○多元的専門性(②NPO等)

 

 

②NPO等

 

平成28年(2017年)9月1日現在、認定NPO法人数は51,260件を数える。法人格を有しないNPO(様々な社会貢献活動を行い、団体の構成員に対し、収益を分配することを目的としない団体)も含め、今や日本の社会の多様化したニーズに応える重要な役割を果たす存在として、不可欠なものとなっている[1]

 

 

 

ボトムアップの水平的パートナーシップの点で、政府側が設置した仕組みである「共助社会づくり懇談会」、その平成27年(2015年)の報告では、「「共助社会づくり」の力が最大限に発揮されるよう、活動現場からの視点に立ち、制度・仕組みの構築等に取り組む必要がある。」とし、課題と道筋が示され、個々の改善が目指されているこの報告書には、多数のNPOの活躍の事例が示されている。

 

 

 

大山は、与党議員の影響力増大という文脈で、「複数省庁間の調整を要する法案の増加も、与党議員の影響力を増大させる方向に作用してきた。多数の省庁に跨がる問題については、関係省庁すべての了解を得て法案を作成しなければならないが、日本では省庁間の横の連携が不十分であるため(縦割り行政)、調整は容易ではない。そこで調整役として与党議員が登場し、それぞれの省庁と関係をもつ族議員間の話合いによって、与党主導の問題解決が図られるのである。」と述べている[2]

 

 

 

族議員が、それぞれの関係のある省庁の利益を代弁するだけでは、調整はできない。足して二で割るというものだけではなく、本当の意味で適切な調整を行うためには、官僚機構が提供できるものを超えた政策のアイディアというものが時に与党議員に必要になってくるはずである。政策のアイディアと公共サービス提供能力を求める対象として、NPOは十分にその資格を有する存在となったのである。

 

 

 

官僚機構においても、「いかに効率よく施策を実現するかという観点から、NPO等とのつながりも出て来た。」とされる[3]

 

 

 

これらの例として、認定NPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹氏は、民主党政権下の「新しい公共」専門調査会推進委員となり、自民党政権下でも内閣府子ども・子育て会議委員(全国小規模保育協議会理事長の肩書きで)になった外、他のNPO関係者等が同種の会議の委員等として関与しているということがある。また任期付採用ということで、NPOや民間シンクタンクの関係者が政府の一員として働くこともある。

 

 

 

NPOは、概して言えば、社会における問題の解決をめざして設立されたものであるから、既存の制度・仕組みの中でその役割を十分に果たす場合、有益な公共サービスの提供主体となる。

 

 

 

中には、既存の制度・仕組みからはみ出さない範囲で、今までになかったやり方で問題を解決する事業を行うところもあり、それを行政が評価し、後追いし、そうした事業をよりやりやすくするような制度改革を行うこともある。NPOの中にはそうしたことを目指し、自分たちの役割と自負して行っているところもあると聞く。

 

 

 

問題解決の取り組みが、既存の制度・仕組みの中では十分に効果を発揮できないと考えられる時、実際、社会の変化の中で、そうしたことが多く出て来ているが、「共働社会作り懇談会」報告書にあるような、「活動現場からの視点に立ち、制度・仕組みの構築等に取り組む」こと、すなわち政策のアイディアの提供がNPOにも求められるのである。

 

 

 

行政とNPOが連携しながら改革を目指す場合は良いが、時として行政との連携の機会もなく行政主体で制度変更が行われようとするとき、あるいはNPOが制度変更を希望しても行政がなかなか動かない場合等、NPOからの「ロビイング」ということも出て来る。この点については、別に触れる。

 

 

 

NPOは、当該「活動現場からの視点」という一つの専門性を持つが、NPOが活動するには、その他に多様な専門性が求められたりする。そうしたサポートするNPOが「プロボノ」である。「プロボノ」とは、ラテン語で「公益のために」(Pro bono publico)の略語であり、法律や会計、広報といった職業上の専門性を生かし、公益活動に無償で携わる活動のことを言う。この「プロボノ」という言葉をつけた「プロボネット(プロボノ・コンサルティング・ネットワーク)」は、会社員として働く専門家と中小・ベンチャー企業/NPOとを結びつける仕組みを提供することで、中小・ベンチャー企業/NPOへの無償支援コンサルティングを実施している[4]

 

 

 

NPOの中には、社会の問題を事業により解決しようとする「社会起業家」に率いられている事業型NPOも存在する[5]。それらは、NPO以外のものも含めて、ビジネスの手法を取り入れて社会的課題の解決のために立ち上げられた団体やプロジェクトとして、ソーシャルベンチャーと言われる。そうしたソーシャルベンチャーには、様々なビジネス手法の専門性が必要となるが、この分野における「プロボノ」のネットワークの存在は、大変有益となる。

 

 

 

平成27年(2015年)9月、主にビジネス法務を本業としながら、そのスキルや知識を生かして、NPO支援等のプロボノ活動を積極的に行っている弁護士のネットワークであるBLP-Network(ビジネスロイヤーズプロボノネットワーク)の設立3周年記念イベントが開催され、ソーシャルベンチャーを支える税理士、会計士、弁護士等の各専門家ネットワークを立ち上げたメンバーによるパネルディスカッションが行われた。他の参加団体は、税理士の認定特定非営利活動法人NPO会計税務専門家ネットワーク、公認会計士のネットワークのAccountability for Changeである。

 

 

 

NPO自体が、それぞれの活動現場の専門性を持ち、多元的専門性を提供し得る主体であるのに加えて、プロボノという、政策の立案にも応用できる多元的専門性も登場してきた。これに、継続的な事業で社会の問題を解決しようとするソーシャルベンチャーが関わると、業務として継続的に政策提言を行っていける体制が実は成立するようになって来ているのではないかと考えるのである。

 



[1] 内閣府NPOホームページ(https://www.npo-homepage.go.jp/about/npo-kisochishiki/NPOiroha

「「NPO」とは「Non-Profit Organization」又は「Not-for-Profit Organization」の略称で、様々な社会貢献活動を行い、団体の構成員に対し、収益を分配することを目的としない団体の総称です。」

[2] 大山礼子『比較議会政治論-ウェストミンスターモデルと欧州大陸型モデル』2003年、岩波書店。

[3] 澤田陽太郎(一般社団法人)人的資源総合研究所代表の法政大学大学院における平成25年(2013年)10月10日の講義より。

[4] プロボノネットのホームページ(http://www.probonet.jp/aboutprobonet

[5]  「社会起業家」につき駒崎は、「レーガン政権が「小さな政府」の方針のもと、NPOへの補助金を次々と削減していった。それまで政府の保護を頼りに活動していたアメリカのNPO業界は、突如として活動を続けていくための資金を自分たちで稼いでいかなければならなくなった。」「その結果、アメリカのNPOは変貌を遂げた。経済的自立を果たすために、ビジネスの領域から人材やノウハウを輸入し、それまでの「運動によって社会問題を解決する」という姿勢から「事業によって社会問題を解決する」という方向にシフトしていったのだ。」「こうした組織はやがて「社会的企業/ソーシャルベンチャー(ソーシャルビジネス)」と呼ばれるようになり、事業を通じて社会的課題の解決に挑んでいく人々は「社会起業家」と呼ばれるようになっていった。」としている。明智カイト『誰でもできるロビイング入門社会を変える技術』光文社、2015年、58、59頁。