3.救済

 

 

 

 議会オンブズマンは、調査の結果、不適正行政とそれに基づく不当な扱いの存在を認めた場合、関係行政機関に対し、その是正を求める。これは、法規に根拠を置くものではなく、事実上行われているものであるが、当然の役割と見なされている。その是正の勧告は強制力は有しない。不当な取り扱いが是正されずにいる場合に議会に特別報告書を提出することは、前述のとおり法定されている(1967年法第10条第3項)

 

 

 

(1)救済の確保

 

 

 

 苦情の救済における基本的な形は、謝罪、間違いの是正等である。苦情申立人が求める多くのものがこうしたものである。これらに加えて金銭的救済も行われる。

 

 上述の如く、強制力を持たないオンブズマンの勧告による救済の確保には、議会オンブズマン特別委員会も大いに関心を寄せている。最近では、次のような政府見解を引き出している。

 

○議会コミッショナー特別委員会の「不適正行政と救済」に関する報告書についての政府の対応

 

ランカスター公領長(日本の総務庁長官に該当する大臣)のメモ

 

 このメモは、特別委員会の報告に対する政府の対応を説明するものである。

 数字をつけられた勧告は、特別委員会の報告で示されたものである。

  

1.現在の不適正行政の事案における救済についての指導(ガイダンス)は、時代遅れで、苦情申立人の権利より国庫の防御の方に注意が向けられている。我々(議会コミッショナー特別委員会)は、ネルソン氏(大臣)による、救済と任意の補償についての指導の見直しがなされているという声明を歓迎する。我々は、この報告の結論が考慮されることを希望する。[Para.5]

 政府は、この勧告を受け入れる。大蔵省の財政的補償についての指導は、見直しがなされており、省庁との協議が完了した時に改訂されるであろう。委員会の結論と政府の対応は、この改訂と、救済と補償に関する大蔵省と内閣府(Cabinet office)の共同指導、並びに市民憲章の作成において考慮に入れられる。

  

2.「不適正行政の結果としての不正義に苦しめられている人々は、彼または彼女が、もとの状況で正しく扱われた場合と同じような立場に戻されるべきである。」[Para7]-我々はこの原則が、不適正行政の事案における救済の給付についての将来の指導に、正式に取り入れられることを勧告する。[Para.8]

 政府は、不適正行政があった場合には、直接、容易に金銭的損失を受けた者であるという資格を与えるようにし、省庁や外庁(エージェンシー)は、不適正行政が起きなかった場合に苦情申立人がいたであろう地位に戻すレベルの救済を行うべきであるということに、合意する。改訂された大蔵省の指導は、この一般的な原則を明確にするようにする。

 不適正行政により引き起こされた不正義が、金銭的に測ることができない場合には、その地位を常に元通りにする、あるいは回復することは可能ではないが、省庁や外庁は、他の是正方法、例えば、謝罪とか、そうした不正義が繰り返されないことを確保する制度の改正を申し出るべきである。

 

3.我々は、救済についての改訂された指導が、オンブズマンが示した「不適正行政」の例のリストを含むことを勧告する。その指導は、これらの例を、省庁にとって、彼らの行政行動を考える上での、有効なチェックリストとして勧告すべきである。[Para10]

 政府は、この勧告を受け入れる。そのリストは、改訂された指導に含められるであろう。

 

4.不適正行政が明らかになったところで、影響を受けた他の人々を捜し出して、救済を与えるという明確な指示が、省庁に対してなされるべきである。[Para.12]

 

5.我々は、全ての省庁と外庁が、社会保障省(DSS)の例に従い、常に、不適正行政により影響を受けた全ての人々を明らかにし、適正な救済を行うという要請について、苦情を扱うスタッフに対する指示を出すことを勧告する。[Para.12]

 政府は、省庁や外庁が、それが合理的に実行可能な時はいつでも、不適正行政が生じたことで影響を受ける全てのことを捜し出し、適正な救済を与えるようにすべきであるという原則に同意する。それは多分、影響を受けたそれらに関係のある省庁に適用することを求めることになろう。

 この原則を適用するにあたって、省庁や外庁は、「法的資格と行政手続」に関する指導要綱(ガイドライン)(LEAP)を参照することになろう。

 そこには、(例えば省庁や外庁が、不適正行政により影響を被った人から、一段階あるいは更なる隔たりがある場合、)組織の日々の職務遂行や、不適正行政の主たる要因であった制度的欠陥の是正の可能性に不利な影響を及ぼすということで、影響を被った他の人々を捜す過程が、行政上非常に厄介であると判明する例が生じるであろう。このような場合には、手法は、サービスを改善するために、また、不適正行政が繰り返されないことを保証するため制度的欠陥に注目するために、より適格に使われることになろう。

 

6.スタッフの教育は、間違いを認め、いかなるなされた害も是正し、同じような失敗を再び生じさせないようにすることを確実にする努力に置かれる価値を強調すべきである。また、不適正行政を隠す企みやその結果は、深刻な罪と考えられるであろうことを、明らかにすべきである。[Para.13]

 政府は、スタッフの教育において、失敗がなされた場合の、組織にとっての優先順位は、「非難の文化」を避け、その代わりに進んで失敗を認めることと、同じような過ちを繰り返さないことを保証するための、即座の、そして有効な救済の供給を助長することであるということを、強調すべきであることに同意する。組織においてこのような方針が明確に打ち出された場合でも、しかしながら、それにもかかわらず、不適正行政やその直接の結果を隠すことがなされれば、それは、懲戒の罪と考えられるべきである。

 

7.我々は、全ての省庁や外庁における管理運営が、不適正行政のいかなる反復や傾向についても、注意をなされるよう、指導されることを勧告する。誤って行ったことについて、そして、そのような失敗の再発を防ぐために、人員訓練と規律の観点からの、あるいは制度の観点からの合意された行動につき、覚え書きがなされることを保証するための制度が適切に置かれるべきである。[Para.15]

 政府は、この勧告を受け入れる。多くの省庁において、このアプローチは、良い管理実行に関するものとして、既に採用されている。

 

8.我々は、省庁の権限の委任の限界と、外庁の再委任は、一致すべきであると信じる。我々は、委任の限界の基準が、省庁に適用され、再委任の下位の基準が外庁に適用されることを勧告する。[Para.21]

 大蔵省は、金銭的損失を伴う不適正行政の事案の扱いにおける委任の基準のレベルの利点を考慮するだろうし、さらに委員会にやがて報告するであろう。しかしながら、委員会が示しているように、基準の委任のレベルが適当でない事案も出てくる。例えば、サービスや省庁が新規のものの場合、あるいは、代わりに、省庁や外庁が、そのような問題を扱う幅広い経験がある場合である。大蔵省の長く継続する実行基準は、そのような要因に照らして、委任のレベルをセットしている。既に省庁によって享受されている委任のレベルを減少させることの影響を持つ、いかなる基準化も望ましくないであろう。

  

9.児童援護庁を巻き込んでいる問題と遅れが、対応しなければならないものとしてあるが、十分な補償スキームの下での救済を速やかに考えることは、最も重要である。大蔵省への、補償についての各々の事例の照会のみが、このプロセスを遅くすることができる。[Para.22]

 大蔵省は199410月に、児童援護庁を含む、不適正行政の事案のため、250ポンドの限度額での省庁への権限委任に賛成した。1995年3月にこの限度額を見直すことが計画されている。委員会での証人としての説明のとおり、大蔵省は1、2日のうちに、その賛同を必要としていた児童援護庁の事案を、扱っている。

 

10.我々は、省庁や外庁による救済の給付を監視し、助言を与えるための「救済チーム」を憲章機関の中に設立することを勧告する。[Para.25]

 政府は、救済と金銭的補償の問題について、省庁や外庁に助言を与える市民憲章の機関と大蔵省の間に密接な協力関係があるべきだという、特別委員会の見解を受け入れる。

 政府は、市民憲章の原則の線にそって機能することを確かにするため、公共サービスの苦情制度の幅広い見直しを行っている、市民憲章苦情特別委員会からの、用意されている報告書に焦点をあてた、救済チームについての勧告を考慮するだろう。

 

11.我々は、全ての省庁が、救済の検討についての文書による内部指導の作成を勧告する。省庁は、内部の事案と、特に、救済の要求を検討するための基準を与えることができる議会コミッショナーの事案の両方の例を示すべきである。我々は、現在の制限的な、そして矛盾している委任された限界の緩和と結び付けられる、内部的指導を承認する救済チームの存在を心に描くであろう。[Para.29]

 政府は、公共へのサービスを行っている省庁は、不適正行政の事案における救済の検討について内部の文書による指導を作成すべきであるということに合意する。政府はまた、この指導が適当な例を含むべきであることに合意する。市民憲章の機関は、そのような指導を描くこと、あるいは、必要により改訂することにつき、省庁に対し、助言するであろう。

 

12.我々は不適正行政のための補償の手段として、省庁や外庁により1年間になされた全ての支払いは、任意のものでも成文法に基づくものでも、その省庁の年次報告書に概要の形で含まれることを勧告する。[Para.30]

 政府は、この勧告を受け入れる。省庁と外庁は、受取人の秘密の保護を保証するように要約された、補償の支払いの詳細を、彼らの1995-96年の年次報告書に含ませることが求められるであろう。

 

13.我々は、目新しい、あるいは論議を呼ぶ支払いについては、提案される救済チームに、決定について問い合わせられることが継続的に行われることを勧告する。[Para.34]

 政府は、補償の支払いを含む目新しい、論争のある事案は、目新しい、論争のある支出のあらゆる形の事案の時のように、引き続き大蔵省に問い合わせをすべきであると考える。個々の事案に関する決定には、公の資金のための重要な意味を持つことがあるかもしれないので、大蔵省の継続的な関与は必要である。

 

14.指導は、「他の事案」の検討によりすみやかに改訂されるべきである。どんな言及も、いかなる申立要請の50パーセントの自動的な縮小について行われるべきでない。彼あるいは彼女の元々の状態に申立人を戻すいかなる意図の、法定の権利と自制の不足への問い合わせが削除されるべきである。[Para.37]

