Bitte)

13)私立大学の経営経済学科生の兵役の22歳までの抑制についての政策請願

14)スロバキアからの労働者の長期滞在許可に関する政策請願

15)連邦難民法による移住の承認の政策請願

 

2.請願のうちいわゆる苦情(Beschwerde)

 

16)応対した公務員の行動が親切でない。

17)送ってくれるように頼んだパンフレットが送ってもらっていない。

18)公務員が職務上の問題があって解雇されたが、自分の非ではない。

19)自分はエイズを煩っているが、どのように治療したらよいかわからず、適当な指示も得られていない。

20)医療保険の支給額のカットで困っている。

21)医療保険の掛け金が高すぎて困っている。

22)眼鏡のフレームを購入時に出されていた20マルクの医療保険補助廃止による負担増の苦情。

23)商工会議所の会費の引き上げに関する苦情。

24)農業老齢基金における副次営農者夫婦の会員資格に関する苦情。

25)ドイツ鉄道株式会社料金が1995年2月1日に新しい州で値上げされることについての学生からの苦情。

26)チューリンゲン州からのワイマールの小学校基礎学級閉鎖計画に対する苦情。

27)19697071年生まれの兵役義務のあるベルリン市民の把握、検査、兵役召集の遅れに対する苦情。

28)スロットマシンの遊興税の上昇と、スロットマシンホールの営業禁止時間の制限規定に対する苦情。

29)連邦の州における家賃引き上げに対する苦情

30)レヒヘルド連邦国防軍飛行場における軍用飛行機騒音とその影響の削減のための苦情。

 

 ○ドイツにおける請願処理

  

<受理>

 

・文書で、本人の署名があることが必要

・議員を通してでも、直接請願委員会事務局に提出、郵送しても良い。

 

<事務局による形式審査>

 

・形式的に要件に適合してないもの(1995年(以下同じ)扱い総数22,904件中5,048件)

(1)係争中の裁判の案件に関わるもの

(2)単なる意見の表明、宛名のないもの、匿名のもの、支離滅裂なもの、中傷等

(3)然るべき州の議会へ送付するもの

・実質的内容審査に入る前に、申請者に事務局からそれなりの回答を行う。

 

<事務局による実質審査>

 

・一目見て、回答が明白なもので、政府の刊行物とかパンフレットを送ればそれで済んでしまうものは、事務局で処理し、結果を報告するだけである。

 (助言、照会、指示、資料の送達等による処理(実質的要件合致17,856件中6,844件、38.3%))

 

・残ったものについて、事務局の5つの課で実質的な審査が行われる。

 

・案件につき、政府から見解を聞く。(回答期限つき。6週間以内等)

 

・政府の見解を請願者に伝える、あるいは、政府の見解に基づき、事務局から資料を送る。

 

・請願者が納得すれば、そこで処理が終わってしまう。

 

・委員会での検討が必要なものについては、事務局で検討用書類を作る。

 

・ここまでの段階で処理が終わってしまうものは、報告され、委員会で討議されることなく本会議の議決(結果報告的なもの)にまわされると思われる。

 

<「報告者」(2人の請願委員会委員の議員)による審査>

 

・上記以外の請願委員会で実質的に審査に付す全ての案件を審査する。

 

・事務局が作った検討用書類をもとに「報告者」がそれぞれ別に書類に処理方法を記載する。

 

・事務局が「報告者」から書類を回収する。

 

・回収した書類で、2人の報告者の意見が一致し、特に処理方法が問題なく決められてしまうものにつ  いては、その段階で処理ぶりが決まり、委員会で討議されずに、本会議の議決へまわされる。

 

・委員会審査が必要と解されるもの、2人の意見が食い違ったものが、委員会にかけられる。

 

<委員会前の調整>

 

・委員会の前に各会派別の請願委員による会議が行われる。

 

・委員長と各会派代表理事との会議で調整が行われる。

 

<委員会での審査>

 

・「報告者」から、案件についての報告が行われ、委員会での審査が行われ、結論が出される。

 

(結論の例)・事務局から資料を請願者に送付する。・勧告を付けて、請願を連邦政府に送付する。

 

この後、本会議に報告され、議決されるものと思われる。

 

 党派対立はあっても、委員会の結論は極力一つにまとめるようにしていることは、英国の特別委員会の報告にも通じるところがある。請願委員会は、各立法期間のはじめに、本会議で設置される。設置には議員の総数の4分の1以上の多数が必要。

 

 請願の審査は全体として、かなり段階的に柔軟に行われている印象が強い。

 

 レディング大学でロイ・グレゴリー教授等に会った時に、ドイツの請願委員会の話もしたが、苦情の扱いについては、やはり、州の請願委員会等を調べる必要があるのではないかという話があった。英国のオンブズマンは、政府がダウンサイジング化で、外庁(エージェンシー)化を行い、政策機関と執行機関を分離した時に、オンブズマンの所管をエージェンシーにまで及ぶよう広げたのに対し、ドイツの連邦請願委員会の所管は、英国におけるエージェンシーを除いたようなものである。

 

 参考までに英国の請願制度については、議会職員のアザート氏より、次のような話が聞けた。

 

