5.議会の対応

 

 

 

 

 

 

 

(1)特別委員会での審査

 

 

 

 行政に関する議会コミッショナー特別委員会(The Select Committee on the Parliamentary Commissioner for Administration)は、議事規則第126条により規定されている。

 

 当委員会担当官のユゼフ・アザート氏に委員会活動についてインタビューをする機会を得た。本項ではその際(平成8年1121日)の内容も交えながら整理している。

 

 

 

 a.特別委員会の権限・構成    

 

 

 

 (a)権限

 

 委員会の報告書の一番最初の頁には、委員会の権限についての記載がある。

 

()人や書類や記録を取りに行かせること、議院が休会の時にもそれを受けること、あちらこちらに移動して調査すること、時に報告をすること、

 

()容易に利用できない情報を供給するか、参照を求める委員会の諮問の範囲内の複雑な問題をはっきりさせるために、専門的な知識のある人を任命すること。

 

 

Q:委員会は 場所を変えて開催できるとある。

地方に移動して公聴会を開いたりするのか。また、専門的な知識のある人を任命できるとあるが、かつてそのような人を任命したことがあるのか。

 

A:「場所を移して行う権限(power to adjourn from place to place)」とは、

公式に委員会で、証人をウエストミンスター(議事堂)以外の場所で喚ぶ権限である。我々はそれを行使したことがない。委員会で移動し、いろいろな人に会うことはあるが、それらは非公式のもので、地方や海外で証人を喚んでの公式の会議を行ったことはない。表現としては古い言い方である。

 

   委員会が専門的な知識のある人を任命したことはない。これらの権限は、一般的に特別委員会に適用されるものである。医療委員会や農業委員会のような委員会では、スペシャリストやエキスパートの助言がよく必要となる。我々の委員会の調査では、スペシャリストのアドバイザーは、実際、オンブズマン自身である。彼や彼のチームが、非公開(private)の会議で我々と話をし、証人を喚ぶときには一緒に座っている。当委員会もそうした権限を持つが、我々は今までそうした必要性を生じたことはなかった。

 

 

 

 (b)構成

 

 ○委員

 

・9人の議員からなる。定足数3。選挙後推薦された議員は、次の選挙まで在任する。

 

・平成8(1996)年時点のメンバーは199212月2日に推薦された。委員長はジェームス・ポージー氏(保守党)で、同年1210日に選ばれた。

 

 ○スタッフ

 

・事務官(clerk)1(選挙後次の選挙まで担当)

 

・補佐(assistant)1(書類事務等を行う。別の2つの委員会の仕事もしている。)

 

・秘書(secretary)1(他の人と他の委員会の仕事も分担して行う)

 

 

A:スタッフは、いつも非常にぎりぎりで、多くの人員を持っているわけではない。

スタッフは、委員会の忙しさに基づき委員会ごとに決まってくる。前の立法期の当委員会は、そんなに活動的ではなかった。今立法期は、ずっと忙しくなり、メディアも興味を示すようになり、より頻繁に開かれるようになった。報告書も多く出し、ずっと重要になって来た。委員会は常に一人の事務官を持っている。しかし、今立法期が始まった時には、私は、事務官としてこの委員会だけを担当していたのではなく、いくつもの他の議事手続きに関する仕事を持っていた。しかし、委員会がずっと忙しくなり、重要になって来たので、私は、他の仕事をやるのを全て止めて、完全にこの委員会の担当だけの仕事をやっている。そうした意味でスタッフのあり方が変わって来た。すなわち、人数ではないが、この委員会のために私が使う時間が、以前の50%前後から、100%になったという意味である。(略)今後も、一人の事務官が、補佐と秘書を伴い、この委員会に専念することになろう。

 

Q:その補佐や秘書もあなたと同じような資格の職員か。

 

A:The Crelk of the House Departmentが人を採用し、

それからその部局が、等級の違いによリ、多くのスタッフの中から、誰をどこの委員会に割り当てるか決める。特定の委員会のスタッフという形で就職はできない。上級の職員が、どこの仕事をさせたら良いか、効果的な展開の視点から決める。