 他の事案の取り扱いについての、大蔵省指導の項目について、改訂作業がなされている。どんな申立要請についても50パーセントの問い合わせが取り除かれ、そして彼らの元々の状態に苦情申立人を戻すことについての状況が、勧告2に答える形で言及される。しかし、その指導は、『政府会計』の一部なので、金銭的な救済に対するどんな法定の権利もないだろうとそれが記録すべきであることは、全く適当である。

 

15.我々は、内国歳入庁、関税物品税庁を含む全ての省庁が、自動的に、心労と苦痛に対する補償が、正当化された苦情の事案で、当然与えられるべきであるかどうか考えることを勧告する。[Para.45]

 政府は、省庁が、苦情申立人に不適正行政が心労と苦痛を引き起こしたかどうか、これが救済を決めることで行われるべきかどうか検討すべきであるということを受け入れる。しかしながら、政府は、金銭的補償が心労と苦痛に関する補償が、非常に例外的な事案においてのみ正当化されるということについて、オンブズマンに同意する。

 

16.我々は、指導が、心労と苦痛への支払いについて、決定のために自動的に大蔵省に問い合わせすることをしなくするように改訂することを勧告する。決定のためには、提案されている救済チームへの問い合わせが、提案された支払いが委任の制限を超える時のみに生じるべきである。しかしながら、いくらかの支払いが必要と省庁が結論付けた事案において、支払われる補償の適当な額については、救済チームに自動的に協議されるべきである。[Para.46]

 政府は、将来において、省庁が、仮に必要とされる額が委任の範囲内であるなら、大蔵省へ事案の問い合わせをすることなしに、不適正行政により引き起こされた心労と苦痛に関する補償の支払いを成し得るようにすべきであることを受け入れる。政府は、心労と苦痛についての支払われる額は、責任ある省庁や外庁の問題であるべきであると考える。

 

17.「わずらわしい(Botheration)」支払いは、もし苦情の取り扱いが、それ自体不適正行政の時のみ、考えられるべきである。そのような不適正行政は、苦情の取扱いの粗雑さ、不適当さ、そして過度の遅れ、といったような、苦情申立人に役人から示された悪意、あるいは、苦情(処理)装置が、特に、不適正行政の明快な事例を効果的に考慮することをしなかった事案におけるような『構成的な不適正行政』から成るのかもしれない。我々は、これらの基準が合理的に明白であり、大蔵省へそのような事案の自動的な照会をするどんな必要性もそこにはないとみなす。その代わりに我々は、別の『心労と苦痛』に対する支払いのときに、救済チームとの自動的な相談を行うことを勧める。[Para.47]

 政府は、それ自身不適正行政になるやり方で、苦情が扱われた事案における救済のいくらかの形を、省庁は考慮すべきであるということを受け入れる。例外的な事案においては、財政的な補償が適切であっても、他の場合には公的な謝罪や他の救済の形がより適切であるかもしれない。

 

18.いつも、全ての政府部局が、苦情申立人の純粋に金銭的な損失を回復させるという、最も重要な目的を心にとめておくために、適度に柔軟性のある利子補償についての政策を適用するよう、我々は勧告する。我々は、来たるべき指導がそのように助言するよう、勧告する。我々は、最もそのような支払いに慣れている省庁の法定のスキームと『最も良い実行』を心において、全ての省庁と外庁が、利率のより一貫した選択に努めるよう、勧告する。[Para.52]

 政府は、金銭的救済のいくつかの事案において、利子の損失の要素を含めることが合理的であろうということを受け入れる。大蔵省は、そのような不適正行政の時に省庁や外庁により用いられる利率のより一貫した形を実現できる方法を検討するであろう。

 

19.我々は、省庁や外庁が、金銭的な補償に値するということを申立人が信じている苦情について、そうした面も含んで、適切な救済のあり方について、苦情申立人と相談するように勧める。我々はまた、全ての省庁が、金銭的な支払いが不適正行政の償いとして行われた状況を、効果的に広報するように勧告する。[Para.55]

 政府は、省庁や外庁が苦情申立人と、可能な場合、苦情の正確な性質と、そしてまた苦情申立人により期待される救済の性質を確認するために協議を行うべきであるということに同意する。救済のための基礎的ルールが明確なことが大切であり、政府は、省庁が不適正行政に対して補償の金銭的支払いをした状況を効果的に広報すべきであるということに同意する。

 

20.我々は、その指導が、いかなる金銭的な補償も含み、そして、どのように申し出された金額が計算されたかについての説明を規定するように、変更されるよう勧告する。[Para.58]

 政府は、この勧告を受け入れる。金銭的補償の受入れには、利子の要素を内容とし、いかにこれが計算されたかということを含む基準についての説明が与えられるべきである。 

 

21.我々は、・・・どのような判決者(adjudicator)のスキームにおいても、本質的要素に関して、救済チームからの明白な主要な指導が必要であると認識する。[Para.62]

 政府は、市民憲章機関が判決者のスキームの設立についての指導を発行すべきであることに合意する。そうした指導は、苦情申立人特別委員会の来るべき報告のどのような関連のある勧告についても行われる必要があるであろう。

 

22.我々は、苦情の判決者(adjudicators)についての全ての委任事項が、判決者間の基準の一貫性を保証するために、救済チームによって承認されるように勧告する。我々は、全ての判決者が、苦情に関して省庁や外庁に行った勧告につき、苦情申立人に直接連絡するように勧告する。[Para.65]

 政府は、憲章機関が、勧告21に対応することに言及する指導と同じ時に、苦情の判決者の委任事項についての指導を発行すべきということに同意する。政府は、判決者が省庁や外庁に対して行った彼らの勧告について、直接苦情申立人に連絡すべきであるということを受け入れる。

 

23.我々は、どの憲章も、その憲章にかなうことがなければ、金銭的か、あるいは他の救済の権利を市民に与えるリストにされた基準を、それを読む者が見つけられるような、はっきりした項を含むのを期待する。我々は、救済チームが、金銭的な、そして他の救済のためのスキームに可能なものを確認するために、全ての省庁と外庁の公のサービスの調査を行うように勧告する。

  政府は、憲章の基準がかなわなかった時、問題のサービスのユーザーが、適当な機関から、状況に適した適切な救済の権利を与えられることを、憲章が明らかにすべきことに合意する。新しい憲章が作られた時、あるいは既存のものが変更された時、これが明確にされることを保証するよう努められるであろう。救済のいくらかの形は、原則として、どの憲章の基準にも応えないことに応じて利用できるべきであるが、しかしその救済の性質が(金銭的であるとないに関わらず含まれるが)、例えば、基準に応えないでいた範囲であったとか、申立人が結果として金銭的損失に苦しんでいるかどうかとか、元の苦情の扱いが不適正行政的であったかどうかといった他の要素に依存するかもしれない。それゆえ、提案された方法で、基準をリストにするために、全ての憲章を変えることは、有用でなく、費用効果が高くもないかもしれない。

 

 提案の公共サービス調査については、政府がこの勧告を、自身公共サービスにおける苦情と救済のために幅広く制度の見直しを行っている苦情申立人特別委員会の最終報告書に照らし、さらに考慮するだろう。

 

1995年3月9日

  

 このメモに基づき、改訂された大蔵省の指導を次の3.(2)b.(b)に掲げる。

 

 

 

(2)金銭的救済と「任意の支払い」

 

 

 

 a.「任意の支払い」の事案

 

 苦情の救済の基本的な形は、謝罪、間違いの是正等だが、オンブズマンの1995年の年次報告書によると、1995年に、単なる謝罪以上の是正策を得ることができた事案の数が154件となっている。それら事例の紹介の記載があるが、金銭的救済が行われたものが108件で、そのうち60件以上の事案で"ex gratia payment"、すなわち「任意の支払い」が行われている。

 

 その例を次にいくつか示す。

 

 C.111/94 (事案番号)

   人種平等委員会は弁護士の会社に人種差別の雇用者に対する訴えについて申立人を手伝うよう指示した。

   弁護士は、充分な成果をあげる前に破産してしまった。人種平等委員会は適切に弁護士の行動を監視することをしなかった。3OOポンド(約6万円)の任意の支払いが申立人の旅行費用と被った迷惑に対してなされた。

 

 C.583/93

  ウナギ釣りの許可についての国有河川機関による不適当な決定。550ポンド(約10万円)の任意の支払いが、苦情申立人の 金銭的な損失を償うためになされた。

 

 C.341/92

 ある手当の受給を主張することにつき、社会保険省から与えられた情報が不充分であった。9,300.34ポンド(約186万円) の滞納金の支払いと、給付金の支払いの遅れに対する補償としての 6,976.04ポンド(約140万円)の任意の支払いが行われた。

 

 C.212/93

  戦争年金と深刻な障害手当のための要求についての処置を誤る。給付金の支払いの遅れの償いとして、167.99ポンド(約3万4千円)の任意の支払いがされた。(Ex gratia payment of 167.99 in compensation for late payment of benefit.)

