○議員立法の研究
平成29年(2017年)3月の日本シティズンシップ教育フォーラム(J-CEF)第4回シティズンシップ教育ミーティングでの発表のレジメを次に掲げます。
この特集2については、順次内容を掲載していく予定ですが、このレジメは、特集4とも関係し、その全体像を簡潔に示す内容と なっていると考えるからです。
H29.3.19(日)9:30~10:10
「市民立法」から「草の根ロビイング」への展開とシティズンシップ教育
【1.主権者教育と立法】
(1)学校での主権者教育と国政の問題。
・平成27年(2015年)10月29日27文科初第933号「高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について(通知)」の「第3 高等学校等の生徒の政治的活動等」で「(略)法改正は、未来の我が国を担っていく世代である若い人々の意見を、現在と未来の我が国の在り方を決める政治に反映させていくことが望ましいという意図に基づくものであり、今後は、高等学校等の生徒が、国家・社会の形成に主体的に参画していくことがより一層期待される。(略)」と。
・社会の問題の解決は、様々な手法によりなされ得る。その中で、国政に関するもの、法律での対応が必要なものについては、立法による解決を目指すことが必要となる。
→「政策形成の仕組み」の理解と「具体的事象」の判断。
<立法学・立法過程論・・・もともとシティズンシップ教育的要素を持っていた。>
→法律による対応が必要な問題についても、その解決への思考を避ける訳にはいかない。
<実際に取り組むところまでできるかわからないが、「お上」に任せるだけではなく、「お上」を選挙で選ぶだけでもなく、自ら主権者として問題の解決に取り組む意識は重要。>
(2)社会も、多元的政策提言を必要とする状況にある。
① 国会の制度と政策の決定
・特に会期制と国会の運営方法に基づく法案処理の時間的制約の存在。大臣等政治家と官僚の省庁のグループは、限られた法案処理の時間の中で、自らの省庁の法案成立に全力を傾注する。
② 内閣官房、内閣府の拡大
・省庁の垣根を越えた問題への対応の必要性→内閣官房、内閣府の大幅な拡大。拡大の基礎となる基本法おいて、議員立法の割合が高い。→内閣のリーダーシップと議員立法の役割の増加。
(宮崎一徳「内閣官房、内閣府の拡大と議員立法の役割」『公共政策志林第4号』法政大学大学院公共政策研究科、2016年。http://ppsg.ws.hosei.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2016/04/59.pdf)
③「閣法」(内閣提出法律案)と「議員立法」(衆法、参法:議員提出(発議)法律案)
・平成になってからの「議員立法」提出の右肩上がり高止まりの状況。
・特に、平成10年以降における基本法、推進法等の増加。
→省庁の垣根を越えた問題への対応の必要性→議員立法の増加。役割の増加。
(3)役割が増加した議員立法を取り巻く状況
・限られた法案処理の時間をめぐって省庁間で競争が生じている中、官僚の推進力が期待できない課題
を政策アジェンダの上位に押し上げ、いかに議員立法に結実させ、そして国会で成立させるか。
・国会において、議員立法の取扱いを優先する提案はいくつかされたが、実現しておらず。
・議員立法の提出までを円滑にする民間の取組はあるが、それらが順調に展開したとは言えない。
【2.多元的専門性と「市民立法」から「草の根ロビイング」への展開】
(1)キングダンの「政策の窓(policy window)」と議員立法の成立過程
・政策過程は、「問題の流れ」、「政策の流れ」、「政治の流れ」が一つに「合流(カップリング:coupling)」したときに、特定のイッシューがアジェンダとして取り上げられ、特定の政策案が提示される。
・「合流」はなかなか実現困難で、「政策実業家(policy entrepreneur)」の尽力も必要となる。
(2)「市民立法」の動き
・「問題と流れ」に「政策の流れ」が加わる。平成8年(1996年)頃からの小田実氏らの阪神淡路大震災被災者支援のための「市民=議員立法」の運動が有名。実現させようとする施策を単に訴えるだけではなく、その施策を法律案の形で議員等に持ち込むもの。小田実氏らは「政策事業家」としても動き、「政治の流れ」との合流を図った。平成9年(1997年)の「市民立法機構」の設立。
(3)多元的専門性
①シンクタンク等
・平成9年(1997年)ごろから独立系シンクタンクが多数誕生し、政党系シンクタンクも誕生したが、それらの多くが活動を停止する等、日本のシンクタンクには、右肩上がりの成長というものはなかった。しかし、政策研究を扱うシンクタンクは、今日でもいくつかは存在している。
