⑥民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律

 

 

 

民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律(平成28年法律第101号)

 

(第190回国会衆第43号 民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律案(山本ともひろ君外3名))

 

 

 

問題の流れ

政策の流れ

政治の流れ

○問題の認識

▷休眠預金は銀行の課税所得ではなく、社会的に活用する方が良いのではないか。

▷平成18年(2006年)ムハマド・ユヌス氏がマイクロファイナンス(少額融資)によるバングラデシュ貧困層救済でノーベル平和賞受賞。

▷一人親等貧困対策に金融が存在していないという思い。駒崎弘樹氏(NPO法人フローレンス代表)が平成21年(2009年)韓国でのNPOシンポジウムで「休眠口座基金」につき知る。

▷平成24年(2012年)2月、笹川陽平日本財団会長、産経新聞「正論」で「「休眠預金」を社会的に活用せよ」と。

○多様なアクターの様々なアイディア

○議論による修正、検討対象の選定

▷駒崎氏による提案等、平成22年(2010年)新しい公共円卓会議等で議論始まる。

▷平成24年(2012年)3月休眠口座国民会議発足、5月休眠口座について考えるサイト立ち上げ、シンポジウム、全国キャラバン

▷平成24年7月、内閣官房国家戦略室成長ファイナンス推進会議とりまとめ「2014年度中に休眠預金の管理・活用に向けた体制を構築する」と。9月に休眠預金の活用に係る仕組み・制度案の検討に係る調査(調査報告書)。

▷平成26年(2014年)4月、超党派の休眠預金活用推進議員連盟設立。

○政策形成に携わる人々の政策案の受入れの姿勢

▷民主党政権の「新しい公共推進会議」での提案。古川元久国家戦略担当大臣、政府として本格的に検討。

▷平成24年12月政権交代、第二次安倍内閣(自公連立)。

▷平成25年(2013年)6月自由民主党J-ファイル(政策集)に、休眠預金の活用を検討するとの記載。

▷超党派議連の動き。

 

政 策 事 業 家 (policy entrepreneur) の 動 き

▷駒崎弘樹氏は、病児保育の事業を通じ、厚生労働省や国会議員とのつながりを持ち、平成19年(2007年)に福田康夫内閣の社会保障国民会議の分科会メンバーに選ばれる。民主党政権においては、新しい公共専門調査会議委員だったこともあり、休眠口座の活用につき、政治家、内閣府の官僚等に提案できる立場にあった。休眠口座国民会議(以下、「国民会議」と言う)の呼びかけ人となり、運動を牽引した。

▷笹川陽平日本財団会長も、国民会議の呼びかけ人の一人。産経新聞「正論」でこの問題を取り上げる。平成25年(2013年)1月の国民会議シンポジウム「「休眠口座が日本の未来を創る」を開催〜ノーベル賞受賞者ユヌス博士を迎えて〜」は、日本財団が事務局を担当。同じく呼びかけ人の一人の鵜尾雅隆氏(日本ファンドレイジング協会)がファシリテーターを務め、国会議員も参加した。

▷議連の会長は、塩崎恭久代議士(自民)、会長代理は古川元久代議士(民主)、幹事長は大串博志代議士 (民主)、事務局長は山本ともひろ代議士(自民)

 

 

 

⑤での整理のうち、(エ)の雨水法案での加藤議員の動きは、超党派の合意形成への動きを慎重に積み上げていった国会議員の動きなので、若干特異だが、それ以外の部分をおおよそ掌握し、「草の根ロビイング」を提唱する駒崎が関わった法案である。

 

駒崎の提言は、新しい公共推進会議のメンバーでもあったことから、民主党政権下の国家戦略室で「2014年度中に休眠預金の管理・活用に向けた体制を構築する」という取りまとめがなされるところまでいっていた。政権交代がなければ、閣法での対応もあったのではないかと思える。ここで政権交代を迎えるが、氏が呼びかけ人となった休眠口座国民会議のシンポジウム等の動きもあり、自由民主党も平成25年(2013年)6月のJファイル(政策集)に、「休眠預金の活用を検討する」とし、その後の超党派の議員連盟の動き等の中で、議員立法の提出に至った。

 