 

  b.「任意の支払い」の性格

 

 それでは、この「任意の支払い」とは、どのような性格のものか。

 

  (a)基本的な考え方

 

 考え方の基礎にあるのは、次のようなことだと思う。

 

 「この任意の支払いのポイントは、救済にある。問題に理由があり、それらを見る必要がある時、我々の政府が、王様の政府であることを忘れてはならない。公務員は、王様の奉仕者であり、政策の実行をし、成文法に従うが、困っている市民の救済は王様が支持するところであり、公務員が不適正なことをした場合で、補償が必要な時、支払いをすることに問題はない。コモンロー(慣習法)、一般社会法によるものであり、成文法ではないと考える。きっと政府には何らかの責任を引き受けるものがあるのだろう。(略)英国では、任意の支払いは、王様の判断に合致するものなら、過去から多くの年月に渡って自由にできているのである。」(ジョージ・ジョーンズ教授(L.S.E.Prof. G.W.Jones)へのインタビュー(H8.10.17))

 

  (b)実際の運用

 

 実際の運用については、大蔵省の指導(Guidance)に基づき行われる。この指導は、議会特別委員会の苦情申立人の権利救済により重点をおいて改めるべきだという勧告と、1991年に始まった市民憲章プログラムの中での制度見直しを受けて、改訂されたものである。

 

HM Treasury(大蔵省)DAO (GEN) 7/96   1996年3月28

 

Dear Accounting Officer(各省大臣が兼ねているので、各省大臣宛ということになる)

 

 金銭的救済:不適正行政と憲章基準-政府の会計第36

 

 追加されたものは、不適正行政の事案と市民憲章の内容における金銭的救済についての指導(ガイダンス)である。それは、DAO(GEN)15/92の指導に取って代わるものである。新しい指導は、議会コミッショナー特別委員会の報告である「不適正行政と救済」(1994-95期の第一報告)への政府の対応と、省庁との幾度もの協議の結果を反映している。それは、「政府の会計」の第36章のための新しい項という形を取っている。市民憲章機関はより一般的な指導である「市民憲章の下での救済」というものを別に出している。

 

 この書簡にある指導は、非省庁公的機関(non-departmental public bodies)にも適用する。

 

(署名)Frank Martin (Second Treasury Officer of Accounts:会計担当第二大蔵事務官)

 

36.4 金銭的救済(Financial Redress):不適正行政と憲章基準

  

 序論

 

36.4.1 この項は、不適正行政により、個人や企業、他の機関に損害が生じたり、サービスの規格外の質のものが行われ、同様な影響があった事案において、省庁、外庁(エージェンシー)、非省庁公的機関により行われる補償の支払いについての指導を規定するものである。

 

36.4.2 この項は、DAO(GEN)15/92で示された指導を更新し置き換えるもので、市民憲章の原則を反映するものである。これは、全ての公的サービスに、彼らの行動について明確な基準を設けること、そしてサービスが悪かった時に、人々に適切な救済とともに容易に利用できる苦情手続を持つことを求めるものである。救済は、いろいろな形を取られる-謝罪、間違いの是正、手続や制度の改善の実施、支払いや、こうした行動の組合せである。事案の大半の場合は、謝罪と間違いの是正が救済の適切な形であるだろう。この項は、金銭的救済についてだけ扱う。関連する指導が市民憲章機関から出されている(36.4.10参照)。「政府情報へのアクセスについての行為規範」もまた関係がある(36.4.29参照)

 

36.4.3 この項は、補償のための支払いが、成文法的にあるいは法律的に義務がある事案、例えば、個人が法定の利子を得る権利を与えられていたり、裁判所が、省庁に対して損害に支払いの裁定をしているようなものには関与しない。示談による和解も除外される。それらは後に、堅固な法的基礎を持つ法的助言とされるであろうという前提である。またこの項は、契約の欠陥や不注意による補償の要求も扱わない。そのような事案において、省庁は、同様に具体的な法的助言の基礎に従うべきである。

 

36.4.4 金銭的救済が支払われるべきかどうかという問題が生じるであろうのは、

 a.議員により申し出された苦情の調査に伴う議会オンブズマン(全部の公式な名前は行政のための議会コミッショナーPCA)による勧告の結果として。職務年金のスキームの下の支払いに対して責任があるそれらの政府部局の事例で、年金オンブズマンによって行われた勧告に関連した場合でも、補償事案が生じることもある場合。

 b.苦情が直接なされ、省庁が不適正行政が行われていたと結論付けた場合。

 c.与えられたサービスの基準が、省庁、外庁、非省庁公的機関が市民憲章や他のものの内容として、   自身で公に約束したものを下回っている場合の内の特定の場合。36.4.12が強調しているように、市   民憲章の基準に適合しないことが直ちに金銭的救済が適当であることを意味するものではない。

 d.苦情申立人により出てきたというより、省庁自身により不適正行政が発見された場合。

 

36.4.5 この指導は、このような事案に関して行っているものである。もし、不適正行政が行われていて金銭的救済が適切であるとして受け入れられた場合、一般的な原則は、事案の全ての事実と状況に照らして公正で合理的な補償が支払われるべきであるということである。不適正行政の結果として実際に金銭的損失に苦情申立人が苦しんでいる場合、あるいは、別の方法では負担されないでいる(そしてそれがその状況の中で合理的であった)費用に直面した場合、一般的なアプローチとしては、不適正行政が生じなかった時に彼または彼女が享受していたであろう地位に、苦情申立人を復帰させるものであるべきである。実際に金銭的な損失や経費がない場合、判断のより大きな要素としては、金銭的救済が適当であるかどうかを、そしてもしそうならば、何が公正で合理的な金銭的救済を構成するかを認定することが求められるであろう。金銭的でない損失に対しての支払いは、例外的な状況においてのみなされる。全ての事案において、公の資金の適当な管理と使用についての通常の要請がある。

 

36.4.6 苦情の結果として、あるいは事案の発見により、省庁が、他の個人や団体も同じように苦しんでいることがあり得ると結論付けた場合、彼らは合理的で実行可能な場合な限り、それらの影響を受けた全てを確認することと、公正のために、救済を提供するべきであるかどうか考慮することが求められる。

 

36.4.7 これらの事案のほとんどの場合において、補償を支払ういかなる法的責任もありそうもなく、支払いは結果として任意のもの(ex-gratia)となる。(しかしながら、この分類は一般化されている。いくらかの事案においては、金銭的救済は超法規的支払い(extra-statutory payment)と定義付けられるであろう。36.2.45に指導がある。)省庁は、支払いが、その部分について、どんな負債もあるいは法律の義務の受諾をも意味しないことを、苦情申立人への書簡で明らかにすることが賢明であるかどうか、事案の状況において考慮すべきである。

 

36.4.8 36.4.1436.4.35の段落は、大蔵省の承認が必要な状況を定めている。これら事案における大蔵省の関与の主な目的は、アプローチの一貫性確保を促進し、一つの省庁が、幅広い関連事項が充分に考慮される前に、潜在的に高価でrepercussiveな先例を設けてしまうことを避けるためである。それゆえ、省庁にとって大切なのは、大蔵省の承認を求めるのと同様に、影響を及ぼすであろう他者と協議することである。そして、幅広く関係することについて法的助言を求めることもまた、適当なことであろう。大蔵省はまた、補償の支払いの妥当性と規則性の側面について省庁に助言を行うであろう。

 

36.4.9 この項の指導は非省庁公的機関にも適用する。提案された任意の支払いが、機関の委任された権限を越える場合には、事案はスポンサーの(所管する)省庁に申し出されるべきである。

 

 市民憲章の下での救済

 

36.4.10 市民憲章機関により出された指導である「市民憲章の下での救済」は、救済手続きの目的が公共サービスをより使い手に敏感に反応するものであるということを強調している。このためのメカニズムが、憲章基準-使い手が受けることを期待できるサービスの程度の記述が、憲章の基準の陳述や、関連する憲章の中に設けられるもの-とともに、効果的な苦情制度である。

 

36.4.11 市民憲章の事案における金銭的救済を考慮する時に重要なのは、サービスの受け手に対してなされた責務の性質について明らかにすることである。この点は、199311月に議会オンブズマンによってなされた声明の中で言及されている。「私のとっている一般的な視点は、次のようなものである。もし目標が必須のものと表わされていたり、あるいは、それらが応えられないならば、あるいはそれが明細に述べられた期間までに逃されるならば、人々が補償の期待を持つことを約束されていた場合には、補償的な救済の事例である要請は強い。そうでない目標の場合には、全ての個々の事案において達成されるであろう特定の行為についての強固な契約としてと言うよりも、満足のいく、あるいは不満足の行為であるかの指標として用いられる。それらは、説得力のある指標となるであろうが、しかしそれらは、積極的な保証ではない。一方において、ただそのような目標が達せられなかったからと言って、省庁には必然的に責任があり、補償がなされるべきということに、自動的になるということはない。他方において、単にそのような目標が達成されていれば、省庁の行為は必然的に責任が免れ、補償を検討すべきという訴えは無視することができる事案に自動的になるわけではない。事案については、それらの個々の利益について、またそれらの個々の状況の観点から、考慮されることが必要である。」

  

36.4.12 憲章の基準が必須のもの-権利を創設するもの-か、それとも単に行為や目標の指標-念望を強調したもの-かについての区別は、重要なことである。憲章や憲章の基準についての陳述は、使い手への責務の性格、どのような時に適格に、そしてどのような一般的な状況において、補償が支払われるかを説明すべきである。議会オンブズマンの声明は、基準が達成できないでいるのは省庁の過ちではなく、失敗の原因は、省庁の制御の全くの外のことでありうることを認めている。加えて、市民憲章機関の勧告は、救済はいろいろな形を取り得るもので、金銭的な補償が常に適当であると見なすべきではないことを強調している。苦情を行った結果として人々が最も望むものは、それらがふさわしかったものを得、サービスが改善され、同じようなことが他の人に起きることを防ぐことであるという調査が、さらに示されている。

 

36.4.13 憲章基準の達成の失敗による金銭的補償は、例えば、運転免許試験のように-利用者によりお金が支払われているサービスの供給における失敗の事案において適切だろう。そのような事案においては、いかなる金銭的救済も容易になされそうである。例えば、負担か料金が必要とされる、全部の、あるいは一部の免除や返済である。あるいは、憲章の基準の達成の失敗が、個々にとって、金銭的損失や追加的負担の結果になる場合は、この項の指導が適用される。

  

36.4.14 省庁や外庁、非省庁公的機関が、サービスの供給の失敗について救済手続きの基準の一部として金銭的救済を自身で責務として提案する場合には、提案されたスキームは、承認を求めて、大蔵省に提出されるべきである。これは、潜在的に高価な先例を作ることになる、あるいは他の政府機関に影響を及ぼしうる歳出案を規制している一般的なルールに従っている(2.4.10の段落参照)。ある省庁の、憲章基準に達しなかった場合の金銭的救済のスキームは、他の省庁のための、広く行き渡った結果となりうる。いったんスキームが認められれば、個々の事案は、通常の方法における委任された限度に従うことになる。

  

 省庁での手続

 

36.4.15 各省庁は、組織全体にわたって事案の同じ型の扱いにおける一貫性を達成するように意図された、苦情の扱いについての、それぞれにふさわしい指導を置くべきである。省庁は苦情が(あるいはオンブズマンによる調査が)制度的欠陥を指摘した場合には、欠陥のある制度や手続きの是正を確保すべきである。