・同時期に大学に政策に関する部門ができ、日本公共政策学会の設立(平成8年(1996年))等も。
②NPO等
・平成28年(2016年)9月1日現在、認定NPO法人数は、51,260件を数える。日本の社会の多様化したニーズに応える重要な役割を果たす存在として、不可欠なものとなっている。
・政策のアイディアと公共サービスを提供する存在として、十分に資格を有するものとなった。
・社会の問題を事業により解決しようとする社会起業家に率いられる事業型NPOも登場。ソーシャルベンチャーと言われ、様々なビジネス手法の専門性を身につけるようになった。
・NPOの活動を専門性でサポートするNPOの存在。「プロボノ」活動、すなわち法律や会計、広報といった職業上の専門性を活かし、公益活動に無償で携わる活動が活発に。「政策の流れ」の担い手。
(4)「草の根ロビイング」への展開
・「政治の流れ」につながる「政策事業家」の動き。社会起業家駒崎弘樹氏ら。背景にあるソーシャルビジネスの考え。→社会における問題の解決を目指す事業を発展、継続させるための手法としてのロビイング。→(ア)理想より妥協してでも一歩前進をよしとする。(イ)官僚に対して強い拒否反応を持っていない。(ウ)事業の発展、継続のための業務として、継続的なロビイング活動が行える。
・駒崎氏、明智カイト氏ら、これらの動きの中心人物は30歳代。明智氏のロビイング勉強会のメンバーも20歳代、30歳代の者が。NPOという就職先選択も含め、若い世代が「社会を変えよう」と。
・シティズンシップ教育の展開→社会の問題にきちんと向き合う若い世代が増える。→ソーシャルビジネス、「草の根ロビイング」の成功例の存在。→政策提言活動の担い手増への期待。
【3.成立した議員立法の分析-「政策形成の仕組み」の理解から実践への展開-】
(1)成立した議員立法の「政策の窓」による分析。具体例検証。
・特定非営利活動促進法(平成10年法律第7号)
・被災者生活再建支援法(平成10年法律第66号)
・性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(平成15年法律第111号)
・自殺対策基本法(平成18年法律第85号)
・水循環基本法(平成26年法律第16号)
・民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律(平成28年法律第101号)
(2)立法過程研究とシティズンシップ教育
①勝田美穂『市民立法の研究』法律文化社、2017年。
・序章において、「本書の目的は、第1に市民立法の意義を学術的に検討すること、第2に市民立法を実現するための要因を明らかにすることである。(略)後者については、(略)成功するアドボカシー活動の秘訣を明らかにするといってよいかもしれない。」としている。
・勝田は同序章で「市民とは政治過程に遅れて参入を目指す潜在的な政治集団」とし、「個別利益ではなく公益を求めるもの、政治的資源に乏しく参入のルートをもつことができなかった社会的な弱者、集団形成による圧力を生む出すことが難しい少数者等を政治主体として想定」としている。
②認定NPO法人まちぽっとの「NPO法立法過程記録の編纂・公開プロジェクト」の取組。
・平成28年(2016年)3月12日のシンポジウムの趣旨には、「NPO法立法過程の記録は、単なる過去の歴史資料ではなく「NPOと政治」「議員立法」「市民主体のアドボカシ-」など現在及び今後の市民社会の形成や政策立案等に有益な内容を含んでいます。また立法過程を通じて、市民、市民団体、企業、行政が協働して、新しい社会を作り上げるために共同した社会的ダイナミズムをもう一度捉えることも重要だと考えられます」ということが掲げられている。平成29年(2017年)2月には、「NPOとシチズンシップ教育-NPO法制定記録を未来へ活かそう」シンポジウムも開催。
(「NPO法立法過程記録の編纂・公開プロジェクト」(http://machi-pot.org/modules/npolaw/index.php?content_id=8))
③明智カイト『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』光文社、2015年。
・駒崎弘樹・秋山訓子『社会をちょっと変えてみた』岩波書店、2016年。
・松原明『アドボカシーを成功に導く10のポイント』特定非営利活動法人シーズ、2012年。
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