○「政府特別補佐人」への変身!

 

 

 

 平成25年2月21日の参議院予算委員会。田中俊一原子力規制委員会委員長は、福島みずほ議員から答弁を求められていましたが、その質疑答弁の最中に「政府参考人」から「政府特別補佐人」に身分が変わるという珍しいことが起きました。

 

 

 

 肩書きが変わっただけと言えばそれまでですが、そもそも「政府特別補佐人」という制度は、どういうものなのでしょうか。

 

 

 

 帝国議会以来、国会において内閣を補佐するために、内閣が両議院の議長の承認を得て、国会の会期を通じて国会に出席する資格を持つ官僚(各省の局長、審議官クラス)を「政府委員」として任命するという制度がありました。

 

  「国会審議の活性化及び政治主導の政策決定システムの確立に関する法律」(平成11年法律第116号)の制定により、国会を直接国民に責任を負うべき議員同士又は国務大臣との間による政策論争の場にすべきであるという考えを反映すべく、平成12年の通常国会から、この「政府委員」制度は廃止されます。

 

  その後、政府職員が委員会に出席して説明、答弁を行うのは、行政運営の細目的、技術的事項にわたる場合に、委員会1回ごとに、いちいち誰々をという形で委員会で出席を求める「政府参考人」の制度によっています。議院規則の規定に基づくものです。

 

  すなわち、「政府委員」は、国会会期を通じて出席の資格が認められていたのですが、「政府参考人」は、1回の委員会ごとに、出席が決められます。

 

 

 

「政府委員」制度の廃止の際に、その例外的存在として作られたのが「政府特別補佐人」の制度でした。人事院総裁、内閣法制局長官、公正取引委員会委員長及び公害等調整委員会委員長の4者については、内閣から一定の独立性を有する機関の長であるとの特性等にかんがみ、「内閣は、国会において国務大臣を補佐するため、両院議長の承認を得て、(略)政府特別補佐人として本会議又は委員会に出席させることができる。」と国会法第69条第2項で定められました。「政府特別補佐人」は、例外的に国会会期を通じて出席の資格が認められる政府職員なのです。

 

 

 

「原子力規制委員会設置法」(平成24年6月27日法律第47号)は、与野党の修正協議により、原子力規制委員会を国家行政組織法第3条により環境省に設置される行政委員会として規定して、その独立性を確保しています。そうしたことにより、同法附則第7条において、国会法第69条が改正され、「原子力規制委員会委員長」が5人目の「政府特別補佐人」となりました。

 

 

 

「政府特別補佐人」は、通常、国会の冒頭に内閣が承認を求めてきます。民主党政権が一時「内閣法制局長官」の国会出席を求めず、「政府特別補佐人」としなかったことは話題になりました。

 

  平成24年にできたポストの「原子力規制委員会委員長」は「国会同意人事案件」ですが、田中俊一氏を委員長とする事後承認が遅れたため、「原子力規制委員会委員長」の「政府特別補佐人」としての内閣からの申し出も遅れました。参議院は議院運営委員会理事会での協議を経て平成25年2月20日に参議院議長から「政府特別補佐人」としての承認の通知を内閣に出しましたが、衆議院は21日に、同様な手続きを行うことになりました。

 

 

 

 さて、2月21日の参議院予算委員会です。福島みずほ議員の質疑に、田中原子力規制委員会委員長の答弁が求められていました。

 

  同日朝9時50分の予算委員会理事会では、その時点で田中氏は、「政府特別補佐人」として両議院の承認を得てませんでしたので、「政府参考人」としてその日の委員会への出席を求めることとし、委員会中に「政府特別補佐人」として衆議院議長が承認した通知を内閣が受け取れば、その後は、「政府特別補佐人」として出席して答弁してもらうということで、各会派、政府も了承して、委員会を開会することになりました。

 

 

 

 午前11時からの衆議院議院運営委員会理事会で、田中原子力規制委員会委員長を「政府特別補佐人」とする合意がなされました。その旨が衆議院議長に伝えられました。これで衆議院議長の下で手続きが行われ、承認の通知が内閣に伝わる段取りになりました。

 

 

 

  さて、委員会審査は続きます。そのうち午後2時半を過ぎ、福島議員の質疑が始まりました。まだ内閣から承認の通知を受領したという連絡がありません。

 

  田中原子力規制委員会委員長が予算委員長に指名され、答弁に立ちました。当時、その状況を見ていたのですが、私の時計で、午後2時43分にもまた答弁に立ちました。46分にも答弁しています。

 

  政府の職員が委員部のところに来ました。「午後2時45分に、内閣は、政府特別補佐人の承認の通知を衆議院議長から受理した」との報告・・・。

 

  そうです、朝の理事会での合意もあり、田中委員長は、「政府参考人」と「政府特別補佐人」の2つの立場で答弁をしたことになります。

 

  こうして、この珍しい事態が生じたのでした。

 

 

 

***(委員会会議録より)***

 

○福島みずほ君 この調査妨害は重要で、調べたいと国会事故調は言ったわけです。地震によって何が起きたか、津波によって起きたか、事故原因は地震か津波か。(略)

 

 この事故原因が明らかでなくて、新安全基準というのは作れるんでしょうか。

 

 

 

○政府参考人(田中俊一君) 先ほども申し上げましたとおり、全ての原因を明らかにするまでには相当長期の時間が掛かります。今私どもが取り組んでおります新安全基準は、各サイトごとに、例えば地震それから津波、基準値地震とか基準値津波というものをしかるべき有識者の協力を得て設定して、それに基づいた、各施設がそれに耐えられるかどうかということで今評価しようということで取り組んでおりますので、福島の事故は十分に踏まえつつも、そういったことで一般的な形で十分にそれをカバーしているような基準になっているというふうに考えております。

 

 

 

(略)

 

○福島みずほ君 事故原因究明はできていないというのが今日のお答えではないですか。一般論でしかできないんですよ。福島原発事故がなぜ起きたか、未解明の部分がたくさんあるんです。地震か津波か、現場に入るのが拒まれた、東電は拒否したんですよ、うそついたんですよ。だとしたら、この事故原因をきちっとやらない限り、新安全基準作れない、再稼働も、事故原因が明らかじゃないんですから飛行機は飛ばないんですよ。原発はなぜ動かせるんですか。

 

 

 

○政府特別補佐人(田中俊一君) 原発を動かすかどうかということではなくて、私どもの判断は、動かしても大丈夫かどうかという安全の判断をすることにしております。

 

 それで、福島の、先ほども申し上げましたように、地震とか津波とか想定されるほぼ最大の、これまで歴史上の最大のものを基準値津波とか基準値地震というふうに有識者の専門家の方の御意見をいただいて、それをベースに各サイトごとにその安全評価をしていくということで安全の評価をしようということでありますので、福島の事故原因が全て分からなければそういったことができないかというと、それは違うと思います。 (略)