 

 

 

 b.委員会の開会

 

 

 

 委員会の所管については、やはり報告書の冒頭に次の記述がある。

 

(ア)議会オンブズマン、イングランド、スコットランド、ウェールズの医療サービスオンブズマン、北アイルランドオンブズマンの議院に出される報告書を調査する。

 

()それとともに、関係のある問題。

 

 

 

 (a)オンブズマンの事案の審査

 

 オンブズマンの事案を審査するものである。

 

 

A:委員会は、何をやるかにつき合意が必要である。

そしてまた、1967年以来の伝統であるが、我々は必ず年次報告書を審査することになっている。年次報告書に基づき、重要な問題が生じた特定の省庁や病院等より証人を喚ぶ。そして今でもそうしたやり方でやっている。それは、省庁や公共医療サービスにおける行政行為のよって立つところを審査するのに有効だからである。

 

   調査を行う別のイニシャチブをとっているのは、オンブズマン自身である。この海峡トンネル事案の報告(宮﨑が持参)も、その例であるが、彼はこうした特別報告を、より多く出版するようになった。特別報告は、個々の特別の問題に焦点を置いたもので、重要性がある場合や、多くの人々が被害を受けたりしたものである。オンブズマンが、特別報告の発行により、人々の関心を集めるよう決定したものである。委員会は、委員会自身で、特別報告に基づき証人を喚び、特別報告でなされていることを見ることになる。オンブズマン自身の仕事の仕方や、問題を一般の人々にあるいは議会に持って行くやり方が発展して来たことに応じて、委員会の仕事が大きくなり、発展してきた。特別委員会は、付託の観点から、オンブズマンの報告に答えなければならない。

 

 

 

 (b)オンブズマンをめぐる問題の審査

 

 幅広くオンブズマン制度に関することを議論するものである。

 

 

A:今、我々は、テーマによる調査(thematic inquiries)と呼ぶものをはじめている。

   それは、オンブズマンの報告の中から、たくさん出てくる論点、問題点について見てみるものである。我々がやったものの一つが、「不適正行政と救済について」である。政府省庁が、人々に被害を与えた時に、いかに補償をするかについてのものである。もちろん、多くのオンブズマンの報告からも、その論点は出て来るが、オンブズマン自身は、個々の事案の苦情に集中しなければならず、「私の経験からは、こういったことは問題である、不正な行為である、矛盾している」というような一般的な報告はできない。委員会は、全てのオンブズマンの個々の報告の結論を見て、一般的な勧告をすることができる。そして、実際、政府は、委員会の言ったことの、ほとんど全てに合意し、人々への補償の仕方等の制度を変えている。他の一般的な報告で我々が行ったものとしては「開かれた政府(Open Government)」がある。政府が持つ情報を人々が得る権利についてのものである。

 

 この中では、任命についても議論がなされているのは既に述べたとおりである(「1.(2)」参照)。

 

 

 (c)実際の委員会の運営

 

 

 

 

(委員会の日程)

 

A:スケジュールは、

一定期間の職務遂行についてのもの(年次報告)への責務という伝統的なものや、オンブズマンの特別報告への対応、そしてオンブズマンとの「我々は、数ヶ月の計画の予備があるが、より一般的な問題について、何か考えはあるか。私はこうした考えを持っているのだが、…」というような協議の中で行う、委員会単独で決める、より一般的な調査、等の混ざったものである。

 

 

 

(委員会開催)

 

A:どんな調査をやるかということを我々は話し合うことになる。

実際の委員会で生じることは、委員会ができる範囲であれば、私の関与を越えたものにもなりうる。我々の委員会は、定例日があり、私は、電話で、「この日は出席できますか。」等聞いたりしながら、委員会を設定している。

 

Q:日本の委員会には、それぞれ調査室があり、何を委員会で調査するかについては、そこも委員会を補佐し、一緒になって協議する。

委員会の日程は、理事懇談会(private meeting)でだいたい決まる。そこで決まると、我々は、委員長用の「お経」(script)を用意するが、そうしたものは作るのか。

 