  

 事案の主な分類

 

36.4.16 これらの事案のほとんどは、3つの大まかな分類に入れられよう。

 a.苦情申立人が、政府の補助金(grant)、交付金(subsidy)、給付金(benefit payment)、手当(allowance)その他の支払いについての資格の全部または一部を失っている場合、

 b.苦情申立人が、追加的負担を行っている場合、

 c.補助金あるいは給付金等の支払いが遅れて、補償が遅れのために求められている場合。

 これら分類の全てにおいて、必要とされる問題は、実際の金銭的損失と負担である。

  

   資格の喪失

 

36.4.17 この事案の形は、苦情申立人が支払いや手当の資格を失っているものである。例えば、彼または彼女が省庁により締め切り日のルールについて誤らせられたので、結果として申込が期間内に提出されなかったようなものである。省庁がルールに応じられなかったのが、公的な失敗の直接の結果であったと納得するならば、その救済は、不適正行政が生じなかった場合に彼または彼女が享受したであろう地位に、苦情申立人を戻すべきということである。支払いの遅れの補償(36.4.24参照)もまた、問題となるだろう。

 

   追加の負担と効果のない支出

 

36.4.18 この分類は、不適正行政や失敗に等しい省庁の間違いの結果として生じた追加の負担や効果のない支出の事案を含むものである。

 

36.4.19 追加の負担についての訴えの検討にあたっては、省庁は、政府が補助金、助成金、手当等についての訴えを起こす個人の費用を一般的に弁償するものではないという一般原則を思い出すべきである。しかしながら、省庁の間違いの結果として、資格の創設において、別の方法で負担しなかった費用を、個人や団体が負担させられていることにより、必要となっている時には、省庁は補償を支払うことがある。補償は、合理的な支出として弁償される水準で行われるべきである。

 

36.4.20 個人や団体が、省庁の不適正行政の結果として特別の支出(例えば、自前の費用を、適当な決定が行われるために、別の方法では必要でなかった行政の手続きを行わなければならないため、あるいは、助言や抗議のために専門家を雇わなければならないため、支出する場合)を負担した場合は、省庁は、そのような追加的費用を、合理的、合法的に負担された範囲において、弁償するであろう。しかし、強調するのは、これが、不適正行政が行われた事案についてであり、費用の弁償は、例えば、後に、いくつかの訴えのメカニズムを通して変えられた決定を、省庁が適正に行っていた場合は、適切ではない。

 

36.4.21 この分類の変形は、ものごとを処理するのに要した時間や、手続きにおいて負担させられた自前の費用(例えば、旅費、郵便費用、コピー代、あるいは電話代)による所得や収入の喪失の訴えであろう。類似のテストが適用されるべきは、ものごとを処理するのに費やされた時間が過度のものであったかどうか、支出が通常必要であるものを超えたものであったかどうか、そして事案の状況に照らして合理的であったかどうかということである。(「時間とトラブル」と呼ばれる訴えをカバーする段落36.4.30参照。)

 

36.4.22 議会オンブズマンは、金銭的支払いの勧告における元の問題を遂行することで負担される追加的費用を含めるであろう。苦情申立人はまた、オンブズマンに苦情を持っていくための費用の弁償を求めるだろう。オンブズマンは、そのような費用を省庁が支払うべきと勧告するのは、彼の通常の職務遂行ではないと言っている。

 

36.4.23 効果のない支出についての補償の検討は、省庁の不適正行政の直接の結果として、最初に正しく事案が扱われていたならば、彼や彼女が被ることのなかった支出を負担することになった苦情申立人の場合に生じてくるだろう。例としては、個々人に対して、彼または彼女が、スキームの下で援助を受ける資格を得るだろうと言われていて、その保証に照らして、元々の保証が違っていたと後で聞かされるだけで、支出を負わされた場合がある。省庁は、他の方法では負わなかった合理的な支出の補償を行い得る。

 

 支払いの遅れ

  

36.4.24 たとえ、個人や団体が得る権限を与えられたお金を与えられなかった期間の利子について、法律中にどんな包括的な資格もなくても、遅れは、議会オンブズマン法で言及された不適正行政の例の中にある。議会オンブズマンの事案における補償支払いは、遅れの要素を含んでいるだろう。そして同様に多くの省庁や外庁の憲章基準は、表明した期間内に問題の事項を扱えなかった時の補償についての規定を置く。

 

36.4.25 遅れについての補償を検討する際には、次のような点が考慮に入れられるべきである。

i.そのような補償についての額を査定する時に、通常の遅れ-適切に事の取り扱いに関わる行政の手続きの為に通常は経過する時間の期間-と呼ばれたかもしれないことを考慮に入れる必要性。これは、この期間を上回ったというだけで補償が適切であるということを示唆するものではない。このテストは遅れが過度であるか、不合理であるかのものである。

 ii.申立人自身の行動、彼または彼女の作為、不作為による遅れへの寄与が要因であるかもしれない   ということ。

 iii.遅れの結果として金銭的に苦しんでいることを申立人が考慮できる程度。

 

36.4.26 もし遅れに対する補償が、利子が支払われていたものとして計算されるべきなら、行政の簡素さのために、通常その基礎は単利であるべきである。使われる最も良い率は、特定の税の返済に加えられた利子補足のために内国歳入庁によって使われたものである。この率は、減税についてのものを含む、税法で示される公式のもとで計算されるもので、この率を使うことで、どんなそのような控除についても別々の計算を行う必要を避けることができる(36.4.34の段落参照)。現在の率の情報については、内国債入庁広報室から得ることができる。しかし、内国歳入庁の率は、全ての場合において適切というわけではなく、常にそれぞれの事案の事実が考慮されるべきである。例えば、苦情申立人が充分に立証できる、大きな現金支払いの実施における遅れがあった場合、預金されていたであろうから、銀行か住宅金融預金利率の適用が適切かもしれない。遅れが長い期間であるならば、複利が適切であるかもしれないように。一般的アプローチは資金の価値の喪失、あるいは利用の損失についての補償であるべきである。また、不適正行政の結果として、苦情申立人がローンや当座貸しにより借金をせざるをえなくなっている場合もあろう。これらは追加的負担の事案-36.4.18参照-で、支払われた実際の利子を返済するのが適切であろう。

 

36.4.27 大蔵省からの特定の指導がない場合は、個々の行動により生じた遅れについての補償の訴えは、省庁の中のものか外のものかに関わらず、受け入れられるべきでない。はっきりとここでは、省庁がそのコントロールを超えた状況により、効果的な行政の通常の基準を達成することが妨げられている。1980年代後半の報告の中で、議会コッミショナーは、次のように言っている。「私の前任者達と私は、一貫して、一般的に、個々の争いの過程における職員の行動は、それ自体、雇用機関による不適正行政に達していないとの見解をとっている」。これは産業的行為と同時に起こる他の理由のための金銭的な救済を妨げない。

 

36.4.28 通常、それ自身任意である支払いを行う場合に、遅れのための要素を加える必要はないが、省庁は、もし事案の事実において、正当で合理的なような追加であると考えるならば、それを行うことが妨げられるものではない。

 

36.4.29 補償の支払いが遅れの要素を含む場合は、苦情申立人に説明されるべきである。もしこの要素が利子の支払いとして計算されているならば、どのように計算されたかについても説明されるべきである。一般的に、金銭的な救済の受取人が、その基礎に関する説明を与えられるべきである。「政府情報へのアクセスに関する行為規範」は、省庁に行政の決定が影響を与える人々に理由を与えることを約束している。

 

 要求の他の形

 

36.4.30 これまでのところ考慮された状況が、実際の金銭的損失か負担を必要とし、金銭的な救済を考えるための参照すべきポイントを表している。しかし、今までに述べられた状況の一部か別のもの、他の背景を持つ補償についての要求(訴え)が生じてくるだろう。それらの背景は、次のように分類できる。

 a.不都合(inconvenience)、わずらわしさ(annoyance)、フラストレーション(frustration)、心配(worry)、苦痛(distress)、苦しみ(suffering)、あるいは苦悶(anguish)。このリストが示すように、可能な状況の広い範囲がここにある。要求は「時間とトラブル」(失った所得あるいは現金支払経費とは別のものとして)、苦情を扱う過程における不適正行政である「わずらわしさ」の理由からもなされる。議会オンブズマンは、そのような「見舞い(consolatory)」の支払い(また、時に「慰め(solace)」の支払いとも言われているもの)を、例外的な事案、そして例外的な理由の場合のみ勧告すると彼が言ったのは、知られているであろう。

 b.困窮(hardship)-不適正行政がもたらした窮乏のある形の状況。例としては、公務員の間違いにより、ある期間における雇用の喪失がもたらされ、生活水準の実質的な低下を起こし、収入の損失と、その損失による影響についての補償の両方の要求を伴うものがあるだろう。

c.利益を上げる機会の喪失-例えば、不適正行政の結果としての計画許可認定の遅れが、事業を起こすのを遅らせ、収入の損失を苦情申立人が求める結果となったもの。

 

36.4.31 これらの型の事案はさらに難しい(そして潜在的に大変お金がかかり、反響のあるものである)。与えられたことは、受けた損失を測る既存のものさしはなく、原因と影響の関係については、議論がなされるであろうし、金銭的救済が適当かどうか、もしそうならば、適当な水準はどのくらいか、といったことの査定は、もっとさらに難しくて、judgementalである。例えば、遅れた事業は不成功となっているだろうし、利益よりも損失になる。公的資金を使用しての、このような事案での補償の支払いは、それゆえに、特別の注意をもって着手されるべきである。非金銭的な損失への支払いは、例外的な事案についてのみ行われるべきである。救済のそれ以外の形の方がより適していることが多い。

 