Q:別のことを聞きたい。日本の私の担当している調査会の一つの論点はオンブズマン制度であるが、  別の論点に請願制度がある。ドイツの連邦議会に行き、請願委員会の調査を行った。英国議場では請願袋を見たが、こちらの制度はどうなっているのか。

 

A:私は、それに答えられる。私は、以前、請願(public petition)担当のクラークだったからだ。

 

   歴史的には、かつては、大変重要だった。請願委員会もあったが、かなり前に重要性をなくして  しまった。現在でも、人々は、多くの請願を行っている。私が請願担当だった5年前は、そうだった。それは、議員が、市民の側に立った指南役であるという宣伝の機会を与えるものには違いない。彼らはそれを議院で紹介する。それを読み上げることは認められている。そして請願袋に入れられる。請願は提出された後、請願の内容が、下院の議事録の中に印刷される。政府はそれについての報告を、確か1ヶ月だったと思うが、その期間内にしなければならない。政府は、「この件については、コメントをしない」と言うこともできる。コメントをする場合は、コメントが送られ、その内容が印刷される。それで全てである。そこには、何の議会による調査もなく、議員も何もしない。それは、問題についての主張を、一般に政治的に知らしめるための手法と言えよう。しかし、あまり多くの支持を得ることになるほどの重要性はない。確かに、ドイツの制度は、オンブズマン制度に代わるものの一種として考えられている。しかし、英国では、請願は、大変古い手続きで、いくらかの利点や、価値があるが、大変重要なものというわけではない。

 

Q:日本でも、請願によって立法がされるというのは、大変希な事案である。もし、請願で苦情も扱う  ようになったら、それは議会職員が処理しなければならなくなるのだろうか。

 

A:いや、請願となると、我々は印刷送付するだけだ。それに政府が回答し、個々の事案に関しなんら  それ以上の関与がなされないので、苦情をそれでするメリットはないだろう。請願は印刷され、議員に知らされ、議員にキャンペーンを始めさせたり、事情を聞く電話をさせたりすることはあろう。また、メディアの大きなキャンペーンに結びつくこともあろう。請願の機能はそうしたものだ。

 

 

 

(3)苦情処理の手順

 

 

 

a.申立のアクセス

 

 議員を通した間接アクセスである(1967年法第5条第1項)。

 

 b.調査の実施

  

(a)調査権限等

 

 1967年法の規定に従い、オンブズマンの調査の権限等をみていきたい。

 

 議会オンブズマンは、裁量により苦情の調査を行うか否か決定する。

 

 第5条 調査事項

第5項 議会コミッショナーがこの法に基づき調査を開始し、継続し、あるいは継続しないかどうかの決定は、この条の前述の規定に基づき、彼自身の裁量に従って行われる。また、苦情がこの法律に基づき適切に申し立てられたかどうかの問題は、議会コミッショナーによって判断される。

 

   調査は秘密に行わなければならないが、その進め方についても、議会コミッショナーの裁量に委ねられる。ただし、調査の対象となった機関が当該案件につき実施することが適切と判断した行為を調査中に実施する権限あるいは義務を妨げるものではない。議会コミッショナーはまた、苦情を申し立てられた政府省庁あるいは公共機関、またその職員に対し、まず苦情に対する釈明の機会を与えなければならない。

 

 第7条 調査手続

第1項 コミッショナーは、本法に基づき、苦情申立について調査を行おうとする場合には、関係各省及び関係行政機関の主任官(Principal Officer)及び苦情申立の中で当該処分を行ったとか、もしくは許可したとされているその他の人に対して、その苦情についての意見を述べる機会を与えなければならない。

 

第2項 調査は秘密に行わなければならないが、この点を除けば、調査を実行するための手続は、コミッショナーが事件の実状に照して適当と考えるところによるべきである。そして、前項目の規定によるほか、コミッショナーが適当と考える人から、適当と考える方法で情報を得ることができ、適当と考える聴聞を行うことができ、また、調査をうける側が弁護士(counsel or solicitor)その他の人を代理に立てることを許すか否かを決定することができる。

 

第3項 コミッショナーは、適当と考える場合、苦情申立人及びその他調査のために出頭したり、情報を提供する人に費用を支払うことができる。その額は、

(a)実際に蒙った費用額

(b)費やされた時間の損失補償としての手当

であり、大蔵省が定める基準と条件とに従って算定される。

 

第4項 本法に基づく調査の実施は、当該省もしくは当該行政機関による処分の効力に関し、また調査の対象となっている事項について当該省もしくは当該行政機関が新たに処分を行う権限及び職務に関して、いかなる影響をも及ぼすものではない。ただし、被害者が1914年及び1919年外国人制限法又は1962年英連邦移民法に基づき現に効力を有する命令によって連合王国外に退去させられている場合には、もしコミッショナーが命ずるならば、その者は、国務大臣が指示できる条件に従って、調査の目的のために連合王国への再入国及び滞在を許可される。

 

  オンブズマンの調査権限は、非常に強力なものがある。資料要求等に関しては、司法手続きと同等の、部分的にはそれを上回る(cf.第8条第3項)ほどの権限が認められている。

 