A:ちょっと似たようなことはしている。

ブリーフ(brief)と呼ぶものを用意している。ブリーフには、問題についての簡潔な説明と、質問についての案がある。委員は、通常、そこから質問をしたりするが、自身で用意した質問をしたりもする。ブリーフの案に限定されているわけではない。報告書を読んで、自分で独自の質問をしたりもする。ほとんどの委員会では、クラークがブリーフを書く。それゆえ、クラークは、委員会を設定(organize)するだけではなく、調査研究もしている。

 

 議会コミッショナー特別委員会は、多少異なっている。委員会で、オンブズマンの報告書について、証人に質問をするときには、オンブズマンのスタッフがブリーフを作成する。

 委員会で、「開かれた政府」や「不適正行政と救済」と言った、もっと一般的な調査をする時や、オンブズマン自身に質問をする時には、私がブリーフを作っている。それは私のやることだ。

Q:日本で委員長用のものを作るのが私の仕事だ。

 

A:我々は、全委員用に、同じものを提供する。

 

Q:私が作るのは、もっと台本のようなものだ。

委員長は委員会の最初や終わりに、それを読みさえすれば良いようになっている。

 

A:ブリーフは、そうしたスクリプトとは違い、

全部の委員に配るもので、問題についての考え方の説明と理由、それに関連した質問等が内容で、証人を喚んだ時の資料となる文書(background paper)である。

 

Q:しかし、委員長は、いつも最初に「オーダー、オーダー。○○○・・・」と言うが。

 

  

      (アザート氏()と、特別委員会の報告書を手にする筆者)

 

 

A:彼は、それを知っている。

「オーダー、オーダー。本日は証人としてご出席いただきまして・・」という言い方を、彼は知っているので、私はそれは書いたりしない。

 

 

 

(プライベート(非公開の)・ミーティング)

 

Q:プライベートミーティングでは、どのようなことが話されているのか。

 

A:プライベイトミーティングでは、

委員会自体のあり方についての協議を行うもので、例えば、どんな調査を行うかとか、報告書の原案を検討したりとか、証人への対応とかである。公開の委員会では証人への質問を行い、プライベイトミーティングでは、内部的な委員会の協議を行うのである。プライベイトミーティングで証人を喚ぶこともできるが、当委員会ではやっていない。

 

 

 

(委員長のリーダーシップ)

 

Q:日本では、委員長は、委員会における審判のような役割があり、

自分の意見を積極的に表明することは、あまりないが、この海峡トンネル事案の会議録を見ると、委員長が、積極的に、自分の意見  表明を含みながら発言し、進行している。これは、委員長としての職責から来るものか、それともある程度は委員長であるポージー氏の個性によるのか。

 

A:その質問は、良いポイントであると思う。

私は、委員長は、それぞれ異なったスタイルを持つと思う。そこには特にルールはない。彼の委員長としての職責は、うまく議事を整理することもそうだが、個人的な、しかし重要な質問をするという一層の多様性を持っている。そして彼の見解を、他の委員の前に示す。彼の中立の立場は、採決が行われる時で、賛否が同数の場合のみ、委員長は投票を行う。その場合、彼はキャスティングボート(決定投票権)を握っている。委員会の同意を得る報告書の草案は彼の見解に基づき起草するものである。

 

 そう、委員長が一定の個性を委員会の協議に持ち込むことは、求められている。彼は、単純に中立なだけではなく、適度に会議を進行する。一定の範囲で委員会の活動を引っ張っていっている。

 

 

 

(委員会報告書について)

 

  (「海峡トンネル鉄道連結」事案の項参照)

 

 

 

(委員会調査と党派路線)

 

Q:日本では、与党議員が大臣を厳しく質問したりすることは、調査が目的とは言えなかなか難しい。

   最近のDavid Willetts大臣のthe Standards and Privilege Committeeにおける、委員会審査への圧力の有無についての証人喚問の時でも、与党保守党議員が厳しく質問をしていた。

 