36.4.32  こうした事案を検討するには、次のような点を考慮すべきである。

i.苦情を引き起こした行政の過程における-例えば、給付金の資格の創設-、ある程度の不都合フラストレーション、心配あるいは苦痛等の事実が含まれるのやむをえないことで、そしてまた苦情の調査においても避けられないものであろう。要するに、不都合等の発生は、それだけでは、支払いの根拠を構成しない。省庁は、その起こったことの程度と理由を見るようにすべきである。

 ii.不都合等の影響もまた関連して考慮されるものであろう。省庁は、訴えられた影響と見なされるものとしての補強された証拠を求める必要があろう。同様なテストは困窮の訴えにおいて重要かもしれない。

iii.苦情申立人自身の状況への関与もまた、重要な要素であろう。例えば求められた額は、苦情申立人が削減や除外の合理的段階をとることができた損失に相当するものであるだろう。そうでなければ、損失は全部または部分的に第3者の落ち度により生じていることになろう。また必要とされる職務上の行いの性格も関連して来よう。不都合等が、省庁のスタッフによる故意の行動、あるいは不適当な行いにより生じた場合は、単純な過ちの結果とは違うものとしてみなされるであろう。

iv.苦情申立人には法律上の是正策はないかもしれなくても、それにもかかわらず、決定を知らせる助けをするかもしれない法律の類似事項を見ることには意味がある。

v.求められた金額は、現実性のテストを受けるべきである。例えば、申し出られた計画許可の場合、求められた収入の損失の額は、額面価格で自動的に受け入れられるべきではない。なによりアプローチは、不適正行政が起きなかった時に、苦情申立人に資金給付されるであろうところの可能性の均衡を見るという、現実的な姿勢を確立すべきである。

vi.不適正行政の結果としての金銭的困窮の要求では、苦情申立人の金銭的状況が重要な考慮すべきことであるかもしれない。

 

36.4.33 事案の更なる分類は、補償が物理的、金銭的な資産を失うことか、たぶんより多くは、その価値の縮小のために主張される場合に、遭遇するかもしれない。例としては、省庁が、規定された機能を的確に行使できなかったり、その作為あるいは不作為により、誤った市場を創出する結果となった時である。要求のための根拠が、異論があったり、そして量が推論的であることが多く、そのような事案は難しく、そして潜在的に非常に反響のあるもので、そして特別の注意をもって近づかれるべきものである。もし金銭的救済が適正であると感じられる場合は、アプローチは、もし職務上の失敗が起きなければ、彼または彼女が置かれたであろうと主張される地位に苦情申立人を置くよりも、職務上の失敗の結果として受けている損失の一般的な評価での支払いとなるだろう。そのような地位は、必然的に極めて不安定である。

 

 税についての考察

 

36.4.34  多くの任意の支払いの特有の性質と状況は、それらが課税対象ではないということを意味する。いくつかの事案において省庁は、不適正行政が生じなかった時より良い地位に受取人を置くことを避けるために、金銭的救済の額と決める時に、これを考慮する必要があるだろうということを意味している。例としては、通常の方法で受け取ったり入手した場合に、課税されるであろう収入の損失を補償するための支払いがあろう。そのような場合の多くにおいては、25パーセント支払いを減額させるという単純な措置によって解決される。しかし、通常そうであるように、個々の事案の事実と状況が検討されるべきである。

 

 事案の大蔵省への照会

 

36.4.35  36.4.14の段落で言及したように、省庁、外庁、あるいは非省庁公的機関が、サービスを供給しなかったことのために、その救済手続きの基準部分により金銭的な支払いの約束を提案する時は、提案するスキームを、承認を求めて大蔵省に提出すべきである。その後は、省庁は、事例が、適用で、そのスキーム、あるいは委任された権限の境界線の外側に行った場合のみ、大蔵省と協議する必要がある。一般的に補償の事案と考えて、大蔵省との協議を必要とするのは、次の時のみである。

a.事案が省庁の「任意の支払い」の委任された権限を超えた場合、あるいは、

b.事案が目新しく、論議がある場合、あるいは、

c.支払いが潜在的に高価な先例をもたらすか、他の政府省庁に影響を及ぼし得るものである時。

 

36.4.3036.4.33の段落で記述された事案の形は、後の2つの記述の内の1つによくなることがあろう。利子の支払い(36.4.24-36.4.29の段落)を含む事案もまた、反響を及ぼし得るものであろう。委任の限度は、大蔵省により、その省庁の経験した事案の形、その省庁の事案を扱う制度と手続、そして問題における支払いの潜在的な影響力に照らして設定されるであろう。

 

36.4.36 前記の36.4.3036.4.33の段落で分類された事案について、議会オンブズマンにより勧告された補償の支払いを行う許可を大蔵省に求める時は、省庁は、議会コミッショナーと政府の関係について、全体にわたる政策の責任を持つキャビネットオフィス(OPS)の政府の機構と基準に関する部局(the Machinery of Government and Standard Division)への手紙のコピーをとるべきである。そして全ての補償事案において、スキームの行政が、領域のベースで異なった省庁の間に分かれ、イングランド、ウェールズ、スコットランドあるいは北アイルランドの省庁が関係する時は、その対応する部署と協議すべきである。

 

36.4.37 議会オンブズマンの章にあるように、遅れは不適正行政の実際の定義付けの中に入る。さらに補償の支払いの要求は、難しい問題となりうる。その結果として省庁の中で、そして省庁と大蔵省との間で、広範囲な協議が行われる。補償の要求はそれゆえ、全段階においてできるだけ迅速に扱われるべきである。

 

 議決事項の範囲、決算と報告における表記

 

36.4.38 省庁は、任意の支払いが関連する議決事項(the relevant Vote)の中に入れられ、そしてその事案でなく現れるいかなる事例でも大蔵省に協議すべきである。特別な条項が議会により認められている場合を除いて、任意の支払いは、指導の12.6.18の段落に従い、省庁の決算に示される、目的に従う特別な支払いとして扱われるべきである。省庁と外庁は、概要の形の中に、それらの年次報告書の中の不適正行政から生じる補償の支払いの情報を含むべきである。

 

 各省庁は更に、独自の基準を設けている。

 各省庁の予算に、「任意の支払い」用の金額があらかじめ計上される。

  原則として、大蔵省との協議でそれぞれに決められた裁量の範囲内なら、基本的に独自に任意の支払いが行える。オンブズマン事務局でのインタビューでは、その額は、5,000ポンド(約100万円)ほどではないかと言うことであった。大蔵省との協議が必要なことが多いようだ。ただ、オンブズマンのところに来る苦情の一番多い社会保険省では、そうした裁量の上限はないという話であった。

  

 社会保険給付庁での苦情への救済の実態につき、所得保障課のニール・トマソン氏(Mr. Neil Thomson)は、次のように語ってくれた(平成9219日・細部の説明は要約等整理してある)

 

Q:苦情処理の救済について伺いたい。特に「任意の支払い」に興味がある。

 

A:任意の支払いは、主に次の4つの領域をカバーしている。

 第1は、成文法で規定された資格の喪失(Loss of Statutory entitlement)である。

これは普通、省庁の誰かが、社会保険給付を求めて来た人に、誤った指示を与えて、「あなたは、この給付を受ける資格はない」と言ったような場合である。その結果、3、4年後になって、彼らが、実際に正しくない情報を与えられていたと見い出すとしよう。すると我々はその事案を再検討し、4年前の特定の日から彼らに我々は給付を受ける資格を与えるべきであったと言うことになる。なぜ「任意の」なのかの理由は、法律では1年分のみ遡って支払いをすることができるだけで、それゆえ、4年間全部というのは、法律の規定の外である。

 

Q:1年以内の分だけは、「任意の支払い」ではなく、成文法に従った支払いということになるわけか。

 

A:そうだ。我々の間違いであるので、事実を見て、顧客(受け手)に補償をしなければならない。しかし成文法によってはできない。 

  それゆえ、成文法ではない「任意の支払い」となる。

 前に示した<三島市事案>では、国保の支給額を24年にわたって誤算しているが、英国で同様なことが生じれば、24年前に遡って補償が行われる可能性が高いことが示されている。 

  第2のものは、実際の金銭的損失(Actual Financial Loss)というものだ。

  電話代、旅費、銀行利用、収入の喪失、専門家の利用費等は、顧客が証明、主張する義務を負うものである。彼らが継続的に省庁に電話をしたり手紙を書いたりすれは、費用がかさんでいく。最終的に調査が終わって、我々が「そのとおり受給資格がある、あなたの要求は正しい。」ということになれば、懸案の問題について我々と連絡するための費用や、たぶん事務弁護士(solicitor)に相談したりするだろうから、そうした時の費用等を、我々は遡り検討する。

 第3のものは、遅れ(Delay)で、お金が適切な時期に支払われなかったことによるものである。

 これは、ほとんどの場合、実際、第1のものに結びつく。顧客が本来資格を有している金額の支払いのために、自身でお金を確保しなければならなかったような場合は一つの遅れのかたちである。それはまた、実際の金銭的損失にも近い。というのは、負担が含まれているからだ。しかし、遅れが実際生じて最も重要なことは、再び4年前からの事案について言うならば、我々が彼らが受給資格があると判断した時に戻るということだ。最初の3年間について、我々は「任意の支払い」を行う。そのような状況において、我々はそのお金についての利子について考えなければならない。当省で出している「不適正行政についての金銭的救済」の本の後ろの方に、付表Cとしてそれに関する表がある。表の右側の欄に年間の利率が掲げてある。インフレで率が下がってきているのがわかる。この数字は、確か住宅組合(building society)委員会の数字で、2ダースほどの数の住宅組合の年間の利率の平均である。決まった利率が合意されると、1992年から受給資格があった人の事例では、「任意の支払い」の算定は、最初に資格があった受給額の額について行い、次に表の92/93課税年度の欄にある5.69%の利子を加える。同様に93/94年度の4.22%を、94/95年度の4.1%を加える。

 

Q:そした場合の一つの「任意の支払い」には、この第1の範疇の部分と第3の範疇の利子の部分の2つの部分があるということか。

 

A:そうだ。そしてそんなにしょっちゅう生じることを我々は望まないが、10年を超えて受給資格が遡る場合は付表のDで示してある。

複利の要素が加わり、単にその年の数字だけではなく、通しての数字が利子計算において考慮される。それは補償の支払いが非常に実質的な額になることを意味する。20年ほど遡って補償がなされたことがある。補償の額は非常に高く、何万ポンドにもなり得る。しかしあなたもわかるようにこのように、しっかりとした算定のための方式がある。そして毎年その方式は更新される。96/97年度の利率、住宅組合の委員会から情報をもらって設定される。

