○「議員立法」とは

 

 

 

 「議員立法」とはどういうものかということについて、法規との関係から整理したいと思います。

 

 

 

<法律案提出に関する規定>

 

 

 法律を国会で定めることは、まずは日本国憲法(以下「憲法」と言う。)第41条、そして第59条に由来します。

 

 憲法第41条は、「国会は国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と定めます。

 

同第59条第1項は、「法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる」とし、国会での立法は、法律の制定であるとしています[1]

 

国会法第56条(第1項)は国会議員による法律案の発議の要件を定め、「議員が議案を発議するには、衆議院においては議員20人以上、参議院においては議員10人以上の賛成を要する。但し、予算を伴う法律案を発議するには、衆議院においては議員50人以上、参議院においては議員20人以上の賛成を要する」としています[2]

 

一般に、国会議員の発議による法律案は「議員立法」と、特にそれらのうち衆議院議員の発議によるものは「衆法」、参議院議員の発議によるものは「参法」と呼ばれています。

 

また、それら国会議員の発議による法律案が成立した場合の法律も「議員立法」と言うことがあります。

 

 

 

 一方、法律案の提出は、国会議員のみならず、内閣にも認められています。

 

憲法第72条は、「内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、(略)」と定め、内閣法第5条が「内閣総理大臣は、内閣を代表して内閣提出の法律案、予算その他の議案を国会に提出し、(略)」と規定しています。内閣提出の法律案は「内閣提出法律案」、略して「閣法」と言われています[3]

 

 このように、議員立法である衆法も参法も、閣法と同様に法律案であり、両議院で可決した時に法律となります。その点において、違いはありません。

 

 憲法第67条(第1項)は、「内閣総理大臣は、国会議員の中から、国会の議決でこれを指名する。(略)」と定め、同第68条(第1項ただし書)で、「国務大臣の過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない」、同第66条(第3項)で、「内閣は、行政権の行使について、国会に対して連帯して責任を負う」、同第69条で「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」と、議院内閣制を規定しています。

 

 

 

 議院内閣制をとるという点で同様なイギリスでは、内閣の政策の具現化である法律案の提出は、法制度上、内閣には認められておらず、議員にのみ認められており、大臣である議員により法律案は発議されます。

 

大統領制のアメリカでも、法律案の発議は議員にのみ認められており、大統領の立法勧告権に基づき行政書簡とともに議会に送付される政府法案も、形式的には議員によって提出されます。大統領及び閣僚は議員を兼ねることはできず、議会で直接審議を主導する権能を持ちません。

 

ヨーロッパ大陸のフランス、ドイツでは、日本と同様、内閣による法律案の提出が認められています[4]

 

 各国それぞれ異なりますが、日本では、閣法が認められている中で議員立法の存在があります。その位置づけ、役割についての分析が必要と考えます[5]

 

 

 



[1] 「立法」の意味については、別に詳しく述べることとする。

[2] 発議要件は、昭和30年(1955年)に改正されたものであり、川人貞史『日本の国会と政党政治』東京大学出版会、2005年、173頁以降が詳しい。

[3] 憲法や国会法等で「議案」という用語は多く用いられているが、法規上の定義はどこにもなされていないため、個別の案件ごとにその性質及び内容に即して決定する必要がある。実際には、国会又は議院の審議・議決の対象となるものの多くが議案として取り扱われているが、法律案の扱いに関しては、法律案が当該規定にいう議案に該当するものとして、このような記述とした。法律案の国会への提出については、閣法の場合は、「提出」、議員立法の場合は「発議」という用語が規定上使われている。本論でも以後、その用語を使うこととするが、「法律案の提出」という用語は、「閣法の提出」と「議員立法の発議」を合わせたものとして使う。

[4] 国立国会図書館調査及び立法考査局『基本情報シリーズ⑤主要国の議会制度』国立国会図書館、平成22年。

[5] この点については、様々な形で扱う。