A:それは、複雑な問題だ。

第1の、わかってもらわなければならないことは、当委員会では政策を見るのではなく、行政についての質問をするということである。委員にとって、政策についての質問より、自分たちの政府を攻撃しやすい。第2の点は、特別委員会はある程度、客観的で中立的なものにされているということである。議員が通常、党派の主張を離れて、彼らの考えに基づき委員会での決定や質問を行っているのは、事実である。いくらかの議員は、他の議員に比べてより独自の考え方を持っている。ウイレッツ閣外大臣に質問をした保守党のクエンティ・デービス議員などはその例である。そのような議員が充分いるので、特別委員会では、非常に追及的な質問がなされる。

 

Q:日本で苦情処理の制度等を導入した場合、

こちらの特別委員会のような制度も導入する必要があろう。その場合、委員会で、党派対立を超えた報告書を出せるかは分からないが、まとまった委員会の結論を出すことが何よりも大切であると考えるが。

 

A:まさにその通りである。

全ての特別委員会についてそうだが、特に当委員会についてその通りであるということを、我々はよく話す。特別委員会の制度は、ある合意された考えに基づいて動いている。もし全ての委員会の報告書が、保守党はこう賛成し、労働党は、別のように賛成したとなった場合、特別委員会の特徴は全くなくなる。本会議の討論ですれば良いことになる。特別委員会の特徴は、証拠(証人の話を)検討し、事案の功罪につき観念的、客観的、公平な見解に達することだ。

 

   なかなか言い方は難しいのだが、議会の中で、政党の力と、個々の議員の考え方の間には、常に緊張関係がある。そして、英国には、特別委員会の活動を効果的なものにしているだけの、充分な、独自の、自由な考え方というものが存在している。もしあなたが、日本では、もっと政党の支配力が強いと言うなら、私はなかなかコメントすることが難しい。特別委員会が、より力を持つ可能性  を持とうとするならば、議員が実際に、より独自に考え始めるようにし、しっかりチェックする質問をするようにしなければならないということは、事実であろう。それが最善であろうが、委員会を設立する前に、議員がより独自に行動するようになることを待つことはない。しかし、議員が独自に考える機会を確保する必要があろう。

   別のことで理解されるであろうことは、オンブズマンの制度が、彼に与えられている、彼に対する尊敬によって成り立っているということである。彼は大変上級の、経験豊かな役人で、事案を見るときに、非常に論理的、客観的に見ている。この海峡トンネルの事案では、政府は、オンブズマンの主張に同意していないが、忘れてもらっては困るのは、これは、オンブズマンの30年近くになる歴史の中で、2度目の事例で、大変希なものであり、政府はずっとオンブズマンの言うことに従っているということである。あなたの国で、オンブズマンの特別委員会を作るのならば、もし、政府がずっとオンブズマンの言うことを拒否し続けたら、そして、政府与党の議員が、オンブズマンを攻撃し、野党議員が政府を非難し続けていたら、オンブズマン制度全体が成り立たなくなる。私が言いたいのは、ある合意ができて来ているということである。それは彼が議会の役人であって、彼は全議会的な尊敬と支持を受けるべきであり、基本的に、非常に希な事案を除いて、オンブズマンの報告は、例えば、政府が「大変申し訳ありませんでした」と謝罪するものであって、「違う、違う」と言い続けることがないように、合意をされるべきものであるということである。日本ではどうなるか分からないが、こちらではそのように機能している。

 

 

 

  c.情報公開における役割

 

 

 

 英国における、政府情報の公開においては、議会オンブズマン及び議会オンブズマン特別委員会が非常に大きな役割を担う位置づけがされている。政府が出している「政府と個人:市民の救済の手段」という本には、次のように記述されている。

 

 

政府情報へのアクセスについての行為規範

 

(Code of Practice on Access to Government Information)

 

 1994年、市民憲章の、公的行政機関の開示と責任(accountability)の増大の原則に従い、政府は、政府情報へのアクセスについての行為機関を導入した。この規範のもと、議会オンブズマンの管轄にある政府省庁や機関は、次のようなことを求められるようになった。

 

-主な政策決定において事実や分析を与えること

 

-一般市民を扱う省庁の内部指導を開示すること

 

-行政決定についてその影響についてまで理由を与えること

 