 第8条 証拠

第1項 本法に基づく調査のために、コミッショナー、関係省や関係行政機関の大臣、担当官、職員、その他その調査に関係ある情報を提供したり、資料を提供したりすることができると認められるどのような人に対しても、情報を提供し、又は資料を提出するよう要求することができる。

 

第2項 前項の調査のための証人の出頭及び尋問(庁舎外の証人の宣誓、陳述、尋問の実施を含む)並びに資料の提出に関しては、コミッショナーは、裁判所と同じ権限を有する。

 

第3項 政府内で入手された情報につき、その秘密を守り、その他これを他に漏洩することについての制限を守る義務は、それが制定法による義務であると不文法による義務であるとを問わず、本法に基づく調査のための情報の提供には適用しない。資料の提出および証拠の提示に関して、司法手続において法によって政府に対して認められている特権は、本法に基づく調査については与えられない。

 

第4項 閣議又は内閣の委員会の審議過程に関する問題についての情報の提供もしくは質問への回答又はそのような審議過程に関係ある資料の提出は、何人も本法によってこれを要求され、又はその権限を与えられることはない。本項の目的のためには、内閣総理大臣の認可を得て、内閣官房長官が発布する、関係ある情報、問題又は資料について証言している確認書をもって最終的なものとする。

 

第5項 第3項の規定による場合を除いては、何人も裁判所における訴訟手続において提示又は提出することを強制されないような証拠の提示又は資料の提出を、本法に基づく調査のために強制されることはない。

 

 本条第4項に関して、「法規の規定があいまいな場合は、法解釈に法案審議の際の大臣答弁を参考にできる」との最高裁(議会上院)判決の影響を検討する委員会が「内閣の委員会」とされ、その文書の公開を求めた苦情につき、オンブズマンが調査を断念した事例があった(平成8524日、朝日新聞)

 

 調査権限の強力さは、それを妨害等した者に処罰を求めることも可能にしている。

 

 第9条 妨害と侮辱

第1項 正当な理由なしに、本法に基づくコミッショナーの任務の遂行に際し、コミッショナーもしくはその職員を妨害した者、又は本法に基づく調査に関連してその調査が裁判所の裁判手続であったとすれば裁判所侮辱罪に該当したであろうような作為もしくは不作為をした者があった場合には、コミッショナーは、その者を裁判所に対して告知することができる。

 

第2項 前項の規定により犯行についての告知が行われた場合には、裁判所は、事実について審理を行い、その者を弁護し、又はこれに反対する証人の陳述を聞き、またその者を弁護するための弁論を聞いた後、もしその者が裁判所に対してと同様な罪を犯したとすればその者に対し裁判所がなすであろうと同じ処分を行うことができる。(略)

  

 議会の特別委員会担当のアザート氏は、インタビューの中で、オンブズマンの調査権限にも触れている。

 

Q:日本では、議会の権威やそれに対する尊敬により、政府を動かすということは、なかなか難しい。  例えば、国会法104条に、政府から資料等を求める規定があるが、罰則規定がないので、この規定による資料の要求がうまくいかないことがある。罰則規定がある議院証言法による資料要求なら、政府は応えるということはある。

 

A:それは複雑な問題だ。オンブズマンについて言えば、オンブズマン法により、政府のどんな文書も  見る権限がある。それは成文法で認められたもので、政府は、オンブズマンの言うところに従わなければならない。特別委員会が政府の文書を見るのとは、かなり違う。我々も政府の文書を求め、手にするが、政府が出したくない文書を委員会が入手するのは、なかなか難しい。基本的に政府の文書は、正式に、法的に、大臣のところにある。それは女王陛下の大臣である。我々も今そうしたことについて議論をしているが、我々も同じような問題を持っていると、私は考える。

 

 秘密保持に関しては、次のような規定がある。

 

 第11条 情報の秘密に関する規定

第1項 コミッショナーとその職員は、1911年公務員秘密保持法の適用をうける国王の公務員である。

 

 第2項 本法に基づく調査に際して、又はその調査のために、コミッショナー又はその職員が入手した情報は下記のほかは洩らしてはならない。

(a)本法により行われる調査及びその調査に基づいて本法により行われる報告のため。

(b)1911年および1989年公務員秘密保持法に基づき、本法によりコミッショナーもしくはその職員が入手した情報に関して、犯したと訴えられた犯罪又は本法による調査の過程で犯したと訴えられた偽証罪についての訴訟手続のため。及びこのような訴訟手続を行う目的での聴聞のため。

(c)本法第9条にもとづく訴訟手続のため。

 

さらに、コミッショナー及びその職員は、本法にもとづく調査の過程において知り得た事項について、訴訟手続(前述の訴訟手続を除く)において、証拠を提出するよう要求されることはない。(略)

 

第3項 大臣はコミッショナーに対し、特定の資料又は情報を指定して、その資料もしくは情報又はこれと同種の資料もしくは情報の漏洩は、国の安全を害しその他公共の利益に反すると考える旨を書面をもって通告できる。この通告がなされた場合には、本法のいかなる規定も、コミッショナーもしくはその職員に対して、その通告の中で指定された資料もしくは情報又はこれを同種の資料もしくは情報を、いかなる人にも又はいかなる目的のためにも知らせる権限を与え、又は義務を課していると解してはならない。