 

 

 (参考)(付表C)利子率

   (遅れが10年未満の場合)

 

期間(課税年)

年の利子率

86/87

7.74

87/88

7.2

88/89

7.7

89/90

9.55

90/91

10.44

91/92

7.54

92/93

5.69

93/94

4.22

94/95

4.1

95/96

4.04

   

(付表D)遅れが10年以上続いていた場合の利子の計算

 例 19955月における19771010日から19913月までの分についての1435ポンドの支払い

 

1977/78

25(1977.10.1078.4.5)

78/79

50(78.4.679.4.5)

79/80

60(79.4.680.4.5)

80/81

70

81/82

80

82/83

90

83/84

100

84/85

110

85/86

120

86/87

130

87/88

140

88/89

130

89/90

150

90/91

180(90.4.691.3.9)

total

1435 (以下略)

 

 第4の最後の範疇は大変難しいものである。それは慰謝の支払い(Consolatory Payments)である。

 不適正行政が、大きな困惑、迷惑、深刻な苦痛を引き起こした時の、大変例外的な支払いである。

 分類に従い例を示しながら説明したい。

 ・継続的間違いにより生じた大きな迷惑(Gross inconvenience arising from persistent error)

*しばしば行われた給付金支払いの不必要な中断。

 時として生じることであるが、我々が調査を進める中で、ある人が保険給付の資格を有していないとはっきりと確信できない場合、我々の職員のうちのいくらかは(交代する度に)、少し熱心すぎて、継続的にある人の保険給付の配給を止めることになろう。状況はそうしたものだ。

*情報の不当な反復的な要求。

 人は通常、不当に個人情報を得ようと情報を求められた時に、本当のことを言わないであろう。しかし、継続的にある種の情報を求めて、ある種の質問をすることが行われた場合のことである。

*職務上の、そして反復的な職務上の情報の逸失。

 組織の大きさから、時として我々は、探知するのに大きな問題を有し、人々にとって大変重要なものである情報の保存が不充分となることがあり、我々自身の過ちにより文書をなくし続けた場合、それは補償の検討を要求される。

 *苦情の扱いの大きな誤り。

 いろいろな苦情を受け付けた時に、それらを思いやりをもって扱わず、価値のあるものとして深刻に受け止めなかったりした場合であろう。

 

他にも継続的な間違いにより生じた大きな迷惑の形はあるが、いくつかのものを私の経験と本の記述からこう列挙してみた。

・大きな困惑(Gross embarrassment) 

   これも同様に主要な領域であろう。

 *不正な逮捕。

  時として生じる。もし深刻な犯罪が関係している領域の場合、我々は警察に知らせる権限を有している。が、ある人は我々が間違った人を警察に知らしてしまわないか心配している。

*執行官(土地管理人bailiff)命令の問題。

 ある人への保険給付の支払いが期限までになされなかった場合、他の組織、他の会社がその者が有する所有地を窮地に追い込むような場合である。その後の保険給付の支払いの仕方で、大きな困惑を起こすことがある。たぶんその地域の人々は執行官がやってくるのを見るであろう。

*財産の所有権回復。

  これは大変大きな領域である。大きな困惑の問題のみならず、実際の金銭的損失の問題でもある。  これは、ある人が担保抵当権の支払いの資格を有していない時、抵当権の費用は住宅経費要素の社会保険給付とされるが、不適正行政である間違った解釈により、住宅費用の支払いがなされず、抵当権に関する財産の所有権問題が生じてしまう場合がある。住宅の所有権が関係する実際の損失の  判断は非常に難しい。

*第3者に対する取扱いに慎重を要する情報の暴露。

 これも、時々起きることである。我々はそれをすべきではない。実際秘密保持の厳しい法律がある。しかし時として、間違いで情報が、気付かないうちにそれを悪質に扱う人の手に漏れてしまうことがある。電話でのやりとりでのことも多い。

*その他。

 

  ・極度の苦痛(Severe distress)

*精神的な、あるいは身体的な健康の悪化(苦しみが不適正行政の結果であることを実証するための医学上の証拠が必要となろう)。

 

  これは実際、給付庁自身で判断することではない。我々は事案を判断を求めて(社会保険省)本部に上げる。我々の扱いの結果として精神的な、身体的な健康の悪化が生じるという事案は、よく生じ得る。ある人が神経質になって困っていたり、社会保険給付を受けられないので家が取り戻されて(repossessed)しまっていることに大変心配して泣き崩れたりすることがあろう。彼らは、我々職員とコミュニケーションをとる点で困難な状況にあることにより、極端なストレスに苦しんでいることもあろう。彼らは問題を解決しそうにない。他の人々は他のことで心を揺り動かされている。

 

 この極端の苦痛についてのアセスメントは本部で行われる。本部での政策である。そして非常に多くの場合、彼らが検討をする前に彼らはある種の医学上の証拠(証言)を医師から求める。それは、これが問題の扱いの影響として、その後に生じたものであるかどうかを示すものである。これは大変慎重な扱いを要する領域である。というのは、大変判断が難しいからである。

 

Q:私は「任意の支払い」について考えるとき、それを求める側にとっては極端な苦痛というような言葉は、容易に使われ得ると思う。

しかし、あなた方がそれを確認する時には、通常は、医学的専門家に判断の助言を求めているということか。

 

A:常に医学的証拠を求めなければならないという訳ではない。

 もし、病院で措置がとられていることを見つけたら、「私の患者はストレスを被っている」という医師から既に出されている手紙を入手するだろう。また議員からの手紙で、「選挙民の話を聞くと、困難さから極端な苦痛を感じている」等々の手紙でも良い場合もある。しかし、多くの場合において必要である。判断において、実際に当該者のことを見ていれば、さらに医学的証拠が必要かどうかは、判断し得るであろう。

 

Q:この「第3者への情報の暴露」について、もう少し説明をして欲しい。

 

A:起こり得ることは、今は全てのことがコンピュータによるということからのものがある。

 我々の省庁の情報が全てコンピュータに記録されるようになったのは、ここ5、6年のことである。時々我々は外からの電話を受ける。彼らはたぶんある人について、追跡をしようとしているのであろう。彼らは電話で、「他の省庁の事務所からかけているのだが、トマソン氏の住所を確認したいのだが。」と言い、これに対し、職員の誰かが考えなしに「はい、33番地・・・」と答えてしまう。その結果として彼らはその家のドアをノックするのである。我々は個人情報を開示することが許されていないだけではなく、そのような状況では、電話をかけ直し、相手が本当に他の外庁の事務所の人で情報を伝えて良い人かを確認しなければならない。問題なのは、職員が皆、大変労働過多で「電話をかけ直させてもらいます」と言うより、情報をすぐ伝えてしまいやすい傾向があることだ。

 また、夫人が夫の物理的暴力が理由で、夫から離れて住んでいる時に、夫に夫人の住所を不注意に教えてしまったりする場合も、これにあたる。彼を彼女から切り離しておかなければならなかったのに教えてしまったからだ。このようなことも個人情報の保護の問題としてはよく生じうる。

 以上のように、社会保険省では、利子計算の仕方まで細かく定めた「不適正行政についての金銭的救済」という本に基づき、「任意の支払い」の扱いの基準が確立している。扱う職員にしてみれば、事案認定の難しさはあるが、この本に従い、ある程度機械的に対応できる部分も生じている。また、この本は、公開されており、誰でも「任意の支払い」の基準を認識できるようになっている。一般の人々が苦情を申し立てる際の助けにもなっている。

 

Q:これらのリストはいつできたのか。

 

A:この本には、書いてないが、大変新しいと思う。私は確か199612月だと思う。

 

Q:つい最近のものなのか。その前には何か別のリストとかマニュアルとかがあったのか。

 

A:これまでも常に不適正行政による金銭的救済の機会はあった。

しかし、1993年だったか、市民憲章が来る前には、決して実際には公式なものとされることはなかった。その段階で、政府は大変広く、「不適正行政があった時には、人々は補償を受ける資格がある。」と発表した。その前は、人々はそうしたものが存在しているかは良く知らなかったが、人々は「私はうんざりさせられている。これについて何かなされるべきだ」と充分強く要求していた。議員、社会福祉事務所等、市民相談所を通してそれらがなされてはいたので、常に、任意の支払いがなされる可能性はあった。市民憲章が来た時、要求が大変大きくなった。それゆえ我々も何らかの公式なものにする必要があり、ブックレットを使用し始めた。

 

  事案の判断については、特に金額の決定の面において、難しい場合があるとされる。医師の判断を求める他に弁護士の助言を求めたり、担当職員の教育・訓練を行う等して対応しているとのことであった。

 

Q:「任意の支払い」の額の判断の時等に、省庁自身でも弁護士に相談したりすることはあるのか。

 

A:ある。

 

Q:その際の費用は省庁で負担することになるわけか。

 

A:この前のものは手頃なものであった。しかし、費用は高額になりうる。利用には検討が必要だ。

 

Q:どのぐらいのが最も高額な任意の支払いの事案になるのか。

 

A:私が実際に扱ったものは、「任意の支払い」で6万ポンド(1200)のものがあったと思う。

その紳士は歯科医だった。彼は皮膚病になった。それは歯科医としては悲劇だった。しかし、1984年に、省庁から訪問した者によって、彼は社会保険給付を受ける資格を有していないと言われていた。なぜなら彼の妻が働いていたからだ。それは正しくなかった。彼は疾病給付と他の給付を受ける資格を有していた。

 

Q:奥さんが働いていたとしてもか。

 

A:そうだ。それらは国家保障として彼に支払われるものである。

しかしこの事案で、訪問した職員は、社会保険給付を受ける資格があるとは理解していなかったのであろう。その結果として、この紳士は給付を一切受けておらず、6年後に議員のグレンダ・ジャクソン女史(労働党 Glenda Jackson)に手紙を書いて、やっとそれが省庁に認識された。我々は、彼が明らかにその期間において社会保険給付を受ける資格があったことを見つけた。それをカバーするために明らかに「任意の支払い」がなされた。彼は家を失い、ストレスを被り、結婚も破局となった。病状が良くなり、また働けるようにはなったがである。それゆえ「任意の支払い」は、成文法の資格、実際の住居の分等を含む、たぶんいくらかの実際の金銭的損失、支払いの遅れに対する補償、そして極端な苦痛に対する慰謝の支払い等を見て行われた。