-公共サービスの、費用、目標、業績、苦情とその救済について情報を提供すること

 

-政策、行動、決定についての具体的要求への応答としての情報を提供すること

 

 多くの省庁は、また、自発的にも情報を公開している。内国歳入庁は、その主な内部指導要領の幾つかを発表し、利用可能にし、そして残りについても発表する計画が始められている。社会給付庁は、給付と行政事項をカバーする全部で56の内部規約と要領を発表している。全ての、全省庁を合わせて、4万8千のそれまで閉じられていた記録が、開かれた政府の主唱の下で、見直しがなされ、開示されている。

 

 いくらかの省庁は、一般への情報提供をインターネットで始めている。例えば、大蔵大臣と英国銀行総裁の会談の記録は、蔵相の予算演説と報道機関への通知と同様に、インターネットでの利用が可能である。 この規範が一般的に見込んでいるものは、情報の公表を支持することであるが、与えられずにおかれている特定の情報を公共の利益が求めるとき、(その活用の)機会があるかもしれない。こうしたことが必要な場合、規範は、まず最初に、そうすることのための一貫した根拠を与える。これらは、国家安全保障、法律施行、個人的商業的な秘密、政府内部の討論と助言等の範囲をカバーする免除の形で行われている。

 

 規範は、規範とその免除が適当に適用されていないと、利用者(applicants)が感じた時に、独立した検討を許している。苦情は、議員を通して、議会オンブズマンに申し出されるであろう。オンブズマンは、苦情申立人に無料で、訴えについて、条文尊重主義的でない、独立した方針を与える。もし情報が不適当に与えられていなければ、オンブズマンにより議会に報告がなされる。議会コミッショナー特別委員会は、省庁や大臣を呼んで、規範に従い、情報を供給しないことの説明をさせる権限を有している。もし、オンブズマンが、苦情が正当であると認めるなら、オンブズマンはその情報が開示されるよう勧告できる。

 

 

 

 ただ、議会オンブズマンの1995年の年次報告書には、次のように、あまり情報公開に関する苦情がよせられていないということについての記載がある。

 

 

16.重要な増加を示さなかった一つの分野は、事前の予測は反対であったにもかかわらず、公式の情報へのアクセスに関する苦情だった。

 政府情報へのアクセスの実践のプログラム(「コード」)が、施行された1994年の最後の9ヵ月で、私はそのプログラムの欠陥につき、わずか28の苦情を受け取ったにすぎない。

 この「コード」が機能した2年目の1995年に、私は44のそのような苦情を受け取った。それが18パーセントの増加であり、絶対的な数が非常に低いので、私は非常に控えめな増加としてそれを見ている。()

 

 

   数が、なぜそのように低くなったのか?

 

 答えは、「コード」が提供する情報を得る機会の認識の一般的な不足と、公の無関心の結合と考える。

 

 これまでの経験では、国民は、単に図書館と情報案内所でパンフレットかリーフレットを調べることができるだけで、それがどれぐらい立派で正確であるとしても、その存在について、第一に国民が知ることが必要であるという初歩的な問題を克服していない。

 

 このような年報の内容や、開かれた政府というような主題についての特別委員会の審査についての勉強を自ら進んで行うような国民は多くはないということは、全く、理解できる。

 

 私をもっとも驚かせるのは、マスコミによる(報道)準備のための小さな使用である。

 

 議会オンブズマン事務局でのインタビューでは、「ほとんどの一般市民には、かなり難しいコンセプトかもしれない。時として、どういう質問を彼らが聞きたいかということを彼らはわからないでいる。」という見解も聞かれた。

 

 なお、平成9年1月現在の状況は、次のようになっている(議会オンブズマン事務局資料より)

 

