○遠のく財政健全化

 

(令和2214日)

 

 

 

 「令和2年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」(令和2120日閣議決定)において、「今後の経済財政運営に当たっては、「経済再生なくして財政健全化なし」の基本方針の下、デフレ脱却・経済再生と財政健全化に一体的に取り組み、2020年頃の名目GDP600兆円経済2025年度の財政健全化目標の達成を目指す」としているものの、内閣府の出した「中長期の経済財政に関する試算」によると、その目標達成は、厳しいものとなっていることが明らかである。1年前の試算と今回の試算の「【今後の展望】」部分の記述を比較しても、その実現がより遠のいていることがわかる。目標達成は「成長実現ケース」でも困難と言っているとも読め、目標堅持に大いに違和感がある。

 

 

「中長期の経済財政に関する試算(平成31130日経済財政諮問会議提出)」における【今後の展望】の記述

「中長期の経済財政に関する試算(令和2年117日経済財政諮問会議提出)」における【今後の展望】の記述

 成長実現ケースについては、経済成長率は穏やかに上昇していき、2020年代前半に実質2%、名目3%以上の経済成長を実現する。その中で、2020年度は消費税率引上げに伴う対応の効果もあり一時的に上昇する。結果として、2020年度頃に名目GDPは概ね600兆円に達する。また、消費者物価上昇率は、2022年度以降2%程度に達すると見込まれる。

 財政面では、PB赤字対GDP日は、2025年度に0.2となり、PB黒字化の時期は2026年度となる。公債等残高対GDP比は、試算期間内において、安定的な低下が見込まれる。なお、長期金利の上昇に伴い、低金利で発行した既発債のより高い金利による借換えが進むことに留意が必要である。

 成長実現ケースについては、潜在成長率の上昇とともに、2020年代前半にかけて、実質2%程度、名目3%程度を上回る成長率に上昇する。この結果、名目GDPが概ね600兆円に達するのは2020年頃と見込まれる。また、消費者物価上昇率は、2023年度以降2%程度に達すると見込まれる。

 財政面では、PBは、2025年度に対GDP比で0.5の赤字となり、PB黒字化の時期は2027年度となる。公債等残高対GDP比は、試算期間内において、安定的な低下が見込まれる。なお、長期金利の上昇に伴い、低金利で発行した既発債のより高い金利による借換えが進むことに留意が必要である。

一方、ベースラインケースについては、成長率は中長期的に実質1%程度、名目1%台後半程度となる。また、消費者物価上昇率は、1%近傍で推移する。

財政面では、PB赤字対GDP比は、2025年度に1.1となり、試算期間内のPB改善は緩やかなものにとどまる。公債等残高対GDP比は2020年代半ば以降、下げ止まる。

 一方、ベースラインケースについては、経済成長率は中長期的に実質1%程度、名目1%台前半程度となる。また、消費者物価上昇率は、0.8%程度で推移する。

 財政面では、PB赤字対GDP比は、2025年度に1.3となり、試算期間内のPB改善は緩やかなものにとどまる。公債等残高対GDP比は、試算期間内は概ね横ばいで推移する。

 

 

 「成長実現ケース」は、「アベノミクスで掲げたデフレ脱却・経済再生という目標に向けて、政策効果が過去の実績も踏まえたペースで発言する姿を試算したものである。」とする。「ベースラインケース」は、「経済が足元の潜在成長率並みで将来にわたって推移する姿を試算したものである。」とされる。「成長実現ケース」は、全要素生産性(TFP)を1.3%程度まで上昇するとするのに対し、「ベースラインケース」は、TFP上昇率が将来にわたって0.8%程度で推移するとする。

 

 平成311月の試算で、2019年度は実質GDP成長率1.3%、名目GDP成長率2.4%としていたが、令和21月の試算では、それぞれ0.9%、1.8%となっている。

 

 PB(プライマリーバランス)は、国・地方を合わせた基礎的財政収支。

 

 令和2年の試算の上記表内に、「名目GDP600兆円に達するのは2020年頃と見込まれる。」とあるが、同試算で2020年の数字は558.3兆円であり、2022595.0兆円。これをこう表現するのは厳しいかと思われる。

 

 

○令和元年12月の景気対策の効果

 

 

 

令和2213日付けESPフォーキャスト調査(https://www.jcer.or.jp/esp-forecast-top)(日本経済フォーキャスター36人(機関)による予測の集計)では、2020年度、2021年度の実質GDP増加率の予測は平均で0.5%、0.7%の増となっている。

 

内閣府の中長期の経済財政に関する試算では、1.4%、0.8%(成長実現ケースの2021年。ベースラインケースでは2021年は0.5%)の増。

 

日本銀行の令和2121日の「経済・物価情勢の展望(20201月)」では、0.9%、1.1%の増。

 

令和元年12月の政府の景気対策の効果をどう見るかが一つのポイントと考えられる。日銀の方は、景気対策効果が複数年のわたるという考えで、2021年度の成長率が1.1%増と2020年度の成長率より高く、政府の2021年度の0.8%や0.5%を上回る。民間も、2021年度の方が高くなっている。政府の方は、景気対策の効果は、2020年度中に大きく現れると見ていると言えよう。

 

 

 

○新型コロナウイルスによる肺炎の影響

 

 

 

 中国の2020年の成長率(実質GDP成長率・前年比)を平均0.26%ポイント押し下げ。

 

 日本の成長率(前期比率)を1~3月期で平均0.46ポイント押し下げ。

 

 

 

 上記213日のESPフォーキャストでは、35名中22名が中国の成長率に、20名が日本の成長率の予測に、新型肺炎の感染拡大の影響を織り込んでいるとしている。

 

 その中身としては、中国の2020年の成長率(実質GDP成長率・前年比)を平均0.26%ポイント押し下げ(回答数21名)、日本の成長率(前期比率)を1~3月期で平均0.46%ポイント押し下げ(回答数19名)、4~6月期で0.06%ポイント押し上げる(回答数18名)としている。

 

 景気のリスクについては、「新型肺炎の感染拡大」が34名中32名と一番多く、「中国景気の悪化」が31名とそれに続いた。

 

 これらの影響が注目される。