 

第4項 本文中大臣とあるは、間接税務局長および内国税務局長を含むものとする。

  

 第11条第3項の、その漏洩が国の安全を害し、その他公共の利益に反すると考えられる情報は、大臣からの通告により、扱いが異なってくる。

 

 調査報告書の作成、提出は、オンブズマンの責務であるとともに、実質的に事案について議会での審査を求められるという点で、最大の武器であるということもできよう。

 

 第10条 議会コミッショナーによる報告

第1項 コミッショナーが、この法に基づき、調査を行った場合、又は調査を行わないと決定した場合、コミッショナーは、調査を要求した下院議員に(あるいは、その人が既に議員ではない場合は、コミッショナーが適当と考える下院議員に)調査の結果についての報告書、又は調査を行わないとした理由の声明書を送付するものとする。

 第2項 コミッショナーが、この法に基づき、調査を行った場合、議会コミッショナーは、調査の結果についての報告書を、関係省庁の長、並びに苦情の申し立てのなされた行為を行ったとして、あるいは、その行為を許可したとして苦情を申し立てられた関係の公務員にも、送付するものとする。

 第3項 もしも、調査を実施した結果、苦情申立人が不当な取扱いを受けたのは行政が不適正であったことに原因していて、しかもその不適正がまだ是正されていないか、又は今後是正されないであろうと思われる場合には、コミッショナーは必要に応じ、この事件についての特別報告書を議会の各議院に提出することができる。

第4項 コミッショナーは、諸機能の遂行に関して議会に年次報告をするものとし、また、時々は、それらの機能に関連して、彼が適当と考えるような他の報告書を両院に提出することができる。

第5項 以下に述べる公表は、名誉毀損に関する法律の適用にあたっては、絶対的な適用免除の特権を有する。

       すなわち,

(a)本法の規定に従って、コミッショナーがいずれかの議院に対して報告を行うことによる事件の公表。

(b)本法の規定に従って下院議員からコミッショナーもしくはその職員へ、またはコミッショナーもしくはその職員から下院議員へ事実に関する伝達が行われることによる事件の公表。

 (c)10条第1項に従って、苦情申立に関し下院議員へ送られた報告書又は理由書の内容をその下院議員から苦情申立人に知らせることによる公表。

 (d)苦情申立の中で不当処分の責任者であるとされている人々に対して第10条第2項の規定によりコミッショナーから報告書を送付することによる公表。(略)

 

第3項による特別報告書は、非常に希である。「海峡トンネル鉄道連結」事案は、この例である。

 

 第3項の特別報告書、第4項による年次報告書や随時出される報告書は、HMSO(政府刊行物センター)から市販されている。第1項及び第2項の個別の事案についての報告書は一般には公開されていない。

 

()実際の苦情処理のプロセス

 

 議会オンブズマン事務局のIO(調査官)用マニュアルより、苦情処理のプロセスを見てみよう。なお、IO(調査官)の役割は、「議会オンブズマン(PCA)が調査を行い、調査の結果についての報告の第一草案を議員のために書くべきと判断した苦情を調査する。必要に応じチェックをし、修正を行う調査監督に提出する。」とされている。

  

<苦情取扱いの段階(マニュアルより)>

 

選定審査

 

2.5.  PCA(議会オンブズマン)に送られた苦情は、PCAが調査のためにその苦情を受け付けるべきかどうかを勧告する選定審査官(Screening Officers)により審査される。苦情のほとんどは、様々な理由により、この段階で拒絶される。選定審査官により受け付けられた苦情については、苦情の陳述書(SOC : statement of complaint)が草稿(draft)される。これは、PCAが調査すると決定した苦情の部分、苦情をもたらした連続した出来事についての苦情申立人による説明、そしてその人が主張している是正策を要約したものである。この段階に到達した苦情については、苦情申立人により、あるいは苦情申立人のために、もたらされたいくつかの証拠によりすでに支えられているであろう。そして、通常、苦情申立人は、苦情を言われた特定の団体あるいはその複数の団体による是正実施の他の手段を使い果たしているであろう。

  

2.6. IOとして、(事務局で最初に働き始めた時にそれを行うことを求められることがあるかもしれないが、また選定審査管理職の仕事の量の多さが事務局の仕事のある短い期間における再分配を必要とすることがあったとしても、)苦情の選定はあなたの通常の役目の一部ではない。

 しかし、もしあなたが、特定の関連する事項について専門的な知識があるならば、課長あるいは調査監督から、新しい事案について引き受けるかどうかについて、助言を求められるかもしれない。(2.7.())

 

第1段階 調査-主要な役人(主任官)(the Principal Officer)への接近(Approach)

 

2.8. 調査の最初の段階は、PCA、彼の副官、あるいは課長の一人がSOC(苦情陳述概要)の写しを、苦情がなされた、省庁の事務次官あるいは外庁(Agency)あるいは他の公的機関、複数の機関の最高責任者(あるいはそれと同等の人)に、苦情についてのコメントを求めることから始まる。これは法の要請である。(本指導では、都合により、苦情を言われた機関は単に省庁と、その代表者は主要な役人と表記。)第1段階は、PCAが、第1段階への応答として知られる主要な役人からのコメントを受け取った時に終わる。