 1994年4月から199612月の期間において、議員は総数で119件の情報へのアクセスについての苦情をオンブズマンに申し立てた。これらの苦情のうち66件は、調査に適さないものとして却下されたが、そのほとんどが証拠の欠如による。議会オンブズマンは26件について調査を完了している。そのうち17件については、是認され、9件は、苦情が正当なものとは認められなかった。苦情が正当とされているものは、適切に、求められた情報のいくらかあるいは全ての公開の確保が可能であったにもかかわらず断られたものであった。これら事案のいくつかにおいて、省庁は、手続きを変更し、一般への情報の公開を改善することも行った。一般的には、情報公開の行為規範は、一層開かれた政府を実現するために有効に貢献しているように見えるが、比較的少ない苦情の数は、多くの人々がまだそれを知らないことを示唆している。

 

 

 

 その他、情報公開に関しては、次のようなことがある(「政府と個人」より)。

 

 

公的医療サービスの開示(Openness in the NHS)

 

       政府の行為規範の手法と同様のものである、NHSの開示行動規約は、1995年6月から発効した。()

 

 

政府の活動(Workings of Government)

 

 1992年以来、政府の活動における不必要な秘密を取り除くためにいくつもの段階が踏まれてきた。1992年の5月に、内閣の委員会、小委員会、ワーキンググループの名前とメンバーが初めて発表され、この情報は6ヶ月ごとに更新されている。同様に、在職中に期待される態度に関するしきたりとルールについての大臣のために与えられる指導書の「大臣のための手続きに関する問題」が、1992年に発表された。

 1979年における下院の省庁別特別委員会の制度の拡張は、下院の平(バックベンチにいる)議員による精査のより有効な制度をもたらした。政府メモと、大臣と役人の審査を通しての委員会への情報の流れが、非常に増え、それにより、日々の政治的な問題についてのメデアと一般における論争への貢献が行われる。

 多くの政府の機能は、市民サービスの行政エージェンシー(外庁)によって実行されている。それぞれの外庁は、その理由と目的を示す枠組みの文書を発表している。加えて、外庁の事業の目標とそれに対する業績が発表されている。それぞれの外庁は、年次報告と決算を出版し、議員と一般市民にその推移についての情報を提供している。()

 

 地方政府も過去と比べてより開かれたものとなっている。(略)

 

 

 なお、労働党は、情報公開法の制定を求めているということなので、平成9年5月の英国総選挙の結果次第では、制度が変わる可能性がある。

 

 

(2)議員の対応

 

 

 

 a.自らが「選挙区民のオンブズマン」との意識

 

 

 

 私が英国在住中にいつも使っていた商店街は、ハムステッド・ハイゲートという選挙区に位置した。その選挙区選出の下院議員、グレンダ・ジャクソン女史(Glenda Jackson MP、労働党、影の運輸相スポークスウーマン)は、選挙区民向け年次報告書の中で、苦情の解決の状況についても言及している。オンブズマン制度の利用も含む、選挙区民からの苦情の扱いについて、彼女に手紙で尋ねたところ、次のような返事が来た。

 

 個々の事案については、プライバシーの問題があるので、お話できないのは御理解いただけると思う。ただ、選挙区民に関する最近の事案では、オンブズマンによる扱いが必要になる前に解決が見つけられているので、オンブズマンへの申し出が必要となったものはないということはお話できる。選挙民が問題を有した時、通常は、まず、関係する省庁に手紙を書いて、その問題の解決が図られる。オンブズマンへの苦情の申し出は、最後の手段と考えられている。それは、完結までに長い月日を要して行われる、不適正行政の主張についての掘り下げた調査を伴うものである。(1997314日付)

 

 

 議員にとって、選挙区民の問題を解決するのは、まず議員自らの手によってなされるべきものという意識が強いと思われる。こうしたことは、平成8年に行われた参議院議員団(団長:井上 孝参議院行財政機構及び行政監察に関する調査会長)による、ジェームズ・ポージー(James Pawsey MP)議会オンブズマン特別委員長へのインタビュー(717)で、ポージー氏が、「議員自身が選挙区民のオンブズマンと考えている」と明言していることからもわかる。「議員は選挙区ではオンブズマンであり、その段階で処理できない難しい事柄を議会オンブズマンに持っていくということであって、議会オンブズマンは二重安全装置(failsafe)として作用しているとともに、議員にとって問題解決の手段である。」

 

 

 

 b.間接アクセスとオンブズマンの位置づけ

 

 

 

