○議員立法の類型別検討

 

 

 

<議員立法の立案の契機に基づく分類>

 

 

 

 議員立法について、立案の契機を基礎として、研究者によりいくつかの分類が示されていますが、以下、岩井教授の分類を基にまとめてみます[1]

 

 

 

  まず(ア)国会関係のものがあります。国会法改正案等、国会の自律性を保つために、議員立法によって行うことが通例となっています。

 

 

 次に(イ)国民的基盤で制定されるのが適当と考えられるもの、広範な支持の下に立法されたという形式の獲得が望ましいとされるものがあります。国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)や文化財保護法(昭和25年法律第214号)がその例とされています。

 

 

 更に、(ウ)政府が依頼するもの、(エ)官庁間の所管問題を起因とするものがあります。(ウ)は、いわゆる「政府依頼立法」で、これは、昭和26年(1951年)より提出されましたが、我が国には定着しませんでした。しかし、今日でも、実質的な政府依頼と思われるものは、いくらかはあると言えるのではないかと考えます。実際に依頼がなくても(事実上、実態的に、非公式に依頼がある場合もあるでしょうが)、政府が不向きな領域を議員が立案するというような(エ)の法案にも、そうした側面が見られるものもあると考えます。

 

 

 野党提案が一般的なものとして、(オ)政党の政策を表明するためのものがあります。この一つの形は、(オ1)閣法に対する「対案」として、野党各党の独自政策をアピールするために提出されるものです。閣法と一括して審議され、時として野党の「対案」の内容が閣法に影響を与え、修正等がなされる場合もあります。今一つは、(オ2)社会的な問題を野党が先取りする形で提案するものです。提出し続ける過程で社会問題化し、閣法として、あるいは与党の賛成を得た議員立法として成立する場合もあります。そうしたものの有名なものとしては、義務教育諸学校等の女子教育職員及び医療施設、社会福祉施設等の看護婦、保母等の育児休業に関する法律(昭和50年法第62号)、育児休業等に関する法律(平成3年法律第76号)等があります[2]

 

 

 更に(カ)議員の個人的な考えにもとづいているもの、(キ)特定の業界や団体のためのもの、(ク)特定地域のためのものがあります。(カ)の例としては、酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律(昭和36年法律第103号)や動物の保護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)等が該当するとされまひていますが、各政党の基本理念等で直接触れていない等のことから、超党派的な議員の連携に発展し、成立するもの等です。(キ)には、支持団体等の要請で提出され、業界の資格を法定したり、業務範囲を明確にするための「士法」や、業務の適正化と安定等の観点から登録や業務規制を内容とする「業法」があります。(ク)の例では、山村振興法(昭和40年法律第64号)や関西文化学術都市建設促進法(昭和62年法律第72号)があります。また、災害対策の法案が多いのも議員立法の特徴とされます。特定地域のためのものとは言い切れないものもありますが、被災地域の議員が中心に立案することもあることから、本論では、(ク)に分類することとします。

 

 

 



[1] 岩井奉信『立法過程』東京大学出版社、1993年、65頁。分類された法律の例は、小島和夫『法律ができるまで』ぎょうせい、昭和54年、150頁以降も参考としている。

[2] 昭和42年、第55回国会参法第1号として女子教育職員育児休暇法案が社会党から提出され、第58回国会参法第8号、第65回国会参法第3号と同名の法律案が出されたりしたが、昭和50年、与野党共同提案の第75回国会衆法第37号の義務教育諸学校等の女子教育職員及び医療施設、社会福祉施設等の看護婦、保母等の育児休業に関する法律案が成立した。小野善康「育児休業法の立法過程:野党法案が形が変わり成立した事例として」『Artes liberals, 第47号』岩手大学人文社会科学部、1990、143頁~174頁。また全ての働く女性を対象とした育児休業法案も野党主導で第96回国会参法第7号、第102回国会参法第3号、同参法第4号、第116回国会参法第11号等が出されていたが、第120回国会閣法第85号として提出された育児休業等に関する法律案が成立した。