 

2.9. この段階におけるあなたの関与は、特定の時間の内に返事を受け取らなかった時に、省庁を追い立てて請求することに、通常は限定される。()

 

第2段階 調査-調査

  

2.10. 第2段階は、SOC(苦情陳述概要)について主要な役人からの受領したものに従っての、苦情の実際の調査と、その調査についての結果報告書の草稿(DRR : draft results report)の準備である。あなたの役割は、次のようなことを考慮検討することである。

 

#省庁による不適正行政があったなら、

 

#何が不適正行政であったか、

 

#不適正行政の結果として、苦情申立人がどんな不正や損失に苦しんでいるか、

 

#何か救済がなされているか、

 

#いかなる救済もなされていないか、不充分な救済しかなされてなければ、どんな救済が勧告されうるか。

 

2.11. ほとんどのDRR(結果報告書草案)は、次のような構成となっている。

 

#序文(an introduction)-苦情がどんなものであるかを述べる。

 

#背景(Background)-苦情に関連する手続きを説明し、関係ある法律、省庁の指導に触れ、そして苦情の調査と報告の範囲に影響を及ぼす、PCAに適用されるいかなる管轄に関する制限についても説明する。

 

#調査(Investigation)-苦情申立人の事案においてどのようなことが起こったかを述べる。通常は、主要 な部分は、出来事の時系列に沿った記述である。ここに含まれる事案についての他の側面は、あなたに よってなされたインタビューや他のさらなる調査から得られた情報であるということになろう。

 

#苦情についての省庁のコメント

 

#結論(Findings)-特定の行為が不適正行政を伴うものであったか、そしてもしそうならば、それが苦情 申立人に不正をもたらしたかどうかを述べる。また、どのような救済が与えられるべきであるか、ある い与えられているかについても述べる。

 

 DRRの型は変えることができる。6.2項の附則はA~C報告書の3つの形を示す。しかしそれぞれ、通常12頁の長さの苦情、事実、PCAの結論と救済策を記述した要約が前置きされる。

 

(2.12.())

 

第3段階 調査-結果報告書草案と最終報告書の発行についての主要な役人のコメント

 

2.13. 第3段階は、コメントを求めて主要な役人にDRRを出すことである。これは法で要請されていることではないが、しかしほとんどの事案におけるPCAの基準となる手続きである。主要な役人からの応答(そしてその後に、事案と省庁の書簡について生じたいかなるさらなる必要な考慮)の受け取りとして、最終結果報告書(FRR : the final results report)は、申し出た議員に送られ、主要な役人にコピーされて送られる。いくつかの事案において、DRRは修正がなされて、コメントを求めて、1回に限らず何度か主要な役人に送られることがあり得る。あなたのこの段階における主要な役割は、報告書の項目を修正し、必要あれば、いかなるさらなる調査も実行したり、書簡を書いたりすることとなろう。

 

2.14.  FRRは、DRRに単に次のことを加えて直したものである。

 

#主要な役人により提案された適切な修正、

 

#第3段階でなされたあらゆるさらなる調査、

 

#主要な役人から出された結論と救済に対するコメント、そしてそれらコメントへのあらゆる対応、

 

PCAあるいは彼の副官から出されたDRRについてのコメント、

 

#結論-苦情が全てか、その一部が是認されたかどうか、そして申し出された救済の要約を述べる。

 

#要約についてのあらゆる修正。

(2.15())

  

調査の後

  

2.16. いったんFRRが出されると、事案があなたのところへ、事務局の機械化事案管理システムへ詳細を入力するために戻されて来ることになろう。もし、後の日に、PCAがその事案が重要であるとか出版を保証する充分に興味深いものであると考えた場合、あなたは、苦情申立人、あらゆる地方事務所、そして他の特定できる情報を匿名にすることが求められるであろう。もし救済が原則においてのみ合意されていて、実際の負担や実施が残っている場合、2ヶ月の期間を置いて、PCAにした約束を省庁が確実にするというフォローアップが実行され、事例管理システムに記される。(2.17.())

 

 

 

(4)処理に要する時間と「急行走路」方式

 

 

 

 「リード氏(当時の英国議会オンブズマン)は良い人だ。ただ、英国のオンブズマン制度は良すぎる。」

 (平成8年(1995)9月19日インタビューでのヨーロッパオンブズマン・ゼーダマン氏(Mr. Jacob Soderman )の発言)

  

 英国議会オンブズマンの調査の質は非常に高いとされる。それは、初代オンブズマンが、会計検査院長であったことの影響も大きいとされる。また、歴代のオンブズマンが、苦情処理の結果としての行政監視機能に重きを置いた結果ともされる。グレゴリー教授の「25年目のオンブズマン」には、次のような記載がある。

 