  我々は全ての情報を有していないので、大変な困難な場合がある。証拠を有してなければ、申立ての話をしてくる人に実際に頼らざるを得ない。報告書作成するのに、その人を訪ねる必要がある。もしあなたが証拠を有していれば、問題はない。あなたは、その話が正しいかどうかにつき、可能性の考慮の上に、有効な判断をしなければならない。

 

Q:そうすると、それぞれの職員がそうした取り扱いをできる技術を有しているのか。

 

A:それを行うのは、大変特別な能力を要することとなろう。

しかし、通常、普通の大きさの社会保険給付庁の事務所は、地域の50万人を担当し、だいたい300人のスタッフが働いており、その中には、顧客サービスマネージャーがいる。そのマネージャーは、苦情処理について責任を負う。それゆえ、最初に、問題に焦点をあてた苦情の手紙が来るのは、そうした12人のスタッフからなる小さな部局の顧客サービスマネージャーのところである。

 

Q:そうした人々が研修を受けたりしているのか。

 

A:彼らは幾らかの研修をしている。

選挙区民のために議員が書いた苦情について、そして、単なる事務所の貧しいサービスについての一般的な苦情について、そうしたものの扱いについて、特に能力を有するようにしている。彼らは、手紙を見て、話されていることが、確かに任意の支払いの範疇のものとわかると、事案がここの部署の、任意の支払いだけを扱っている部局に持って来られる。

 

 「任意の支払い」の金額の限度については、当初、どの省庁にも存在し、それを超える場合は、大蔵省と協議が必要かと考えていたが、社会保険給付庁では、そういう限度はないとのことであった。予算による縛りのみが存在するということだ。

 

Q:ちょっと最初に戻って「任意の支払い」は苦情についてのものだが、その苦情は議会オンブズマンからだけのものに限らないのか。

「任意の支払い」は、オンブズマンを通さない全ての苦情についてできるのか。

 

A:そうだ。もしそれらが範疇に入ればだ。

 

Q:金銭的救済に制限はないのか。

 

A:全く制限はない。

 

Q:この大蔵省の指導(DAO(GEN)7/9636.4.35)に、「委任の権限を越えた場合は、大蔵省との協議が必要だ」とあるので、金銭的救済に上限があるのではないかと思った。

 

A:それは管轄の制限であり、金銭的制限はない。それは、まさに、それぞれの事案の内容による。

 

Q:しかし、ある金額の下では、省庁は自由に「任意の支払い」を額を決められるが、それを超えると大蔵省と相談をしなければならないというのが、私の理解だったが、それは正しくないのか。

 

A:そうした取り決めはない。

もし任意の支払いが、本当に非常に高くなるようなら、協議をしなければならなくなるかもしれない。なぜなら、年間のそのためのお金というものは、特定の予算額として議決されているからだ。

 

Q:あなたのところでは、「任意の支払い」のためのお金を予算に確保しておくわけか。どのようにそれを算定するのか。

 

A:それは厳格に算定できるものではない。

なぜなら我々が考える金額であり、通常は前の年に使ったお金をもとに計上するものである。たぶんその前の年にも遡り、傾向を勘案することになろう。特定の金額を割り当てる。「任意の支払い」の金額には限界がなく、潜在的に支払いができるからだ。

 ある人は決定が大変高額になる場合に、権限に大変神経質になることがあると思う。そうしたことが生じた場合、実際、何ら規定がなくても、顧客サービスマネージャー達は、多分、上級職員に、話を持っていくであろう。実際、金銭的限度はなくても知らせるためである。

 

Q:これは特別委員会の報告書(ランカスター公領長メモの9)で、児童援護庁の金銭的制限を250ポンドと記述している。

    これは以前のもので、今はもっと高額であろう。これと同様なものが、こちらにもあると思った。

 

A:こうした金額の制限はこちらにはない。

 私が考えるに、たぶん特別に児童援護庁に制限がなされているのは、非常に多くの苦情が児童援護庁に対してなされるからではないか。権限を認めるために、ある種の限度を設けたと思われるが、それは、社会保険給付庁に影響を及ぼすものではない。児童援護庁だけについてのものである。

 

Q:そうすると、省庁によって制限があったりなかったりするというわけか。

 

A:この報告書にある文言は実際、金銭的制限というより、「・・・以上の支払いは、大蔵省に問い合わせる」というものである。

 それらは、より高額でなしうるが、費やそうとするお金の額の判断ができるかについて、彼らは対立しないためにやるのであろう。

 

Q:もし、この場合、児童援護庁の任意の支払いが200ポンドの時、児童援護庁は、大蔵省と協議をする必要はないと思うが。

 

A:ない。

 

Q:そのような制限は、あなたのところにはないのか。

 

A:ない。

  我々が有している唯一の制限は、遅れの支払いが特定の金額以下のお金の場合だ。

 遅れについての補償は、顧客に借りていた総額が100ポンドを上回る場合、そして示される基準により利子等の算定するが、10ポンドを上回る補償の場合のみ、支払われることになっている。

 別の言い方をすれば、もし我々が見つけた5年遡る不適正行政により、ある人の保険給付が、計算したら92ポンドになった場合、その人は利子等の補償を受けない。その人は92ポンドを得るが、遅れについての補償を得ない。100ポンド以下だからだ。限度は、高い限度ではなく、低い限度である。「任意の支払い」の性格上、上限を設けることはできない。

 

  「任意の支払い」のチェックの仕方としては、次のように考えられる。

 

  「英国で、もし、政府が不必要に多額の任意の支払いを行ったりした場合には、会計監査で指摘ができる。報告がなされる決算委員会では、その個別案件について審査することになる。そういう意味で、我々は、不適当な任意支払いがあれば、それをチェックできる。しかし、我が国の政府は、任意の支払いを減らすことに熱心である。問題が起きるとすると、多分、支払いが多過ぎる時ではなく、少な過ぎる時であろう。その場合は、不適正行政となるので、また、オンブズマンに申し出ることができる。そしてオンブズマンが調査をし、我々は何が起こったのかを知ることができる。」(ジョージ・ジョーンズ教授)

  

 c.日本の制度での検討

 

 このようなことは、日本の現状の制度の中でできるのだろうか。

 

 財政法第32条は、「各省各庁の長は、歳出予算及び継続費については、各項に定める目的の外にこれを使用することができない。」と規定されている。

 

 国民の権利が行政により侵害された場合の金銭的救済としては、例えば、当然、国民に給付されるべきものが、何かの間違いで支払われないでいた場合、訴えによりその間違いが発見されれば、その分は「各項に定める目的」の内の支払いに当然なるから、その支払いは可能だろう。

 

 また、損害賠償請求訴訟で行政側が敗訴するなど、司法的な手続きを経て、支払うべきものが確定した場合には、そのための支出が予算に掲げられるであろうから、これも可能である。ただ、この場合、判決が確定したり、和解が成立した後、その経費が計上された予算が成立する前に、あるいは歳出権限法が成立する前に、いわば「前払い」的な支払いができるかと言うと、話は違って来る。その実施は、英国における「任意の支払い」と近いものになる。

 

 実は、研修中の英国から、日本の職場の仲間に「任意の支払い」について問い合わせたところ、「行政が、勧告を受けて「前払い」的に「任意に払」ったもの」「既存の制度があるにもかかわらず、その支給要件を満たしていない状態で国が、前払い的に支払うこと」との性格付けをして、検討をしてくれた。確かに、上述の裁判確定後のような事例は、それに該当するかもしれない。しかしこの「前払い」的としか性格付けできないこと自体が、非常に成文法的、日本的なものと言えよう。日本で、政府が何らかの支出をする場合は、その根拠となる権限が必要だということが動かしがたい前提になっている。だから、その権限がないところの「任意の支払い」は、権限が「まだ」ないところの「前払い」的な「任意の支払い」としか、日本では考えられないということになる。

 

 「任意の支払い」がそうした「前払い」的な性格のものであるとの前提で、予算で認められているいくつかの制度により、財政法第32条の規定をクリアできるかどうかを検討してみると、

・予備費は、行政が支出の必要性を認めた上で該当する項目がないために支出するものだから、支出すべき項目がすでにあるものに対して前払い的に支出することはできない。

・移替えは、当初予算で所管が確定していない予算をとりあえず何らかの費目に計上して、それを最終的に所管省庁に移し替えるものだから、前払い的な性格のものとは異なる。

・流用は、目の間での予算の移動を行うものであるから大蔵当局も認めているし、前払い的な性格のものに  支出するのとは制度が異なる。

 ということになってしまう。

 

 ところが英国における「任意の支払い」は、そうしたものだけではなく、権限が生じるような事実の確定が将来的にないところでも「任意の支払い」が行われる。後で予算措置がされるものではなくて、既存の予算の中から、その特殊な事例一回きりのために支出されるのものである。決算では、当該事案の補償のための任意の支払いということで計上されることになろう。

 

 「前払い的な性格のものだから、予備費は使えない」という説明は、そのとおりだろうが、「前払い的でない「任意の支払い」」の場合、予備費は使えるのであろうか。そもそも、そうした支出自体、日本では、財政法の規定に抵触し、行い得ないということになるのであろう。

 

 ただ、日本でも、個別の救済のために何らかの財政支出をしたことがあるのかというと次のようなことはある。

・水俣病総合対策医療事業

    水俣病の発生に伴って、昭和30年代、40年代と相次いでチッソの責任、国の責任を問う損害賠償請求が  提起された。最近和解が成立して訴訟のほとんどが取り下げられたが、それまでの間に国は次のような措置を取っている。国自身の責任は認めないけれども、平成4年度から毎年度ごとに水俣病総合対策医療事業を実施し、その中で水俣病の疑いのある人に対して医療費や通院費の一部を補助する予算措置を施している。