 間接アクセスとオンブズマンの位置づけについての、上述インタビューにおけるポージー委員長の発言を拾うと次のようになっている。

 

A:議会オンブズマンの設置は、議員個人が人材資源を持っておらず、充分な調査ができないことによる。

その設置によって、議会の活動範囲が拡大されたと理解している。例えば、住民から租税について不満が出されたものを、国会議員を通じて議会オンブズマンに伝えることは、その現れである。

 

 成文法上の規定はないが、特別委員会と議会オンブズマンとの連携関係によって、議会は実質的には充分に行政を監視している。

 

 最近の事案をみれば、議会オンブズマンは海峡トンネル建設に伴う補償金の不満について運輸省に解決のための勧告を行ったが、受け入れられなかった。そこで、特別委員会では運輸大臣を呼んで是正策を質した。その結果、政策の見直しに向かっており、公平な解決をしている。

 

 議会オンブズマンの直接アクセスへの変更について下院議員の意識をみると、変更の必要なしが、58%、変更要求が38%、その他と回答している。

 

Q:選挙区の議員を知らない者、他の候補者を支持した者等は、国会議員に近づき難いのではないか。

 

A:私は保守党だが、選挙区全体を代表しているので、反対党の労働党の支持者の要請のものが多い。

 

 

 

 

<参考>英国議会における国政調査

 

 

 

 日本の国会における本会議は基本的に法案処理を第一とし、日程も、それに支障を来さないようにということで決められている感がある。委員会も法案を扱わないのは、参議院の調査会ぐらいだけで、なかなか法案から離れた国政調査のための委員会の開会は難しい。

 

 英国においては、時事問題その他現在の国政上の課題に関して与野党ないし個々の議員が論戦する制度が整備されている。議会による行政監視の視点から、これらの制度は重要だと考える。

 

 

 

○本会議

 

1.「延会討議(Adjournment Debate)

 

 延会動議(Adjournment Motion)をめぐって行われる討論である。本来は「これにて延会すべきかどうか」を議論するものであるが、そこから発展して、「このような重大な問題があるのに延会してよいのか」という意味で、実質的にその時々の時事問題に関する討議を行うものとなった。

 

 なお、これらは、イギリスにおいては、まず、政府与党、次に野党第一党の発議する議案を優先的に取り扱うのが原則となっているため、バックベンチャー(いわゆる平議員)の発議する案件は、後回しにされ会期の隅に置かれていることの結果である。延会討論には次の種類がある。

 

 

(1)日々の延会(Daily Adjournment)

 

 1日の議事の終了にあたって行われる討論であり、月曜から木曜まで通常午後10時過ぎから30分間行われる。さらに、水曜日の午前中にも行われる。議員は政府が責任を負う全ての事項を取り上げることができる。

 

 発言者はくじで決められる。30分の方は週に5回チャンスがあるが、くじを引くのは平均して10人くらいである。水曜日の午前中については1時間半ずつ2人が発言できるが、60人位がくじに参加する。

 

 

(2)休暇前の延会(Holiday Adjournment)

 

 年4回ある休暇前の最後の会議日は、伝統的にバックベンチャーらによって討論が行われる。この討論は3時間にわたって行われ、正式には休暇日程を決するものであるが、この機会に時事問題の討論が行われる。

 

 

(3)統合国庫基金法案審議後の延会(Consolidated Fund Bill Adjournment)

 

  3本の主要な統合国庫基金法案の審議終了後、翌日の早朝から午前9時まで延会討論が行われる。

 

 

(4)政府による延会討論(Government Adjournment Debates)

 

  バックベンチャーがイニシャチブをとる延会討論は、通常、議員が個人的な立場から関心を持つテーマが多く、時間帯の関係もあり、出席者は極めて少なく、政府側も所管大臣以外は出席しない。これに対して、重要課題に関する討論はむしろ政府のイニシャチブによる延会討論において行われる。

 

 

(5)緊急延会討論

 

 「緊急に考慮を要する特殊かつ重要な事項」を対象とする延会討議であり、議長の裁量により、認められる。この討論が要求されることは極めて多いが、認められるのは年2回程度である。バックベンチャーの要求で認められることもあるが、野党のフロントベンチャーの要求で行われる方が、より一般的である。