「もし、いくらかのオンブズマンが「素早い決着処理」の対策に彼らの優先を置き、他の者が、「公的責任の拡張された形」に注目するならば、議会コミッショナーがどちらに入るかに大きな疑いはない。英国での苦情の調査にかけられる時間と手間は、他のいかなる国のオンブズマンシステムによりなされたものより、多いとされる。議会コミッショナーの事務局は、ある程度、会計検査院長のそれをモデルにしていた。そして初代コミッショナーのサー・エドモンド・コンプトンは、彼自身、前の会計検査委員長であり、公的資金のあらゆる誤用を注意深い調査で「捜し出す」ことをしていた。議会コミッショナーとしての役割について、サー・エドモンドは、他の種類の公的不適正行政を同様に明らかにすることを彼の主な仕事と見ていたと言われる。1970年の特別委員会で彼は述べている。「私の役割は、政府によりとられた行動を調査し、政府による不適正行政があったかどうかを判断することである。それゆえ、私の調査官としての第一の仕事は、-そしてそれが正しいはずと私が確信するものであるが-、それら政府の行動が行われた政府の内部を調査して、確かめることだ。」サー・エドモンドが、「調査の利点がありそうな事案の部分について深く入っていくこと」と述べたことは、大変重要なことである。彼の目からすれば、それが、彼の問い合わせが直接に行われるべき「調査の絶対の原則」であった。彼は、苦情の政府自身の調査で、政府をあてにできると感じてはいなかった。」

 

 調査の高い質の確保には、ある程度の調査の時間が必要である。しかし限度がある。裁判より簡易、迅速な問題解決ということに支障が生じるようになってはならないが、それに近い状況が英国では生じている。

 

 「25年目のオンブズマン」での、英国議会オンブズマンの問題点の指摘は、次のようになっている。

 

1967年に創設されてから25年後の議会コミッショナーのスキーム(構図)は、今日、歯が欠けているという理由では、あまり批判されていない。問題は、そのシステムが、現状より有効に、大いにもっと広く使い得るというである。議会オンブズマンが、あまり使われていないのは、オンブズマン事務局にとって「門番」であり、政治的「磁石」である下院議員の中に、限定的な感激しか生じさせていないからである。調査資料から言えることは、議員の態度は、主に、オンブズマンの「特別な」管轄についての制限と、事務局が苦情の調査に要する時間の長さに対する不満によるものと言えよう。しかしながら、議員のこれらの(オンブズマンの)構図の側面についての不満は、議員からの、選挙民の問題の「素早い処理」による解決の要望と、歴代のコッミショナーによる事務局の「監視機能」に重きを置く姿勢との間の相違の現れではないだろうか。議会コミッショナーの構図のあらゆる可能性が理解されれるならば、事務局の機能について、一般国民と議員の間に、より多く認識されるために、コミッショナーの管轄に関する付託の拡張、調査の「完了に要する」時間の平均を速くすること、そして多分、調査における「2車線」方式の導入、これら全てが必要であると論じうるであろう。」

  

 これが、「30年目」になろうとする199610月の議会特別委員会の第4次報告書になると、問題点から、議員が使わないという部分が抜け、処理時間の長さが前面に出て来ているのである。

 

1995年、546人の議員が苦情をオンブズマンに申し出た。それは下院議員の85%になり、数字は「かつてないほど高い」。彼は1706の苦情を受け取った。これは1994年の数字の約28%近くの増加であった。1994年の苦情数自身1993年の35%増であった。このような容赦のない苦情の増加により、年間の事案仕事量(新しく受付けた苦情と、前年から持ち越された事案を含む)がまた急激に増大していることは驚くにあたらない。1990年に、(略)議会オンブズマンの仕事量は、苦情1002件であった。1995年にはそれは2357件となった。仕事量は2倍以上になっている。我々は、議員と国民によるオンブズマン事務局の幅広い利用を歓迎する。それは最近のオンブズマンの仕事の周知の効果と、彼の調査の質への高い尊敬を論証している。」

 

「この傾向は必然的に、調査に要する期間の平均に直接の影響を与えている。1990年において、その平均は14ヶ月と25日、あるいは約64週であった。その次の2年間においてその平均は減少し、かなり増加したのは、ここ3年のことである。1995年において調査の平均の期間は、74週であった。(略)調査の平均時間の増加が、事務局の生産性の継続的な改善の状況において生じていることに注目することは重要である。」

 

 オンブズマンや特別委員会の、制度活用に向けての従来からの取り組みに加え、1991年7月にメイジャー首相の提唱で始められた市民憲章(シチズン・チャーター)プログラムでの、苦情制度全体の見直しと啓蒙等により、急激に制度が活用されるようになっており、調査完了時間の削減が大きな問題となっているのである。

  

(a)長くなる平均処理時間

 

Q:オンブズマンの年次報告書や他の文献によると、オンブズマンの1件の事案を完全に処理する場合  の平均時間が80週近くになっていると言うことだが、・・・

 

A:委員会も大変心配している。オンブズマンの利点の一つは、裁判による場合より、迅速な処理がで  きるということなので、多くの時間を要するようになっていることは、大変憂慮するところである。

 