・種痘禍事件の弔慰金

 昭和23年の予防接種法に基づいて予防接種が行われ、その結果、昭和40年代に入ると予防接種から健康  被害を受ける種痘禍事件が社会問題化してきた。そのため、昭和45年7月以降、予防接種による健康被害 に対し閣議了解に基づく救済措置が開始された。閣議了解に基づく救済措置とは具体的には弔慰金の支給である。

    当初は一般的な救済措置がなかったために弔慰金を支給するのが精一杯であったが、昭和51年に予防接 種健康被害救済制度の創設などを内容とする予防接種法の改正が行われ、被害に遭った人に対して医療手当、障害年金などを支給される体制ができた。

 

 確かに国の責任は認めずに、財政支出をしたものであるが、こうした例でも、国の施策としての決定をし、予算措置等はしっかりされている。

 では、さらに踏み込んで、類似の救済のための支出を、例えば補助金の対象の解釈の中で新たに組み込み、既存の財源の中から捻出することは可能でろうか。

 その解釈が適法なものかが争われる。

 単純に考えれば、法律上の根拠がないのに支払いをしたとなりかねない。

 法律上の根拠がないのに機関決定して「任意の支払い」をした場合、地方自治体だと、地方自治法242条の住民訴訟の対象になる。自治体が根拠がないのに勝手に公金を支出したとして住民監査請求が出され、場合によっては裁判ざたになる。実際、官官接待やカラ出張で返還請求訴訟が提起されているのは承知の通りである。

 

 機関決定せず個人の判断でそうした支出をした場合、国の職員についても次のようなことが考えられる。

 まず第一に、支出した個人の責任。末端職員で上司の命令にしたがって支出した人は機関としての役割なので、この人に責任は追及できない。責任追及できるのは、判断権限のある会計職員が前提だ。根拠は国家公務員法第82条「職員が左の各号に該当するときは責任を負う」という規定で、その各号に「職務上の義務に違反したとき」という規定がある。これに違反したとして免職や停職などの対象となる。

 あるいは、公金横領として刑法25条の業務上横領罪に当たるケースが考えられる。

 次に、「任意の支払い」を認めた上司にも、国家公務員法82条の違反が考えられる。監督者としての責任を怠ったとして「職務上の義務に違反したとき」だ。

 ただ、国の場合、機関委任してそのような「任意の支払い」をした場合、地方自治法242条のような規定はない。会計検査院の検査報告で不当支出が指摘されることはあるだろう。仮に訴訟を起こそうとしても原告適格がないとの理由で請求は却下されているようである。

 

 以上のように、日本においては、「任意の支払い」は、基本的にできないと言えよう。

 

 行政の行為により、どうしようもなく苦しんでいる人に対し、私利私欲なしに、金銭的救済を行った公務員が、日本では処罰され得る状況にある。(この項、参議院予算調査室、藤井亮二氏の協力による。)

 

 d.「任意の支払い」の制度の重要性

 

 「日本でオンブズマン制度を導入するときに、こうした支払いの制度も導入したいのなら、そのための法律を作れば良いではないか。政府の任意支払いの権限に何らかの上限を設けたりすることは必要かと思うが、法律でルールを作ることは簡単かと思う。あなたのところ制度はよくわからないが、多分そちらでも、英国と同じ様なシステムは作れると思う。()あなたの国は、法律を作って、それを可能にすれば良い。大臣なり、総理大臣にそうした権限を与えるようにすれば良い。」(ジョージ・ジョーンズ教授)

 

 英国だけではなく、ニュージーランド、オーストラリア等にも、任意の支払いの制度がある。

 

 前述のように、苦情処理の簡易、迅速性を支える「任意性」に具体的効力を持たせるためには、こうした制度が不可欠ではないかと考える。

 

 

 

(3)苦情申立人の対応

 

 

 

 苦情申立人の中には、オンブズマンの調査でインタビューをしてもらっただけで、きちんと扱われたと感激する人もいると言う。救済の形で解決されれた場合には、感謝の手紙を事務局も受け取るとのことである。

 一方、オンブズマンの判断に満足いかない人もいる。そうした場合には、裁判所に訴えることができる。

 

 議会オンブズマンの判断も、司法判断の対象となりうるのである。次に示すのは、そうした事案の報道機関用発表資料である。

 

議会オンブズマン、苦情再考へ。(199611月7日)

 

   議会オンブズマンのサー・ウイリアム・リード氏は、最近の裁判所の判決に照らして、ボーチン夫妻 (Mr and Mrs Balchin)の事案について、オンブズマンが199412月に報告した苦情を再考することを表明した。裁判により引き起こされた一般の関心(公益:public interest)と、彼に苦情を申し出た議員であるマイケル・ロード氏の合意により、オンブズマンは、今日ロード氏に送った手紙の内容(以下に示すもの)を明らかにしている。

 

19941221日に私は、ボーチン夫妻によりなされた苦情についての私の調査の最終報告を、あなたに送った。その報告が、高等裁判所における司法審査手続きの対象となってきた。それら手続きの結論として、私は全ての関係ある事実に照らしてその事案を再考することが求められている。そして裁判所は命令を出し、その効力は私がもはやfunctus officio(事務局の義務を果たしていて、そしてもし法廷が介在するのでなければ、調査を再考することができない状況)ではないということを意味している。」

 

「裁判官のセデェレイ氏(Mr.Justice Sedley)は、次のように言って、彼の判決を結論付けている。「議会オンブズマンは、もし彼が求めるなら、訴えをするかもしれない。」もちろん私は最大の注意をもって訴えを行うかどうかを検討してきた。充分な検討と考慮の結果、私の結論は、それをすべきでないということになった。それゆえ私は、裁判所の判決に従い、今日の状況において、現在利用できるすべての情報に照らして、その苦情を新たに判断するであろうということをあなたに述べるべくこのように手紙を書いている。それゆえに、あなたを通してボーチン夫妻を招き、私が私の判断を考慮する前に、裁判所の判決に照らして、彼らが挙げたい何かさらに関連ある事項があるかどうかということを聞く。私は、運輸省事務次官にも、同様な質問をしている。私は、同様なコメントを、あなたが承知しているように私の管轄ではない、ノーフォークの地方議員団代表からも求めている。私は、苦情についていかなる最終的な結論にも達してないことを明らかにし、私がそれをする前に、知られている全ての関係ある事項が確保されることを望む。

 

 この事案についても、オンブズマン事務局でインタビューを行った。

 

Q:最近裁判所で問題になった事案について伺いたい。

 

A:ボーチン夫妻の事案。

 

Q:私はこの書類を持っている。

 

A:これは報道機関への通知の書類だ。

裁判所のジュディシャルレビュー(行政についての司法判断)の事案だ。

最近まで、オンブズマンの決定がうまくジュディシャルレビューにかかった事案はなかった。唯一の他の例は、オンブズマンの報告が挑戦されたが、我々が勝ったものである。これは彼の報告について挑まれた2番目の事案である。我々は、この事案でも勝つと思っていた。しかし、我々は勝たなかった。裁判官は、法律で大変細かな点を見つけた。その内容は、PCAの報告書は、ボーチン夫妻への補償の支払いに関連するノース地方の自治体の行動について、関連する考慮を省略しているというものだ。それは、彼が、運輸省がボーチン夫妻に不当な扱いをしたかどうかの判断に影響を及ぼしたものがあると認めたからだ。別の言葉で言うならば、報告書は、ノース地方の自治体が補償を支払わなくて良いということを与えてはいなく、そして運輸大臣はそれをより強力に求めていなかったというものである。それは大変技術的な点である。それは信じられないほど維持するのが困難な理屈である。 そして・・・特に裁判官は、報告書における一つの小さなことで、ノース地方の自治体の行いについての方法を与えられていないことを見つけた。ノース地方の自治体はオンブズマンの管轄ではない。我々はノース地方の自治体に違うことを行うことを説きつけることはできない。そして運輸大臣は、我々の管轄にあり、理屈では彼は説得することができ、運輸大臣はそうしなかったが、もし彼がより一層強く説得していたら、ノース地方の自治体に違うことをやらせ、ボーチン夫妻の家を買わせたりできただろうと言う。そして裁判官は、我々が、ノース地方の自治体の決定を変えさせるべく運輸大臣に効果的な方法を報告書で与えてなかったと感じたのであった。それは難しい。判決文を差し上げても良いが、それは、難解で20ページもある長いもので、恐ろしいものだ。たぶんあなたが知りたいことは、裁判所がオンブズマンの決定を再審理できるということではないか。しかし、オンブズマンは大変広い権限を有しており、オンブズマンが権限を  不合理に(unreasonably)使ったと言われることは希の希である。この事案においては、我々みんなが感じているのは、裁判官がボーチン夫妻に良くしてあげたかったのではないかということである。というのは、彼らは大変同情できる老齢の夫妻で、家やその他のものを失っているからだ。()彼は、彼らは不利な立場にあったと言う、賢い法律的な方法を見つけた。我々は報告を見直さなければならない。オンブズマンは彼の最終報告を、彼らについての2年前の事実ではなく、今の最終の実態を見て、見直さなければならない。彼が同じ判断に達するかもしなれいし達しないかもしれない。彼は、ノース地方の自治体についてより検討しなければならない。彼は、ノース地方の自治体にではなく、運輸大臣に向け、より詳細に見て最終的には、それが不適正行政であったと言うだろう。 たとえ彼がそうしても、ボーチン夫妻はお金を得るかどうか、現状ではわからない。

 

B:多くの新聞で間違った理解の記事が書かれている。

「ボーチン夫妻は、50万ポンド以上を勝ち取った」というようなものがあるが、まだそれはずっと先の可能性である。あるジャーナリストの話では、10人中9人の他の裁判官は、この事案での指摘の点を指摘しないだろうと言っていた。ある特別の裁判官がこの事案に充てられたのだと言う。トリッキーな事案である。

 

Q:個々の苦情申立人には、オンブズマンの結論を裁判所に再審理してもらう道があることがわかれば、たぶんそれで充分だろう。

 

B:最終的には、そういうことである。

 

(平成9113日、議会オンブズマン事務局インタビューより、A:マンセール課長、B:ブラマン広報部長)