②自殺対策基本法

 

 

 

自殺対策基本法(平成18年法律第85号)

 

(第164回国会参第18号 自殺対策基本法案(内閣委員長提出))

 

問題の流れ

政策の流れ

政治の流れ

○問題の認識

▷平成10年(1998年)自殺者年間3万人の報道。

▷平成13年(2001年)10月NHK「クローズアップ現代」自死遺児問題、自殺対策の必要性

▷平成17年(2005年)5月、NPO法人自殺対策支援センターライフリンク(以下、「LL」)と国会議員有志の共催「自殺を防ぐために今私たちにできることは」シンポジウム(参議院議員会館)

○多様なアクターの様々なアイディア

○議論による修正、検討対象の選定

▷平成13年山本孝史参議院議員の依頼による参議院法制局、常任委員会調査室による政策案の作成。

○政策形成に携わる人々の政策案の受入れの姿勢

▷平成13年あしなが育英会から山本議員に対する(自死遺児)問題認知。

▷平成17年参議院厚生労働委員会参考人質疑、決議。

▷議員参加のシンポジウム。

▷平成18年(2006年)法律制定10万人署名。

 

政 策 事 業 家 (policy entrepreneur) の 動 き

▷山本孝史参議院議員は、専門家の協力の下で具体的な政策案を提示し、国会内外の認知に務めた。平成18年5月の参議院本会議でがん告白。がん対策基本法と自殺対策基本法の早期成立を訴えた。

▷尾辻秀久厚生労働大臣は、自殺対策に対して前向きな取り組み方針を示した。

▷参議院厚生労働委員会与党理事武見敬三議員は、山本議員と協力し、与党の取りまとめにあたった。

▷LL代表の清水康之(元NHKディレクター。上記「クローズアップ現代」を制作)は、平成17年2月の参議院厚生労働委員会を傍聴し、山本議員と出会い、共に立法活動を行うようになった[1]

 

 

 

 勝田の先行研究によるものをもう一つ掲げる[2]

 

本法律の特徴的なものとして勝田は「本事例が示すのは、野党議員による提案であってもアジェンダになりうること。現実に受け入れ可能な政策案を形成し、政治的機会の変化を捉えれば法制化は不可能ではないということである」とし、市民の役割としては、「第一に、潜在化していた自殺者、その家族の問題を当事者として世間に訴えるという問題認知である。第二に、省庁縦割りのなかで有効な処方箋が示されない状況のなか、個別対策の限界を指摘し、総合的な対策の必要という処方箋の方向を決定づけたことである。第三に、署名活動等を通じて国民のムードを高め、政治の流れを引き寄せることである。第四に、国会内で議員と共催したシンポジウムは、市民からの要望であるということを国会内にアピールする意味があり、与野党の対立を超えさせるという点で政治の流れのなかで決定的な役割を果たした」としている。

 

議員以外の政策事業家の側から見るならば、NHKのクローズアップ現代のディレクターで自殺遺児問題の番組を制作し、その後ライフリンクの代表となった清水康之氏の活動が、後に自らのがんを参議院の本会議で告白し、がん対策基本法と自殺対策基本法の成立を訴えた山本孝史議員との出会いをもたらし、それが大きな弾みとなったと言えよう。

 

山本議員の活動は、与党の武見敬三議員や尾辻秀久厚生労働大臣という理解者を得る。

 

 南野議員にしても、山本議員にしても、「政策の窓」を開け、議員立法の提出、成立を実現する特別の意欲と能力を持つ者であるには違いないが、南野議員の①の例はともかく、通常は、そうした議員を動かすも、政策事業家の役割である。

 



[1] 明智カイト『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』光文社、2015年、32頁。

[2] 勝田美穂「自殺対策基本法の制定過程-「市民立法」の観点から-」『日本地域政策研究第10号』日本地域政策学会、2012年3月。表4-4-2は41頁の記述を中心に作成した。この後の引用部分も同様。本法律の分析については、「市民団体のアドボカシーによって成立したとされる法律の分析を通じて、この問題に積極的に取り組んだ国会議員の存在を抽出し、これを政策起業家として位置づけた」ものとしている。勝田美穂『市民立法の研究』法律文化社、2017年、64頁。