   こうしたことの理由は、オンブズマンのスタッフが、効率的でないということではなくて、オン  ブズマンに申し立てられる事案の数の増加が、幾何級数的なものになっているからだ。私は、それは、オンブズマンの成功の証明でもあると考える。この5年間で、より多くの人々がオンブズマンの存在に気がつき、理解するようになり、そのサービスを利用するようになった。オンブズマンは、1967年に設立されたが、最近7年位だろうか、苦情が実に急増してきたのは。その間に苦情の数は、約3倍になっている。オンブズマンのスタッフにとって、信じられないほどの苦情の増加に追いついていくこと、調査の基準を維持していくことが、非常に困難であることは、想像できるであろう。この件については、我々は、最新の委員会報告書でコメントしている。(アザート氏)

  

(b)「急行走路」方式

 

 議会オンブズマン自身、1995年の年次報告書で、「急行走路」方式の利用について触れている。

 

13.昨年の報告で、完全に調査を行った結果の全ての報告は、私の個人的な考察を入れたものと表明した。

 

 今年、私が全ての報告を見続ける間、私は、事務局の管理職に、より簡潔な事例につき、彼ら自身の責任により最終報告を出す権限を与えている。すなわち本質的に、事実に関して実質的な争いを伴わず、もし適切ならば、関係する行政部局が容易に是正に同意するもので、体系的な落ち度の指摘がなく、先例のないものではなく、訴訟上の特徴のないもので、その他、私の代理人または私の、詳細にわたる注意を必要とする面を持たないものについてである。()

 

14.いくつかの事案では、その背景がよく知られており、政務次官あるいは行政長官が、彼または彼女の署名付きコメントを求められるときに、快く不適正行政があったことを認め、是正を行うかもしれない。

 

 そのような種類の事例では、事実が行政部局によって公開されているか、提供された是正が適当で釣り合っているかを確認するために、行政部局の論文を詳細に調べるスタッフの用意を私はしている。しかし、苦情申立人と不可分な関係にある周辺の問題についての網羅的で時間を要する調査を実施する用意はない。

 

 この方法により、私は、比較的に簡潔な苦情を取り扱うのに必要とされた時間が少なくなることを望む。

 

 一つの例は、19962月に発表されたもので、苦情調査の決定から、4カ月半かからずに結論が出された。

  

15.私の事務局は、その他の次のような対策の指導的研究と評価を引き受けた。「急行走路」で扱うのにふさわしい苦情の素早い確認、根本的事実と時系列を付録に示すことにより、報告をより読みやすくし、コンピュータでより速く報告を作り、スタッフを異なったグループにし、()管理情報を増やすことである。

  

 アザート氏のインタビューでは、次のように語られた。

 

Q:ファーストトラック(急行走路)(簡略な調査で済ます方法)は、1988年に、ある議員が、オンブ  ズマンの処理の遅れを指摘し、それについての委員会審査の後に、導入されたと承知しているが。

 

A:北アイルランドのオンブズマンが既にやっていて、こちらのオンブズマンは、少しずつ始めたが、  実際に本格的になったのは、昨年になってからだ。長年の委員会の勧告を受け、前々年に9件だっ  たのが、昨年は110件ほどと、急にやりはじめたところだ。

 

Q:ファーストトラック方式と言っても8ヶ月位かかるのがあるとか承知しているが。

 

A:そんなにはかかってないと思う。

 

Q:1995年の年次報告書では、1件は4ヶ月と半月というのがある。

 

A:それは可能であろう。

 

Q:最近では、オンブズマンの処理は、裁判所での判決までの時間に近くなっているのではないか。

 

A:それでもまだそこまでは長くないだろう。ただ心配しているのは事実だ。

 

  ちょうどその件について議論している委員会の報告書があるので、それを差し上げよう。

 

  上のインタビューに出てくる議会オンブズマン特別委員会報告(第4報告)(1996.10.16)では、「急行走路」方式や、オンブズマンの権限の新たな委譲で、問題解決を図ろうとしている様子がわかる。

  

事務局の働き

 

5.1998年までに到達すべき、平均調査完了時間の目標は8ヶ月である。しかしながら、最近の傾向の中で、これが達成できる方法を見いだすのは難しい。883件の事案が1996年に持ち越された(383件が選別審査を待っており、500件が調査中である)。その数字は、1994年までの、どの年の調査を完了した事案の総数をも超えている。さらに、それら事案の226件が1年以上、事務局の中に止まっている。

 

(略)

 

7.オンブズマンは、()委員会で、「()挑戦していることは、増大している仕事量をどう効果的に扱うかであり、未処理の事案の削減のための試みであり、そして処理完了に要する時間の減少である。それらを達成するのに、もし事務局の評判を維持すべきなら、そして私の所管の中の人々が、私の見解を受け入れる用意があるならば、重要となってくるところの正確さ、公正さ、そして判断の基準を損なうことなく、なされることが大切であると私は考える。もし私が、十分な審査に基づかない質の悪い仕事をもたらしたら、彼らはたぶん私の見解を受け入れないであろう。」と述べた。我々は、サー・ウイリアム・リードに同意し、()支持する。我々は、しかしながら、事案解決における増大する遅れと、その遅れがオンブズマン事務局の評判に与えているダメージに、ますます心配させられている。正義の延期は、正義の否定である。

  