国民会議の呼びかけ人には、先の④の特定非営利活動促進法制定に関連した松原明氏のほか、青山社中の朝比奈一郎筆頭代表、BLPN(ビジネス・ロイヤーズ・プロボノ・ネットワーク)のメンバーの一人でもある大毅弁護士もいる。大弁護士の事務所のホームページには、平成23年(2011年)2月21日のところに、「当事務所とNPO法人フローレンス(代表駒崎弘樹氏)との間でプロボノ支援に関する顧問契約を締結しました。同法人代表の駒崎弘樹氏が取り組む休眠口座基金の創設プランの策定につき当事務所が法律支援業務を行います。」との記述があり、政策の動きの「市民立法」の部分をプロボノ活動で担ったことがうかがわれる[1]

 

本章でアドボカシーの担い手と考えるNPO関係者で、ソーシャルビジネスの旗手、社会起業家の駒崎が関わった案件であり、駒崎はこうした実践の中で「草の根ロビイスト」の活動を推奨する文書を書いている。明智の書籍も同時期に出されている[2]

 

これらの中には、社会を少しでも良い方向に変えるためには、市民の立場で政治家にものが言える環境が必要との思いから、「マニュアル」としての記載があり、例えば、ロビイングセットの基本として、「①要望書(提言書)、②団体概要(住所、代表、活動内容など)、③補足資料(体験談、データなど)、④新聞の記事など。」とし、要望書については、「日付と連絡先を入れる。フォントは明朝、本文の大きさは10.5」、「要望はときなく具体的に、簡潔に」、「要望書はA4、1~2枚程度」、「すぐに他の人へ説明できりょうなわかりやすい内容で」等となっている。国会議員へのアプローチについて「どこか一つの政党に偏って行うのではなく、超党派で様々な政党の議員に働きかけるようにしよう。」「まずは、与党野党の順番で回ろう。さらにそのなかでも与党が複数ある場合は大きな党から順番に回る。これは野党の場合も同様である。」「なぜなら、与党というものは内閣と一体であるため、与党の議員であれば直接行政・官僚に話を通すことが可能だからである。」「各政党に当選回数の多い議員を必ず一人は確保することが重要になってくる。あとは、当選回数が1回生でも、2回生でもかまわない。味方となる国会議員は多いほうがよいのでなるべくたくさんの国会議員に声かけしよう。」等とある[3]

 

⑥の法律の内容については、いろいろと意見が分かれるところがあるかもしれないが、法律の成立という結果においては、「草の根ロビイング」のあり方自体はこの時点では肯定されていると考える。課題は、こうした動きが、こうした「マニュアル」的なものの公表等によって、他のNPO関係者等にどう広がっていくかである。

 

シーズの関口宏聡代表理事も、駒崎との対談で次のようなことを話している。「政治参加は投票だけではないことを伝えたいです。自ら立候補したり、ロビイ活動をしたり、デモや寄付をしたり、いろいろな参加方法があります。でも、どうしても政治参加というと投票のことばかり言われてしまう。NPOも、発想が貧弱ではいけないと思います。課題は現場にあるのですから、自分たちで声を上げていくことが必要ではないでしょうか。そういった意味でも、ロビイングは大事です。ロビイ仲間、議員会館で見かける仲間が増えると嬉しいな、と思います。今は駒崎さんくらいしか見かけない(笑)」と述べている。これに対し、駒崎も「そうですね。議員会館に行くと、確かに関口さんとはよく会いますね(笑)」と応じている[4]

 

 

 



[1] 大総合法律事務所(http://www.tsuyoshidai.jp/topics/index.html

[2] 駒崎弘樹、秋山訓子『社会をちょっと変えてみようーふつうの人が政治を動かした七つの物語』岩波書房は2016年3月、明智カイト『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』光文社は2015年12月出版。

[3] ここでの引用は、明智、前掲書の「付録ロビイング入門」(239頁以降)の記述を掲げている。駒崎・秋山の前掲書の「第Ⅱ部」にも駒崎の「「じゃあやてみようか!」と思った人へ」「草の根ロビイストで行こう!あなたが社会を変える方法」(189頁以降)に、「じゃあ実際どうやろうか」についての記述がある。

[4] 駒崎弘樹「「誰でもわかるNPO法改正」何がどう改正されたのか。シーズの関口さんに聞いてみた。」Yahoo! JAPANニュース、2016年7月4日。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komazakihiroki/20160704-00059602/