○「イノベーション起因のルール作りロビイング」

 

 

 

ここでは、「草の根」ではないロビイングについて触れたい。

 

「草の根ロビイング」の時期は、インターネット技術の発展を背景に、技術革新・イノベーションを起因としたロビイングが顕在化して来た時期でもある。

 

これらは、基本的に企業によるものであるゆえ、昭和63年(1988年)の、リクルートコスモス社の未公開株を広範に政治家に譲渡し、一部が賄賂と認定されたリクルート事件からの文脈で見ざるを得ない。賄賂の提供は論外だが、この事件により、自社に有利な政策決定を期待する企業による「ロビー活動にネガティブなイメージ」が持たれるようになった。

 

平成29年(2017年)8月25日の日本経済新聞では、こうしたリクルート事件の記述に続けて、「だがイノベーションの時代のロビイストは、かつての単純な利益誘導とは異なる役割も担う。時には当局に最新技術動向を提供し、対応が追いつかない当局とともにルールを作る。そんな重要性が再認識されつつある。」とする。同記事は、スマートフォンアプリ大手のLINEが主導した「情報法政研究所」、音楽・映画レンタルのTSUTAYA等のカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の「政策企画部」、多摩大学の「ルール形成戦略研究所」、平成29年(2017年)4月に発足した自由民主党の「ルール形成戦略議員連盟」等も掲げている[1]

 

平成28年(2016年)のイベントTHE BUSINESS DAYでは、「ビジネスに追い風をもたらす!ロビイングのはじめ方」という発表がなされた[2]

 

法律を所管している行政機関・省庁等とのつきあいを「特にリソースが限られた中、新しい業界・市場を創り出すスタートアップ企業においては、事業を推進する重要な要素と」なるとし、ロビイングについては、「何か新しいビジネスを始めたいけど、古い法律に規制されてできない。どうにかして法律を変えられないかを働きかけること」、「新しいテクノロジーやビジネスについて、政府の後押しで世の中の認知や理解を上げていくこと」、「既存の法律に自分の会社が引っかかりそうだ、または違反をしてしまったとき、役所と対応していくこと」、あるいは、「社会から注目されやすいビジネスをやっているので、社会的責任も問われる(略)このセーフティネットとして、協会でガイドラインをつくるような、いわば“守り”の活動」、「社会課題の解決につながるような、女性活躍や働き方改革、地方創生といったテーマに対して、「政策提言につながる意見を聞かせて欲しい」との要請に応える付き合い方」等の言及がなされている[3]

 

「対応が追いつかない当局」という点では、NPOが扱う問題と同様かもしれない。いずれにしろ、賄賂等の不正は認められない。社会に与える悪影響は大きい。企業と政治家との接触に関するネガティブイメージが、不正防止に一定の効果があるのなら良であろう。

 

イノベーションの中で、新しいルール構築が企業として不可欠で、そのためにロビイングを行う存在が生じていることは、注目に値する。基本、それら企業は、「当局」とうまく連携し、物事を解決できれば良いのだろうから、立法による解決も、閣法での対応で良いのかもしれない。「対応が追いつかない当局」の「追いつかない」事情が、省庁の垣根を越えることに由来するのなら、議員立法ということもあろう。議員立法による解決の割合に、NPO等によるものと差異が生じる可能性が考えられるが、いずれにしろ、「ロビイスト」、「ロビイング」、「ロビー活動」に取り組む動きが複数分野で生じているのである。

 



[1] 「イノベーションとルール(4)増えるかロビイスト 技術革新、政治を動かす」2017年(平成29年)825日、日本経済新聞。

[2] インターネット上で、中古品や不用品を持ち寄って売買や交換をするフリーマーケットのアプリの運営会社メルカリが主催。(http://mercan.mercari.com/entry/2016/12/20/110000)

[3] 「何か新しいビジネスを(略)」等3つ目までは、技術やサービスの普及啓発広報やロビイングを専門に行うマライカ株式会社の藤井宏一郎代表取締役社長の発言。「社会から注目されやすい(略)」等残り2つは、インターネット上で、個人間や個人法人間で仕事を取引する仕組みを提供している企業であるランサーズ株式会社の曽根秀晶取締役の発言。