8.()選別審査された事案の79%が公式の調査を否定された。そのパーセンテージは「異常ではない」。しかし、公式調査を得られなかった苦情申立人のいくらかは、それにもかかわらず、助けがなされた。オンブズマンの「選別審査機関は、関係政府省庁や外庁に、非常によく「我々は、あなたのところが、5ヶ月の間、手紙に対して返事を書いてきていないと言っている人から、オンブズマンに出された苦情を持っている」と言って、電話をするが、それは時として計略として行われる。我々は、公式な調査の完全に厳格な実施をすることなしに、選挙区民への回答を得るのである」。1994年の9件に比べて、110事案が、この「急行走路(fast-track)」手法で扱われた。これら非公式の解決のうち、12事案において金銭的救済が苦情申立人のために確保された。しかし、サー・ウイリアムは、この実施は、注意と識別を伴ってのみ用いられるべきだと戒める。このような「急行走路」方式による苦情の解決調査事案の統計や平均「事案処理完了」時間の算定に含まれないことは、言及する価値がある。我々は、この非公式な方法により解決された事案の数の実質的な増加を歓迎する。我々は省庁に、オンブズマンが公式な調査を実施することなしに、すみやかに、簡潔に苦情を解決することを期待する。

 

9.年次報告書は、より簡潔な事案についての他の促進過程についてもまた言及している。「いくつかの事案では、その背景が、()、網羅的で時間を要する調査を実施する用意はない。」これらは、公式調査だが、より焦点を絞り網羅的ではない。1995年においては6事案がこうして解決された()

  

10.これらの方法に加えて、見直しグループが、()1995年の終わりに報告を出した。オンブズマンは、彼のスタッフの全ての構成員に送られたその見直しの結果についての記述を、委員会に提出した。その報告の中で確認された一つの原則は、「より多くの、より深い(調査権限のオンブズマンからスタッフへの)委譲に向かうが、質と一貫性の維持のため置かれる重要な予防装置に従うべきである」というものであった。より大きな委譲についてのこの原則は、オンブズマンと彼の管理職グループによって受け入れられた。

 

11.オンブズマンは、委員会に、「この前の9月まで、私、あるいは副オンブズマンの一人は、調査の全ての報告についての個人的な見解を、それが出される前に与えていた。議会オンブズマンそして医療サービスオンブズマンとしての私の仕事量の増大は、私がもうそれを行えないことを意味している。」と述べた。彼と彼の副官は、全ての報告を見ることを続けていたが、彼は、「目新しい、あるいは対立のある問題を生じない、そして事実について深刻な論争のない事案の報告を出す権限を課長に委譲」した。課長によって出された報告の数は、1995年において40であり、出された全ての報告の16%であった。オンブズマンは、経験では、これまでのところ権限委譲が必然的に情報処理時間を短くすることにならないことを示唆しているが、それが1つの貢献する要因ではあることを示した。事案の複雑さによるものである。サー・ウイリアム・リードは、1967年議会コミッショナー法の下で注意深く彼の権限について検討し、この委譲が法の規定の中にあることを確信したと、委員会に保証した。

  

12.彼はまた、特に彼の選別審査課長に、「議員への決まりきった事項の返答と、明らかに私の管轄外の調査事案についての拒否の手紙の発送」を委譲した。もう一度言うが、オンブズマンか彼の副官の一人は、苦情を最初に見ることを、そしてそれから、どのように苦情に対応するかの「舵取り」を付けて、それを選別審査部署に送ることを続けていた。複雑な事案は、まだオンブズマンのところへ最終的判断のために問い戻されていた。

  

13.この委譲の過程は、オンブズマンの事務局における仕事で生じた最も重要な変化であることは疑いない。今、仕事の険しい量が、オンブズマンによるどの事例についてもの包括的な精査を不可能にするということについての、いくらかの失望があるに違いない。しかしながら、権限委譲は明確に必要である。もちろん複雑で論議の多い問題については、オンブズマンに、彼の個人的な見解を求めるために問い合わせられ、そして、彼が制度的不適正行政の場合の検討を行うことは大切である。事案の分類は、このようにより重要になるだろうし、これを実際どのように行うかについて、注意深い考慮が与えられなければならない。そこにはまた、より大きな委譲を伴い、選別と調査の両者についての継続的な検討が必要である。我々は過去において、オンブズマン事務局が、このような質の検討につき知るための「顧客調査」を実施することを勧告したが、我々は、最近の職務執行の変更に伴い、このような調査の必要性は、全くより早急のものとなったと確信する。我々は、この暦年内に調査が実施されていることを歓迎する。

 

14.新しい管理職が1996年に結果が見られるであろう、重要な貢献をすることを始めている。新しい選別審査部署もまた設立された。我々は、医療サービスオンブズマンの事案の中での、1995-96年期における、同様な手法の採用が、平均事務処理完了時間の削減の結果となったことに励まされている。しかしながら、その年における、医療サービスの苦情の数が一定のものに止まっていたことに言及しなければならない。議会オンブズマンの側は、より多く、苦情の将来の率によらなければならないだろう。我々は、オンブズマンにより採られた行動が、やがては結果を出し、仕事の負担により正当化され、事務局の効率性に貢献することにもなると、信じる。