 

 

 

2.「野党日(Opposition Days)

 

 野党に討論の主題選択権が与えられる日。1982年に導入。以前の「歳出日(Supply Days)」から発展した。

 

 1会期(年間)の会議日のうち、17日間が野党第1党に、3日間が野党第2党に割当られる。野党はこの範囲内で、自ら選択した主題について、政府と議論を戦わせることができる。野党は与えられた日数を半日ずつに分けて使用してもよいし、1日に2つの主題について討論を行うこともできる。野党日の討論は、政府を何らかの点で非難したり、批判したりする実体的動議(新たな審議テーマを設定する動議 substantive motions)に基づいて行われる。これに対し、政府側は当該動議から政府に批判的な言辞を取り去り、政府に好意的なものに改める修正案を提出し、双方の案をめぐって討論が行われるが、結局は政府案が可決される。

 

 議決の内容は、議事速記録(Hansard)及び議事録(Journal)に記録される。重要なのは、討論であり、発言者の一般的立場の表明と公約である。

 

 

 

○省庁別特別委員会(Departmental Select Committee)

 

 

 

 1979年の議会改革に伴い創設された。政府活動の監督に資するため、各省庁に対応して設置されている常設の委員会である。

 

 その活動内容は、当該省庁、関連省庁部局及び公的機関の政策、予算支出を調査、検証することである。

 

 政府の役人、学者等が証人として喚ばれて、発言を求められる。

 

 委員の発言は、基本的に自由討論である。

 

 こうした調査、検証の結果は、年数回の報告書にまとめられる。それは、政府への勧告を含むものである。

 

 いわゆるバックベンチャーの議会における活躍の場の一つであるが、時々の問題を話題になっている時期に扱うことが多く、特にテレビ放送の開始後は審査と報告の内容に国民の関心が大いに集まるようになった。

 

 

 

 英国議会議事部副部長のポール・シルク氏はインタビュー(1997.3.6)の中で、特別委員会について、次のように話してくれた。

 

 

本会議は審議の場というよりショーと化しているという声もある。これに対して特別委員会はバックベンチャーのための審議の場である。特別委員会には立法機能がない点については批判があるが、立法機能を持てば政府の監督のための時間がなくなるという難点がある。

 

 

特別委員会には定数があり、通常は11人である。委員は総選挙後に指名される。委員は各政党の議員数に応じて配分され、現在は保守党6、他の野党5である。委員長も与野党に配分される。全議員のうち100人くらいは政府の職を持ち、60人くらいが野党のフロントベンチャーである。残りの議員が委員となるが、誰がどの委員会に属するかは個々の議員の希望を聞いて院内幹事が決める。その後、委員選考委員会、本会議にかけられるが、ほとんど実質的な審議はなく承認される。

 

 

特別委員会は政府の支出、政策などの監視の機能がある。しかし、特別委員会には何らの義務はなく、何もしなくてもよい。実際、活発な委員会とそうでなき委員会とがある。

 

 

通常4、5人のスタッフがおり、その他に外部のアドバイザーを使うこともある。常勤の職員は、4、5年で部署を変わるのが普通である。私の場合、procedure,journal,table,energy committee,home affairs committee,public bill等の部署に配属された。職員の研修は仕事を通してのものが多い。

 

 

テーマは政党間の話し合いで決める。実際は委員長と職員との協議結果を委員会にかけることが多い。

 

 

特別委員会は証人喚問、委員派遣などのあと報告書を作成する。証人が証言を拒否した場合、特別委員会の召喚命令が出される。それも拒否されれば、議院が召喚命令を出す。それを拒否すると議院侮辱罪で訴えることができるが、このようなことがなされた例の記憶はない。

 

 

報告書には少数意見の報告も記録できるが、政党間の一致があった方が効果があると思われる。従って、各党の意見の分かれない問題の方がやりやすい。最近は労働党と保守党の政策の差は少なくなって来ているので、まとまりやすいのではないかと考える。